今回のお話しも知り合いの絵梨花さんから聞いたお話です。
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私はこの1年ポケモンGOというゲームにはまりました。
レアなポケモンを捕まえるために心霊スポットに入り、ひどい目にも遭いました。
ひと月前、深夜徘徊をして遂にプレイ禁止になりましたが、先日解禁されて懲りずに今もプレイしています。
その日、風邪気味だった娘を自宅に置いて私はトップレアな伝説のポケモンを捕まえるためにポケGO仲間の真央さんと街に出かけました。
伝説のポケモンが世界に降臨し始めて早数ヶ月、他のプレイヤーがどんどんと捕まえる中、私達は1体も捕まえることが出来ずにいました。
私達はまず人の集まりそうな某有名ショッピングモールに伝説のポケモンであるスイクンが降臨しているのを発見しました。
伝説のポケモンは10人ぐらいのポケGOプレイヤーが協力して戦わないと倒せないのですが、私達の住んでいるところは田舎なのでいつも共闘者不足で悩んでいました。
真央さんの神社にも伝説のポケモンは降臨したことが1度あったそうなのですが、わずか2人しか集まらなかったそうです。
あのショッピングモールなら人がいっぱいいるに違いないと思い、さっそく突撃しました。
私達はまずモールの中に私達と同じポケGOプレイヤーがいないか確認しました。
無課金だと1日に伝説のポケモンと戦えるのは3回ぐらいまでなので、そこで戦うかどうかはまずその場所に人が集まっているかひとまず確認しようと思ったからです。
しかし、ポケGOをやっていそうな人は1人も見当たりません。
そこにリュックサックを背負った歩きスマホの若いお兄さんがやってきました。
彼のスマホ画面にはポケGOが表示されていました。
「あの、ポケモンGOやっておられますか?」
いつの間にか真央さんはそのお兄さんに声をかけていました。
しかし、お兄さんは一言も答えず恥ずかしそうにエスカレーターを上に登っていきました。
「私、変な人に思われたのでしょうか?」
「真央さん、私のようなオタクは真央さんみたいな綺麗なお姉さんに突然話しかけられて上手く交流するスキルは持ってないの!」
「えっ、どういうことですか?」
「いや、いいです、それより私達の他にはあのお兄さん1人しかいないようですけど、他の人も来るかもしれませんし、とりあえず始めておきましょうか」
制限時間内に人が集まればいいので、いつも私は目立つところでポケGOやってますよと周りにアピールしながらプレイしていました。
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「えっ、11人いる!」
伝説のポケモンとのバトルを始めてみると、共闘プレイヤーが私達2人を含めて11人もいました。
私達のいたショッピングモールは吹き抜けのある3階建てでしたが、その場所は見通しがよく、とても私達の見えないところにあと9人もいるようには思えませんでした。
「真央さん、これっていったい」
「もちろん、こんな人の集まる場所ですから、霊的な存在も複数感じますけど」
「なんだろう、気味が悪い」
11人もいたのは初めてですが、実はこんなことは初めてではありませんでした。
周りにプレイヤーどころか人すらいないようなところでバトルに入ってみると近くに共闘者が存在することがよくありました。
結局、そのショッピングモールで伝説のポケモンのバトルには共闘プレイで勝つことはできたのですが、捕まえることはできませんでした。
その後、近くの大きな公園で同じく伝説のポケモンのスイクンが降臨していたので、私の車で向かいました。
期待通りに公園の外周に多くのプレイヤーらしき車が止まっていました。
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「待ってください、絵梨花さん!」
私もその車の列の中に止まろうとしたのですが、突然助手席の真央さんが鋭い声をあげました。
「ど、どうしたんですか、真央さん?」
「嫌な予感がします」
真央さんは深刻な表情でした。
「えっ、ええっ?」
「それに何か快くないものに視られている気配も感じます、ここではなく一旦公園の駐車場に止めましょう」
「公園の駐車場ですか、分かりました、真央さんの『予感』は当たるからなあ」
その公園は広い公園でしたので、駐車場まで行くとバトルのできるエリアまで行くのに少し歩かなければなりませんでした。
しかし、神社の娘さんで類稀なる霊感をもつ彼女の『予感』はこれまでまさに神のお告げとも呼べるほどの的中率を誇っていました。
私達が駐車場に車を止めて公園のバトルができるエリアに向かうとなんとパトカーが路上駐車の車を排除していました。
「真央さん、相変わらずすごいですね」
「ええ、まあ、でも普通に路上駐車はよくありませんよね」
屈託なく笑みを浮かべる彼女に少々寒気も感じながら、私はバトルに入ってみましたが、パトカーが車を排除したせいもあって、共闘プレイヤ-は4人しかいませんでした。
3回ほどバトルをしましたが、すべて時間切れで倒せません。
「ああ、やっぱり人数が足りないなあ、誰か来ないかなあ」
私が新たな共闘者を願っていると、制限時間終了まであとわずかのところでもう2人プレイヤーが入ってきました。
しかし、今回もその2人の姿はどこにも見えません。
私は時間も迫っていたので、余計なことは考えずに伝説のポケモンを倒しました。
