「ユウタ、起きてるか?」
「ほーい、まだ起きてるぞ」
「いやあ、今日は参ったよ」
「なんだよ」
「例の俺が金づるにしてたオバサンいるじゃん?」
「ああ、あの30代後半の若作りの?」
「うん、アイツさ、今日俺に結婚申し込んできたw」
「マジ?wウケるんだけどwww」
「なんかさ、単身赴任の旦那が帰ってくるらしくて」
「ああ、月末だけ、帰ってくるって言ってたな」
「うん、旦那が居ないのを幸いにうちのホストクラブに通ってて」
「お前ばっか指名してたもんな」
「まあ、たまには店外デートしてやったからな」
「それで勘違いしたんじゃねえの?何で同伴にしなかったんだよ」
「まあ、いつも指名してくれるサービス?」
「お前、何か気を持たせること、言ったんじゃない?」
「まあ、それはリップサービスよ」
「何言ったんだよ、お前」
「あっちがアタシのこと、好き?って聞くから、好きだよって」
「それ、サービス過剰~w」
「そっかなあ?」
「そりゃあれくらいの年代はさ、旦那からもそんなの言われない世代だぜ。
本気にしても、仕方ねえよ。んで?ヤっちゃったのか?」
「うん」
「バッカだな~、そりゃあもう期待しまくるでしょ」
「でもさあ、俺、まだ25だぜ?本気で、30後半のオバサン、相手するわけないっしょ」
「あれくらいの年齢ってさ、自分の衰えに焦ってるから」
「って言ってもさ、既婚者だぜ。離婚するから結婚してってあり得ないっしょ」
「まあな。まさか、だよなw」
「しかも、俺のこと、タッくん、タッくんって呼んで気色悪い」
「タッくんw誰も呼ばねえw」
「自分の彼女も、タクヤとしか呼ばないのにな」
「んで、どうやりすごしたのよ」
「結婚してって言われたから、無理って言った」
「それで?」
「そしたら、アイツ、駅で大泣きして、俺を責めた」
「は?マジかwご愁傷さまw」
「大きな声で、アタシのこと好きだって言ったじゃんとか、どれだけ貢いだと思ってるとか」
「そう言えば、あのオバサン、うちのホストクラブ通うのに、スナックかなにかでアルバイトしてたんだっけ?」
「ああ。キャバ嬢でアルバイトしようと思ってたらしいけど、さすがに無理だったらしいw」
「だよな。いくら若作りしても、あの顔と体型じゃあw」
「ああ。それも、別に俺が頼んだわけじゃねえし」
「だよな」
「アイツが勝手にうちの店に通いたくて始めたんだし、俺が欲しいって言った物も、勝手にアイツが買ってくれたわけだし」
「なんだよ、おねだりまでしてたのか?」
「まあ、買ってくれとは言ってないから。ただ、これいいよね~って言ったら、次に会う時には買ってくれてる、みたいな?」
「悪いやつだなー、お前」
「そうか?でも、旦那いるのに、浮気してるアイツも悪いやつだろ?」
「確かに」
「それをさあ、勝手に勘違いして本気になって俺と結婚したいだとか」
「ありえねえ~」
「で、大声で泣き喚くから、恥ずかしくなって、終電が偶然来たから飛び乗ったってわけ」
「マジか。でも、この時間に終電ってあったっけ?」
「あ?何言ってんだ?まだ11時半だぜ?」
「ん?今、真夜中の2時だぜ?お前の時計、狂ってね?」
「マジ?いやいや、ありえねえ。スマホの時間も11時半だし。逆にユウタのほうの時計が狂ってるんじゃね?」
「いや、こっちは間違いないよ。だって、俺が店出る時、もう1時回ってて、今見てるスマホの画面も2時だもん。」
「じゃあ、俺と2時間半くらいズレがあるってこと?」
「そうなるのかな?」
その時、電車内にアナウンスが響いた。
「この電車は、きさらぎ行きです。途中駅、止まりません。」
「えっ?」
「どした?」
「今さ、電車のアナウンスで、この電車、きさらぎ行きだって。途中駅、止まりませんって」
「きさらぎ?そんな駅、あったっけ?」
「さあ~?俺、乗り間違えちゃった?」
