玄関を開けた僕を見て、来夢は驚いた表情を見せる。
「とにかくすぐに僕の家へ向かおう。」
何やら慌てた様子の来夢は、そう言うとポケットから携帯を取りだし、何処かへ電話を掛け始めた。
え…?いや、目は赤いけど…。
そんなにヤバいん?…俺…。
来夢のただならぬ雰囲気に不安になる僕。
「あぁ…もしもし?
いつもお世話になっております。
私、神楽 来夢の父ですが。
息子と息子の友人のカイ君が揃って食中毒になりまして…。
えぇ…はい…。
申し訳ありませんが本日はお休みと言う事で。
はい…宜しくお願いします。
失礼します。」
?!Σ(゜Д゜)
コイツ…めっちゃ思わせ振りに携帯出して、学校に休む電話て?!
しかも…オトン語っとる…。
もしかして俺…そんなに大事に至ってへんのか?
僕はこの時、意外と冷静な来夢の行動に、自分の身に起こっている事の重大さがまだ分かってはいなかった。
「よし。
カイ…いくぞ。」
携帯をポケットに閉まった来夢が僕の手首を握り、唐突に走り始める。
「カイ?
全部無視しろ!」
僕の手を引きながら来夢がそう声を掛けて来たが、僕には何の事か分からない。
が…。
すぐにその言葉の意味を知る事となる。
来夢の家へと急ぐ僕達。
その道中には勿論、電柱や横断歩道があるのだが、そこには必ずと言って良い程、僕達二人を見つめる不気味な人の姿があった。
足の無い者、目が飛び出た者など、その容姿は様々だったが、間違い無くこの世の者では無いそれらが走り抜けて行く僕達をじっと見ていた。
「ら…来夢?!
あ…あれ…って…」
僕は次々と目に飛び込んで来る異様な者達に我慢が出来ず、来夢に問いかけた。
「無視しろって言っただろ?
あんなのは何処にでもいるただの浮幽霊か地縛霊だよ。」
やっぱり?!
浮幽霊に地縛霊て…。
僕は通りすぎ様に異様な者達を目で追ってみる。
「カイ?
アイツらと目を合わせるなよ?
自分達の事が見えていると思って憑いてくるからな。」
?!Σ(゜Д゜)
はよいうて!!
僕はそれから視線を下に落とし、手を引かれるまま来夢に着いて行った。
そして、やっとの思いで来夢の家へと辿り着くと、僕はそのまま仏間に通された。
そこには来夢の祖母が僕達に背を向け座っていた。
「おばあちゃん!!
カイが…カイの目が!!」
突然声を掛けられ、祖母は一瞬その身をビクっと震わせ、ゆっくりとこっちを振り向いた。
?!
「カイ君?!
あなた何をしたの?!
そ…その目…。」
こちらを振り返り僕を見た途端、祖母が取り乱す。
「い、いや…。
気がついたら目が赤くなってたんです…。
けど、痛みとか何も無いですよ?」
僕のこの言葉に顔を見合わせる二人。
「カイ?
お前まさか気付いて無いのか?!」
来夢はそう言うと僕の顔の前に手鏡を出して来た。
?!
「な…なんやこれ?!」
僕は驚きの余り、来夢の手から手鏡を取り上げ、更に顔へと近付け目を凝らした。
目…目が青い…。
昨日、母親に指摘され確認した時は確かに赤かった…。
その僕の目が一夜明けた今、青く変色している…。
まるで…来夢の様に。
「来夢?
これって…。
これのせいであの気持ち悪いヤツラ…。」
来夢は問いかける僕に、少し悲しそうな表情を見せる。
「あぁ…間違いない…。
お前のその目…どうやら僕と同じみたいだ…。
でも…何故だ?!
この目は…この目はお護りさんの…。」
来夢は訳が分からず、頭を抱えている。
頭を悩ませる来夢を見て、祖母が僕に問いかける。
「カイ君?
何か思い当たる節は無いのかい?
何も無いのに突然そんな事にはならないはず…。
何かおかしな事は無かったかい?」
祖母のこの問いかけに、僕は来夢に話した昨日の夢について語った。
「老婆ねぇ…。」
祖母は僕の話を聞いた後、納得出来ない表情でそう呟いた。
「おばあちゃんもおかしいと思うだろ?
確かにカイが体験した夢の話は普通じゃない…。
でもそれがその老婆の仕業だとしたら、カイのこの目…その説明がつかないんだ…。」
来夢と祖母は顔を見合わせて頷き合う。
「カイ君?
カイ君の身に起こった事は本当にそれだけかい?
その老婆に襲われる夢を見て、気付いたら目がその様になっていたと。」
祖母の問いかけに僕は記憶を辿るが、今話した以上の怪異は無かった…。
「やっぱり今言うた以外はなんも…」
?!
そこまで話した僕はハッとした顔で二人を見る。
それが直接関係あるかどうかは分からないが、もう一つ僕を襲った怪異があった事を僕は思いだす。
「これが関係あるかどうか分からんけど…。
老婆見る前に、もう一人見てるわ…。」
僕はあの老婆に対する印象が強かった為、すっかり頭から抜け落ちていたが、あの現象が起こってすぐに目にしたクロ―ゼットの中から覗く目の話を二人にした。
「お前を見ていた目か…。」
来夢は僕の話を聞き、何やら考えている様だ。
「あの〜?
