ある日の昼過ぎ━━。
女は長い仕事を終え、勤務地を出た。
落ち着いた色のビジネススーツに身を包み、肩より少し長めの黒髪をなびかせて颯爽と歩く姿は、正に『デキる女』の生ける見本のようだ。
女はビルの大きなショーウィンドウに映る自分を見て、サッと手櫛で髪を整えると、また歩きだす。
最寄駅近くの商店街に差し掛かった時、中年の女性の悲鳴が轟いた。
「ドロボー!!」
声に気づいた女が視線を向けた方から、キャップを目深に被った男が自分に向かって走ってくる。
その手にはラフな格好に似つかわしくない女性物のハンドバッグが抱えられていた。
白昼堂々の引ったくり犯だ。
女は身をずらして左に避けると、右手で男の腕を掴み、上へ跳ね上げると同時に、足を男の後方へ払った。
カコッ!
軽い割にはよく響く音と共に、男はコンクリートの上にねじ伏せられた。
あまりにも流れるような動きで、周囲も一瞬固まったが、男の悲鳴で再び時間が動き出す。
女は近くのビジネスマンにぶらりとなった引ったくり男の腕を託し、中年女性のお礼に笑顔で手を振ると、何事もなかったかのように歩きだした。
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地下鉄の入口を降り、女は電車に乗った。
いくつかの駅を通り過ぎ、電車を降りた女が駅を出ると、少し歩いた路地で三人の男子学生が一人の男子高校生を囲んでいるのが見えた。
気弱そうな男子高校生が恐る恐る財布を取り出し、男子学生に差し出すと、それを受け取ろうとした手首を女がキュッと掴む。
コキンッ!
小気味良い音と共に、男子学生の手首がだらしなく、ぷらんと垂れ下がった。
手首を外された男子学生が叫ぶのと同時に、女は他の二人の男子学生の太股に膝をめり込ませると、男子学生達はその場から動けず、へたり込む。
女は空いている手でスマホを操作し、近くの交番から警官を呼んだ。
男子高校生からの感謝の言葉に愛想よく応対しつつ、女は到着した警官達に男子学生の身柄を引き渡すと、また何事もなかったかのように歩きだす。
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そして、女は近くのオサレなカフェに入り、テラスでお茶を飲み始めた。
スマホを片手にのんびりお茶している女に、長身のイケメンが声をかける。
「ごめん、待たせたかな?」
イケメンが言うと、女は乙女のようにはにかんで答えた。
「うぅん……ウチも今、来たトコ」
女はイケメンと連れ立ってカフェを出る。
「今晩、何食べたい?」
「コダチが作るのは何でも美味しいからなぁ」
「ほんなら、タコパする?」
「いいねぇ!」
仲睦まじくじゃれ合う二人は、スーパーに入っていった。
女の名はユキザワコダチ……既婚。
警察庁キャリアで怪異事案特別捜査室室長。
得意技は関節外し、etc……。
悪の前では血も涙もない鬼と化すが、旦那様にはデレデレの究極のツンデレラであることは、誰も知らない━━。
作者ろっこめ
これを持ちまして、少しの間だけ急筆したいと思います。
何か書けたらまた投稿しますので、その時はお目汚し失礼いたします。
ネタをいただけたのに、巧く形にできない己の不甲斐なさに、落ち込んだりもするけれど、わたしは元気です!