「女に責められて、焦って乗るからw」
「でも、いつものホームだから、間違いようはないんだけどなあ」
「ちょっと待って。きさらぎ駅、調べてやるから」
「うん」
「なあ、調べたけど、きさらぎ駅なんて、どこにもないぜ?」
「えっ?マジ?」
「うん」
「ちょっと俺のほうでも調べてみる。きさらぎって地名で見てみるわ。」
「ああ」
「ちょっwきさらぎ町って、岐阜だし。しかも、その名前の駅すらない」
「ありえねえ。本当にきさらぎって言ったのか?」
「ああ、間違いない」
「いったい、この電車、どこに向かってんだ?」
「周りに誰かいねえのかよ」
「居ることには居る。なんか覇気のないサラリーマンと、不気味な婆さんw」
「じゃあ、その二人に聞いてみればわかるんじゃね?」
「ああ、ちょっときいてみるよ」
「すみませーん、きさらぎってどこなんですかね。俺、電車乗り間違えちゃったみたいで」
「・・・」
「ヤベエ、婆さん、耳が聞こえてねえみたい」
「しゃあねえな、じゃあサラリーマンに聞いてみれば?」
「すみません。きさらぎってどこですか?その駅からどうやったら東京まで帰れます?」
「わからない。そんなことは終点で聞いてくれ」
「は?」
「おい、ヤベエぞ。サラリーマンもまともじゃねえ。」
「どういうことだ?」
「わからないってさ」
「じゃあ、そのサラリーマンはどこに行くかもわからねえ電車に乗ってるってこと?」
「そうらしい」
「酔っ払ってんのか?そいつ」
「酔っ払ってるってより、なんか目つきがヤバイ」
「そっかあ。そりゃ関わらないほうがいいかもな」
「いきなり刺してきたりしてなw」
「じゃあ仕方ないから、そのまま終点まで乗るしかねえだろ」
「あ、そうだ。携帯のGPSでマップ調べりゃわかるんじゃね?」
「だな。」
「んん?んんんん?」
「どした?」
「GPS,出発点の駅のままになってるw」
「お前、地下鉄乗ってんの?」
「いや、確か普通の電車のはず」
「それじゃあ、場所はわかんねえな」
「まいったな」
「窓の外、見てみろよ。なんかランドマークあるかも。」
「うーん、真っ暗だな」
「街の灯りくらいあるだろ」
「それがさあ、真っ暗なんだよ。マジ、ここどこ?」
「建物は、見えないのかよ」
「それがさあ、なんかビルとかなくてさ。ひたすら古びた民家ばっか」
「いくらなんでも、それはないだろ。東京だぜ?」
「だよな。なんか不安になってきたら、喉渇いてきた。」
「あ、そうだ。車掌いるだろ、車掌。聞いてみれば?」
「あ、そうか。ちょっと探してくるわ」
「すみません、すみませーん」
タクヤは車掌室の窓を叩く。
「・・・」
「ちょっと!聞きたいことあるんだけど!」
「・・・」
「ダメだ。車掌、居るんだけど無視された」
「は?なんで?」
「わかんない。いくら窓叩いてもガン無視された」
「ちゃんと大声出したのか?」
「ああ、窓もガンガン叩いてるんだけど、まるで聞こえてないみたいに反応が無い」
「どうなってるんだ、その電車」
「わからん」
「ちょっと車内の写メ送ってみろよ。何か手がかりあるかもしれない」
「うん、わかった」
「なんだこれ」
「どうだ?写メ、送ってみたけど」
「何にも写ってねえ」
「まさか!俺のほうのスマホデーターにはちゃんと車内の様子が写ってるぜ」
「なんにも写ってねえって。真っ赤に塗りつぶされた画像が送られてきた」
「嘘だろ?もう一回送るから」
「ダメだ。また真っ赤な画像だぞ」
「なんで!こっちの画像には、ちゃんと俺の正面に座ってるサラリーマンのオッサンと婆さん写ってるし。」
「お前、その電車、ヤバイよ」
「なんでヤバイんだ?」
「ググってみろよ」
「あっ、これって、噂の」
「ああ、有名な都市伝説のやつ」
「嘘だろ!おい!あんなものはでっち上げだよ」
「でも、おまえ自身、聞いたんだろ?アナウンス」
