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中編3
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バイト

先日、久しぶりに自転車でバイト先へ向かった。

今のバイト先になってから、しばらくは自転車で通勤していたのだが、一日の駐輪場代よりも電車賃の方が安く済むと気づき、ここ1年半くらいはずっと電車で通っていたのだ。

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しかし、先日電車が人身事故の影響で止まってしまい、久しぶりに自転車で通勤した。

暑い中30分も自転車を漕いで、バイト先に着く頃にはシャワーでも浴びたのかというくらい、汗でグショグショになっていた。

顔中を這う汗の玉をぬぐいながらバイト先の同僚に、愚痴をこぼしながら制服に着替えた。

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フルタイム8時間のバイトを終え、店長の「お疲れさま」におうむ返ししつつ、店を出た。

最近向かいにできた雑貨屋の看板が、頼りない街灯に照らされ不気味に浮かび上がっていた。

腕時計をチラリと見るとそろそろ日付が変わろうとしていた。

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駐輪場の高い代金にブツブツと文句を言いながら、1秒でも早く家に着きたく、人通りの少ない道を自転車で走り抜ける。

しばらく自転車をとばすと、オレンジの灯りに縁取られた地下トンネルが見えてきた。

その数メートル前で自転車を降りて、やたらと幅の広い階段を下っていく。

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階段を下り切ると「自転車は押して歩くこと!」と書かれた立て看板から目線をそらして、再び自転車にまたがった。

歩くには、このトンネルは少し長い。

トンネル内にこだまする、シャーッという自分の自転車の音を少し不気味に思いつつ、ゆっくりとカーブを曲がっていくと登り階段が見えてきた。

また数メートル先で自転車を降りて、緩やかなスロープを、ゆっくり自転車を押して歩く。

もう5メートル程でこの地下トンネルを抜けられる。

そこで俺はふと立ち止まった。

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階段を登りきった所、ちょうど今俺が視線を向けている先に「何か」がいる。

街灯の逆光で、こちらからは完全に真っ黒な影にしか見えない「それ」は、しかし真っ直ぐに自分を見ていることはわかる。

人がうずくまっているような格好の、しかしそれをもっと何倍にも大きくしたようなシルエットが階段の出口を、通せんぼするかのように座り込んでいる。

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どうしよう。

「あいつ」は俺がこの階段を登り切るのを今か今かと待ち構えているように見える。

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しばし考えたが、俺は「あ、バイト先に忘れ物!ケータイ忘れた!」と、わざとらしい独り言を残して道を引き返した。

今日はバイト先に泊まらせてもらおう。

今から戻れば、店長はまだいるだろう。

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それからバイト先に戻るまで、俺は一切後ろは振り返らなかった。

なんとなく、振り返ると「あいつ」に気づかれるような気がした。

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必死で20分以上自転車を漕いで、まだ明かりの灯るバイト先へ戻ってきた。

曇りガラスの窓ごしに、店長が売上の計算をしている姿が見えた。

いつもと変わらないその姿にホッとしながら裏口から店に入る。

店長とは長いバイト生活を経て友達のような関係だったので、先ほどあった出来事を全部話して、今日は泊まらせてくれないかと頼んでみた。最初は戸惑っていた店長だが、俺があまりに執拗に頼み込むので了承してくれた。

しかも事情が事情だと、店長も一緒にその日は店で寝泊まりすることになった。

バイトの疲れや1人じゃない安心感から、俺はすぐに眠りに落ちた。

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翌朝、店長が気を利かせて作ってくれた朝食の匂いで意識が浮上した。

目を瞑ったままゴロリと寝返りを打つと、「起きたか?おはよう。朝食できてるぞ、簡単なもんだけどな」と厨房の方から店長の声が聞こえてきた。

その気の抜けたような声に、昨夜の出来事も忘れて「おはようございます」と起き上がる。

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「お“はよ”ござま“す?お“はよ”?お“はよ”お“はよ”お“はよ”お“はよ”お“はよ”お“はよ”」

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「き“ょ、うはか”える?か“えろ か”えろか”えろか”、えろお“はよ”ござま“?」

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真っ赤な目と視線がぶつかった。

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連れてきた……

Concrete
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