ふと私の財布に入っている千円札を見てみたら、片隅に赤いボールペンで文字が書き殴ってあった。
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「殺す」
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この千円札は持っていてはいけない。
直感的にそう思って、自動販売機にその千円札を突っ込んで缶コーヒーを買った。
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次の日、コンビニのレジでもらったお釣りの中に、昨日自動販売機に突っ込んだはずの「殺す」と書かれた千円札があった。
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この千円札は持っていてはいけない。
改めてそう思って、次は郵便局で切手を買うときにその千円札を渡した。
人の良さそうなおじさんだったので、こんな怪しい千円札を渡すことに罪悪感を感じたが、仕方がない。
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次の日、銀行のATMでお金を下ろしたら、昨日郵便局で渡したはずの「殺す」と書かれた千円札があった。
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この千円札は持っていてはいけない。
これは絶対に駄目なやつだ。
私はそう思って、コンビニのレジにある森林保護にご協力くださいと書かれた募金箱に突っ込んだ。
どこに募金されようがどうでもいい、私の手元から離れてくれればそれでいい。
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次の日、定食屋でもらったお釣りの中に募金箱に突っ込んだはずの「殺す」と書かれた千円札があった。
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この千円札は絶対に持っていてはいけない。
そう思ってついに千円札に火をつけた。
もったいないとは思ったが仕方がない。
千円札は燃え尽きて灰になった。
その灰をトイレに流した。
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次の日、家で本を読んでいたら、ページの間に「殺す」と書かれた千円札がはさまっていた。
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何度手放そうとしても、「殺す」と書かれた千円札が帰ってくる。
だが今の所、自分の身に悪いことは起こっていない。
「殺す」と書かれた千円札がどうやっても自分のところに帰ってくる以外は、何も変化のない生活だ。
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しかし、この千円札を持っていると悪いことが起こる。
絶対に持っていてはいけない。
この千円札を見るたびにそう直感する。
絶対に持っていてはいけない。絶対に自分のもとに戻ってこないようにする方法を見つけてやる。
作者地獄中年