「聞き間違いかもしれねえ」
「じゃあ、聞いてみろよ」
「なあなあ、おばあちゃん、この電車はどこ行きなんだ?」
「あぁ?きさらぎ行きだよ。」
「今度は、耳、聞こえたのかよ。きさらぎって何県なんだよ。」
「さぁ~ねえ。」
「さあねえって・・・・」
「ダメだ。婆さんに聞いてもどこかよくわかんねえけど、きさらぎ行きには間違いないらしい」
「マジか。ちょっと待ってくれ。確か、きさらぎ駅に降りちゃダメだって書いてあった」
「降りちゃダメったって、終点なんだから降りるしかないんじゃ?」
「んn やみ つぎ かた 」
「は?どうした?」
「 かた ダメ」
「もしもーし、文字が表示されてませんよー。どした?」
「あ、あれえ?アプリ落ちた!」
「ちょっ、どうなってんだ?」
「あー、ダメだ。ユウタとつながらなくなった。こうなったら彼女に電話・・・えっ?」
「何で圏外なんだ・・・」
「っと、圏外なのに、なぜかSNSは繋がる?」
「たくや@takuya225 なんかきさらぎ駅に向かってるらしい。助けて。」
「だんご@hanahana 嘘っ!マジで?」
「たくや@takuya225 どうやったら助かる?」
「ゆさ@newyoku 噂では、きさらぎ駅で降りるなとか、あと寝るなとか」
「だんご@hanahana あと、自分の名前、忘れんな!」
「たくや@takuya225 まあ、これが繋がってる限り大丈夫だ。しかし、自分の名前忘れるとかないだろ」
「ゆさ@newyoku じゃあ、自分の名前フルネーム、言える?」
「たくや@takuya225 ここじゃ言えないw」
「ゆさ@newyoku じゃあ心の中だけで呟いてみて?」
「たくや@takuya225 あれ?何、たくやだっけ?」
「だんご@hanahana おい、それかなりヤベーんじゃないの?」
「U太@ultimateU タクヤ!大丈夫か?」
「たくや@takuya225 おお!ユウタ!なんでさっきチャット落ちた?」
「U太@ultimateU 信じられないかもしれないが、チャット途中で字が表示されなくなった。」
「たくや@takuya225 マジ?あり得ない。」
「だんご@hanahana おお、これはマジもんっぽいな。」
「U太@ultimateU とにかく、きさらぎ駅で降りるな!そのまま電車、乗ってろ!」
「ゆさ@newyoku あ、でもきさらぎ駅の後のやみ駅もかたす駅でも降りちゃダメだそうです。」
「たくや@takuya225 え?でも電車はきさらぎが終点なんじゃ?」
「ゆさ@newyoku よくわからないけど、その先に行った人もいるらしいです。」
「U太@ultimateU とにかく、名前を忘れない、駅に降りるな!」
「たくや@takuya225 うん、わかった。でも、マジ、苗字なんだっけ?」
「U太@ultimateU ここ匿名だけど、お前の名前、書いていいか?」
「たくや@takuya225 非常事態だから、仕方ないよ。いいよ。」
「U太@ultimateU お前の名前は だ!」
「たくや@takuya225 ちょっと待って、表示されてないんだけど。」
「だんご@hanahana おお、本当だ、表示されてませんよー、U太さん?」
「U太@ultimateU あれっ?確かに打ち込んだのに、おかしいな。もう一度。お前の名前は 」
「だんご@hanahana 表示されてないぞ。二人で俺らを騙してんじゃね?w」
「たくや@takuya225 いや、マジで困ってるんだけど、俺」
「たくや@takuya225 それよか、さっきから猛烈な眠気と喉の渇きが」
「ゆさ@newyoku あ、車内販売とかで飲み物とか買っちゃだめですよ!飲んだり食べたりしたら、こっちに戻れなくなるらしいです。」
「たくや@takuya225 マジで?あちらからなんかお姉さんが台車押してきたwありえねえ。」
