満員電車には乗りたくない

短編2
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満員電車には乗りたくない

地方に住む私の友人が仕事のため、しばらく東京に居るということで、

先日久しぶりに一緒に安い居酒屋で飲んだ。

地味で見た目はそれと言った特徴の無い男だが、

唯一の特徴はいわゆる「視える」人だということ。

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「東京は慣れたか?」

「最初は人が多くてなかなか進めなかったり、人にぶつかりまくって

 気まずい思いもしたけど、もう慣れたよ」

「そうか、それは良かった。そういえば電車で仕事に行ってるんだろ、

 満員電車ももう慣れたのか?」

「満員電車・・・・・・もう絶対乗りたくないな」

そう言った瞬間、友人の表情は暗く沈んだ。

「どうした?ああ、やっぱり地方から出てくると満員電車の混み具合は辛いよな」

俺は微妙な空気を感じつつ、あえて明るい口調で言ってみた。

「いや、そういうことじゃないんだ・・・・・・」

「じゃあ、どういうことなんだよ」

「あのな、満員電車って人がたくさんいるだろ、あれ人で無いものも結構乗ってるんだ」

「人で無いもの?」

「そうだ。人で無い、この世のものでは無い存在だ」

彼は神妙な面持ちで語り始めた。

「満員電車の人混み、あの中に人で無いものがいるんだ。しかもタチのよくないやつ。

よく人身事故で電車が止まるだろ。あれ、かなりの割合でそいつがやってるんだ」

「どういうこと?」

「実は俺見ちゃったんだよ」

「仕事に行くのに、ギュウギュウ詰めの満員電車に乗っていたときだ。そいつらの存在には気づいていたんだが、なるべく見ないようにしていた。」

「そして、駅についてドアが開いたときだ。俺見ちゃったんだよ、そいつが隣りにいたサラリーマンらしき男を引きずって向かいのホームに叩き落としたところを・・・そして線路に落ちた瞬間に電車が来て・・・」

「さらに、この話には続きがある。その後引きずり込まれた人物は、『人で無いもの』の仲間入りをした。うつろな目で車両に乗って行ったよ」

「いいか、あいつらに仲間入りしたくなければ、絶対満員電車に乗るな。いいな」

友人はそう語気を強めて言った。

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その後

とは言ったものの、電車に乗らずタクシーで出勤というわけにはいかないので、

相変わらず満員電車で会社に通っている。

今この車両にも人では無いものが乗っているのだろうか。

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