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短編2
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明日不動産屋へ行こう

普段休みの日は、酒を飲みながら映画を見る、そんな終わった学生生活を送っている。

入試の関係で学校が3日ほど休みになったので、翌日を気にすることもなく、酒をあおり、さまざまなジャンルの映画に夢中になっていた。

ふと気がつくと、テレビの上にかけられた時計は1時を指している。

近隣の迷惑になるかもしれない。

そう思いテレビにヘッドホンをつなぐ。

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そうして気兼ねなく次の映画を再生するが、しばらくして喧嘩っぽい怒声が聞こえてきた。

映画の内容的に怒声なんか聞こえるはずもないので、すぐに外からの声だと気づく。

それにしてもヘッドホンを通しても聞こえるなんて、相当白熱しているらしい。

貴重な趣味の時間を無駄にしたくないと、少しボリュームを上げて映画に集中しようと努める。

しかし外の怒鳴り声はどんどん大きくなり、すでに映画の音声が聞こえないほどにまでなっていた。

意図せず聞こえてくる声は、男女1人ずつのもので、おそらく痴話喧嘩というやつだろう。

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まったく……他でやってもらえないだろうか……

そんなことを思いながら、なんとなく気になってヘッドホンを外した。

するとさっきまでのべつ幕なしにお互いを罵り合っていた罵声がピタリと止んだ。

変に思いながらそっと息を潜め、耳をすませる。

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「なに聞いてんだよ!」

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窓の外から怒鳴り声が聞こえた。

思わず肩を揺らしたが、パタパタと走る音が聞こえたので、通行人に言ったのだと胸をなでおろす。

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しかしその足跡は遠ざかるどころかうちへ近づいてきた。

ドタドタと乱暴な音を立てて外階段をのぼる音が聞こえ、ザッザッという廊下をすり足で歩く音がこの部屋へ近づく。

身体中に響き渡る心音を落ち着かせるように、ぎゅっと服を握り込み、玄関の扉を凝視する。

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足音は俺の部屋の前で止まった。

30分くらい、いやもしかしたらほんの5分くらいだったかもしれない。しばらく扉をじっと見つめていた。

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ゆっくりと、ドアポストが上にあがっていく。

ごくり、と漫画みたいな音を立てて唾を飲み込んだ俺の目を、2つの真っ黒な眼が見つめかえす。

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「なに聞いてんだよ、◯◯」

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間違いなく俺の名前だった。

表札なんか出していない。

双眼は、ドアポストをまたゆっくり元に戻すと部屋の前から遠ざかっていった。

Concrete
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