「U太@ultimateU いいか、タクヤ、絶対にその台車の商品を買って飲んだりするな!それと、そのお姉さんに話しかけられても、返事しちゃダメだぞ?」
「たくや@takuya225 もう話しかけられちゃった。」
「U太@ultimateU マジか!返事しちゃったの?」
「たくや@takuya225 うん」
「だんご@hanahana ああ、マジか。やっちまったな。」
「ゆさ@newyoku とにかく、何言われても、これからは無視して!」
「アンドー@un-doフォロー外から失礼します。以前、〇ちゃんねるのスレッドで呼んだことあるのですが、煙を出すと、帰ってこれるらしいです。何か、燃やすもの持ってませんか?」
「たくや@takuya225 ねえよ、そんな物。俺たばこ吸わねえし」
「アンドー@un-do うーん、そうなんだ。」
「たくや@takuya225 どうでもいいけど、物凄い眠いわ」
「U太@ultimateU ダメだ!寝るな!戻れなくなるぞ!」
「たくや@takuya225 あ~、猛烈にコーヒー飲みてえ。電車内で売ってるのになあ。」
「ゆさ@newyoku ダメですよ!絶対飲んじゃダメ!」
「たくや@takuya225 もーアレだめ、これだめって。その噂は本当に確かな話なの?」
「ゆさ@newyoku そう言われれば、ネットで見ただけですけど」
「だんご@hanahana でもさ、最善は尽くすべきだぜ。帰って来たいんだろ?」
「U太@ultimateU そうだぞ、タクヤ。我慢しろ。そして戻って来い!」
「たくや@takuya225 ああ、わかった。足でもつねって眠らないようにするわ。」
「たくや@takuya225 あ、ヤベエ。スマホの電池残量、20しかねえw」
「U太@ultimateU それはヤバイな。節電するために、しばらく画面落としといたほうがいい」
「たくや@takuya225 ああ、わかった。何かあったら知らせる。」
「U太@ultimateU いいな、みんなの言った事、守れよ。」
「だんご@hanahana 健闘を祈る!生還しろよ!」
「たくや@takuya225 サンキュ」
「まもなく、きさらぎに到着します。」
「ま、マジか。」
「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」
「や、やめろよ、婆さん、縁起でもねえ」
「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」
「よせって言ってるだろ!」
バタン!お経を唱える老婆の前にはだかるタクヤの後ろで、派手な音がした。
「お、おい、アンタ大丈夫か?」
「あ」
「うわっ、オッサン、なんか足折れてる!うわっ!腕も変な方向に折れてる!」
そこには、あらぬ方向に手足が折れ曲がったサラリーマンが倒れていた。
「ちょっと、車掌さん!怪我人!早く来て!」
「つぎはぁ~、やみ駅ぃ~。」
「おい!終点じゃねえのかよ。おい、こら車掌!いい加減にしろよ、てめえ!」
タクヤは、運転席の窓を叩いて破壊した。
すると、車掌と運転士がゆっくりと振り向いた。
「わあああああああ!」
運転士と車掌の眼孔には目が無く、闇が穿たれていた。
そして、その闇の中から無数のウジが湧いて出てきた。
タクヤはその場で気絶した。
気がつくと、タクヤは、自分のアパートの最寄の駅のベンチで寝ていた。
「よかったあ。帰れたんだ、俺!」
「携帯、やっぱ電池切れてるかあ。帰ってみんなに連絡しよう。心配してるといけないから」
「あれはなんだったんだろ。悪い夢かな。ようやく我が家についたわ。」
「あっ、お帰りぃ、タッくん。」
「おい、何でお前が居るんだよ」
「何でってw奥さんだからに決まってんじゃん?」