僕、ちょっとヤバいですよね?」
僕は来夢が考え込んでいる間に、祖母に問いかけた。
「カイ君のその目は間違い無くお護りさんの影響によるもの…。
そう…来夢と同じ、人には見えない者が見えてしまう目…。
でも…カイ君には来夢と違ってソレらを祓う力が無い…。
それはカイ君にとって凄く危険な事になるねぇ…。」
そ…そうやんな…。
来夢はアイツらを祓える左目を持ってる…。
けど、俺はただアイツらの事が見えるだけ…。
これ…ホンマにヤバいな…。
「カイ君…。」
僕が青ざめた顔でそんな事を考えていると、祖母が涙声で僕の名を呼んだ。
「ごめんねぇ…。
来夢と関わったばっかりに…。
ごめんねぇ…カイ君…。」
祖母は涙を流し、僕に頭を下げる。
「ちょっと待って下さいって!
僕、この前言うたでしょ?!
僕が来夢と一緒にいるんは、僕が来夢と一緒にいたいからです!
目が青なったから言うてなんなんです?
カラコンて知ってはります?
カラ―コンタクト。
今時、目が青いヤツなんかいっぱいいますて(笑)」
勿論、強がりだ。
でも、僕は怪異の全てを来夢のせいにされるのがどうしても我慢出来なかった。
「カイ…。
お前…。」
いつの間にか考え事を止め、僕達の話を聞いていた来夢が微笑んでいた。
「ほんで?
考えて何か分かったか?
あのクロ―ゼットのヤツがお護りさんやったんか?」
「分からない…。」
僕の問いかけに来夢はそう答えた。
「あんだけ考えといて分からんのか〜い!!」
僕は無駄に明るく振る舞い、来夢の頭をはたいた。
そうでもしないと体の震えが抑えられなかった。
「すまない…。
多分お前が見た目がお護りさんだったと思う…。
でも分からないんだ。
今まで、一族以外の者がお護りさんを見たなんて聞いた事がないし、それも…一族以外の家でなんて…。」
どうやら来夢にも祖母にも僕の目に対する突破口は見つけられないみたいだ…。
「そうか…。
ま、まぁ考えても分からんのやったら考えるだけ無駄やな!
とりあえず様子見てみるか。」
僕は半ば開き直り、成り行きに身を任せる事にした。
「いや…そんな悠長な事は言ってられない…。
おばあちゃんが言ったように、お前にはアイツらを祓う力は無い。
でも、アイツらの事が見えるお前の元には次々にアイツらが近づいて来るんだ。
それじゃ、間違い無くお前の身が持たない。」
そらそうやろな…。
「カイ?
お前…暫く僕の家で暮らせ。
お護りさんの力のせいか、ここなら他のヤツが入り込んで来る事は無い。
だから、暫くここで暮らせ。」
「いや、そんな簡単にはいかんやろ?
暮らす言うてもいつまで掛かるか分からんし、そんな長い事、ウチのオカンが絶対認めよらへんて。」
この後、来夢が僕の母親へ連絡を入れたのだが、驚く程あっさりと長期外泊を認めたらしい…。
邪魔になったらいつでも返却して。とおまけ付きで。
そして僕は暫くの間、来夢の家でお世話になる事になった。
来夢や祖母は、毎日僕の異変に対する対処法を遅くまで調べてくれた。
僕はと言うと、来夢の言った通りこの家ではおかしなモノを見る事はなく、その余りに平穏な日々に自分の体の異変も忘れかけていた。
そして来夢の家に泊まって六日目。
完全に恐怖心が抜け、さすがに他人の家にもいずらくなって来始めた僕に事件が起こる。
いつもの様に、僕に用意された部屋で布団に潜り込み携帯をいじる僕。
時間は既に深夜一時を過ぎている。
携帯ゲームに夢中になっている僕の耳に不可解な音が聞こえて来た。
ズッ…ズッ…。
僕の部屋は障子戸になっており、長い廊下に面している。
その不可解な音はどうやら廊下の先から聞こえて来るらしい。
ズッ…ズッ…。
何となくその音はこっちへ近付いている様に感じる。
だが、ここは来夢の家。
来夢も来夢の両親も祖母も暮らしている。
深夜に誰かが廊下で何かをしていたとしてもおかしくも何とも無い。
僕は特に気にする事も無く、ゲームに意識を集中させた。
ズッ…ズッ…。
??
ゲームを止め、眠りにつこうとした僕の耳に再びあの音が届いた。
何気無く時計を確認すると一時四十分を指している。
ん?
さっきあの音が聞こえたんて一時位ちごたっけ??
ゲームに集中してたし分からんかったけど、もう四十分も経ってんのにまだ何かしてるんか?
こんな時間に…??
そう考えた時、不意に僕の中に恐怖が込み上げて来た。
いや…さすがにそれはないよな…。
しかも…さっきより音…近なってる…よな…。
そう思った時には僕の体は震え、障子から目が離せなくなっていた。
ズッ…ズッ…。
間違いなくあの音は近付いている。
ゆっくり…ゆっくりと…。
嫌な汗が額から流れ落ちてくる。
怖い…怖い…怖い…。
何か分からんけど、このままやったら障子に写ってまうやん…。
僕は暗い部屋の中、一人恐怖に震えていた。
そして、いつ音の正体が障子に写るのかと怯える僕の恐怖が頂点に達した時、僕は有り得ない行動をとってしまった。
頭から被っていた布団をはねのけ、急いで立ち上がった僕は、こともあろうか自ら障子を開け放ち廊下へと飛び出したのだ。
恐怖の余りパニックに陥っていたのだろう…。
「だ、誰や!!」
廊下に飛び出し、音の方へ向かって叫ぶ僕。
?!
「う"…う"ぎゃぁぁぁぁ!!!!」
作者かい
こんなん絶対嫌!