そして幸運なことに捕まえることもできました。
「やった、やった、スイクン捕まえたよ!」
初めて伝説のポケモンを捕まえることができた私達は喜びはしゃぎながら公園の駐車場を出て、私は自宅の娘に電話をかけて報告しようとしました。
そのときでした。
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「はい、そこの車、端に寄せて止まってください」
後ろから覆面パトカーが私の車に警告をあげてきました。
運転中の携帯電話の使用違反でした。
私は激しく動揺しながらも路肩に車を止めました。
「はい、免許書見せてくれる、急ぎの電話だったの?」
「あっ、いや、ポケモンGOで伝説のポケモンを捕まえたのでそれを娘に報告しようと」
狼狽のあまり、私は正直に答えてしまいました。
「ふ~ん、スイクンをねえ、でも運転しながらはだめだよね」
私はカバンから免許書を出そうとしたのですが、最悪なことにいつも免許書を入れている財布を家に置いてきたままでした。
「えっ、免許不携帯、そりゃ悪質だねえ、パトカー来てくれる?」
私が観念して、パトカーに連れて行かれるその時スマホに着信がありました。
娘の椎奈からでした。
通話途中で切れてしまったので、かけ直してきたようでした。
出られないと思ったのか、私の代わりに真央さんが電話に出ました。
私は警察に捕まったことは黙っておいてほしいと真央さんに懇願しました。
こんなことが家族に知れればポケGOが禁止になることは確実でした。
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しかし、真央さんは涙を流しながら首を横に振りました。
「絵梨花さん、私達は道を間違えてしまったんです、ですからもうこんなことは終わりにしましょう」
「真央さん、私達親友でしょ、なんで裏切るんですか!」
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「いい、椎奈ちゃん、よく聞いて、お母さんは警察に捕まりました」
真央さんは最悪な形で娘に事実を告げてしまいました。
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「い、いやだ、私はまだこんなところで終わるわけにはいかない!
これからどんどん伝説のポケモンが出てくるっていうのに!」
「おい、いいから早く来なさい」
結局見苦しく抵抗するわけにもいかず私は大人しくパトカーに乗りました。
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「はい、答えたくないことは答えなくても構いませんからね、それじゃ名前と住所、それと電話番号教えてもらえますか?」
私は淡々と警察の人の質問に答えていきました。
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「はい、免許書照会できましたからね、それじゃここに拇印押してくれますか」
私は書類に拇印を押しました。
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「それでね、罰金7千円、悪いんだけど期限短いから、早めに郵便局とかで振り込んでくださいね」
優しい警察の人は免許不携帯の分は大目に見てくれたうえで、私は解放されました。
しかし、免許不携帯なので私の車を代わりに真央さんが運転してくれました。
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「うう、どんなお仕置きが待ってるんだろう」
今回ばかりはうちの旦那も土下座では許してくれそうにありませんでした。
「すいません、絵梨花さん、本当なら私が注意しないといけないことでしたのに」
「いえ、私達も舞い上がってましたから・・・」
「それで、狙われたんでしょうか?」
「・・・真央さん、どういうことですか?」
重々しく呟いた真央さんの言葉が気になり、私は言葉の意味を尋ねました。
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「・・・どうして、あの警察の人は公園で伝説ポケモンのスイクンが現われたのを知っていたのでしょうか?」
真央さんの指摘にはっとしました、聞き間違いではありません、警察の人ははっきりとスイクンという単語を口にしていました。
「私の単なる勘ですが、私達ポケGOプレイヤーは狙われたのかもしれませんね」
本当に推測ですが、真央さんの言葉には力が込められていました。
「ふふっ、そう考えるとあの時バトルで共闘してくれたのは警察の人達かもしれませんよ」
警察がポケGOプレイヤーを見張りながら、自分もバトルに参加する、そんな真央さんの『勘』に私は身震いせずにはいられませんでした。
作者ラグト
今までポケGOシリーズを閲覧していただきありがとうございます。
これまでこのシリーズは実体験を基にして書いたお話が多かったのですが、今回のお話は全くの創作です。
つまり想像で書いていますので、現実とは違う場面が見受けられるかもしれませんが、ご容赦ください。
ちなみに今回のお話の中での私の疑問について、裏事情など知っておられる方がいらっしゃったら教えてほしいです。
それでは最終回になるかもしれないポケGOシリーズ第8話インヴィジブルプレイヤーです。