「ふざけんな。どうやって入った。」
「どうやって、ってカギを開けて」
「ナメてんのか?いつ俺に黙って合鍵作った!」
「何言ってるの?タッくん。一年前に渡してくれたじゃん。」
「お前みたいなオバサンに渡すわけねーだろ!」
「ひどーい、タッくん。年なんて関係ないって言ってくれたじゃん」
「あれは営業用語だよ。出てけよ!」
「なんでそんな酷いこと言うの?私達夫婦じゃない。」
「はぁ?いつそんなこと言ったよ!結婚は無理って言っただろ!」
「静かにしてよ、タッくん。ユウトが起きちゃうでしょ?」
「ユウト?」
「おんぎゃあ!おんぎゃあ!」
「ほらー、もう。タッくんの所為だからねー。」
「何で赤ん坊の泣き声がすんだ?」
「何言ってるの。私達の愛の結晶じゃない。」
「はぁ?何ねぼけてんの?」
「寝ぼけてんのは、タッくんだよ。このあいだ生まれたばかりじゃん、ユウト」
「聞いてねえ」
「タッくんが、ユウトがいいって言ったじゃん。名前!」
「ふざけんな。すぐ、そのわけのわかんねえガキ連れて出て行け!」
「酷いパパでちゅねえ~ユウト。ほら、こんなにパパに似てるのにね~。」
「全然、似てねえよ」
「えー、そうかなあ。パパの元の顔に似てるよねー。」
「も、元の顔ってなんだよ」
「アタシ、知ってるんだよ~。タッくんが偽のイケメンだって~。ホストになる前に整形したんでしょお?」
「そ、そんなわけないだろ!ふざけんな!」
「でもいいんだ~。アタシそういうの気にしないから」
「とにかく出てけ!」
「まあ、落ち着きなさいよ。紅茶でも淹れるね。」
「いらねえよ!」
「ほら、新聞でも読んで、落ち着きなさい、パパ」
「パパじゃねえつってるだ・・・・・」
「ん?どうしたの?タッくん。」
「今日、何日だ?」
「ああ、2019年9月29日だけど?」
「嘘だ。2018年9月29日だったはずだ。」
「やっぱ、タッくんったら寝ぼけてるのね?カレンダーに2019年って書いてあるでしょ?」
「そんなバカな・・・。」
「おんぎゃあ!おんぎゃあ!」
「あらあら、ユウト、泣き止まないわ。悪いけど、タッくん、ユウト見ててくれる?」
「なんで俺が!」
「ほらほら、抱っこして」
「ちょっ、やめろ。ん?うわあああああ!」
「あら、ユウト。パパを待ちくたびれて、おめめが腐っちゃったのねえ。ウジなんか垂らしちゃって。ウフフ」
「わあああああああああ!」
「やだ、タッくん。大人の癖にお漏らししちゃって。メッww」
「駅でタッくんに、結婚しないって言われた時はショックだったわあ。アタシね、実は妊娠してたの。タッくんの子供だよ?」
「う、嘘だっ!」
「嘘ついてどうするの?旦那は単身赴任。相手はタッくんの他に誰がいるの?アタシがタッくんに夢中だってことはタッくんが一番知ってるでしょ?なのに、タッくんは、冷たくアタシを振ろうとしたの。」
「だからね、アタシ、タッくんと別れるなんて絶対やだと思って」
「でもね、終電、終わったと思ったら、電車がホームに滑り込んできて。タッくん、慌ててその電車に乗り込むから、私もすぐにその電車に飛び込んだの。でも、乗り込んだはずのタッくんがいくら探してもいない。だからね、アタシ、先にタッくんのアパートに帰って来ちゃった。そうしたら、ちゃんと後でタッくん追いついてくれて、やっぱりアタシにプロポーズしたんだよね?」
「ち、違う・・・そんな・・・えっ?」
「あら、そんなところに、去年の新聞が。」
〇〇駅で、ホストの菅原拓也さん25歳が、ホストクラブ常連客の吉永久美子38歳に刺されて死亡
なお、吉永久美子も、自らの心臓をナイフで刺してその場で自殺。吉永容疑者のおなかの中には、子供がおり、胎児も命を落とした。
「う、嘘だ。こんなの・・・」
「世の中には、知らなくてもいいことが溢れているわ。ねえ、タッくん?」
作者よもつひらさか