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「雨、降ってんのかな?」
独り言は小さな部屋にこだましてすぐ消えた。
これは、兄貴が死んでからの俺達4人の話し。
「4号~4号~接見だ、面会だぞ、この人だ、知ってるか?断るか?」
必要書類に書き込まれたみなれない文字に誰だかわからなかったがとりあえず会う事にした。
ひょんな事から俺は犯罪者になった、“ 4号”とはここでの俺の屋号であり、俺の名前だ。
「接見開始~」
看守のじいちゃんはいつも大声だ。
面会の部屋に入った瞬間、俺は外に出たくなった。
「あ、Nちゃん…」
「あ、Nちゃん…じゃないわよ!A君何したの!?なんでこんなところにいるの!?大丈夫なの!?出てこれるの!?」
Nちゃんは尋常じゃないほどまくしたててきて
「え~と罪自体は、違反切符を無視してて、また違反して…」
信じられないと彼女は、眉間に皺をよせてこちらを睨んでいる。
今日で二日目、初犯ということで48時間で出れるかもと聞いていたものの、違反切符の数が調べの時間を伸ばしたらしく、勾留延長になり、後10日はすくなくともここに入れられることになったらしい。
(結局それも伸び最終20日いたのだが、、)
四畳半ひと間、明確に言えば3畳の畳と1畳分のトイレなのだが、細かい網の目の鉄格子と、その外を囲むように想像通りの分厚い鉄格子の扉、そして小さな窓もやはり同じように囲まれていて、それが唯一外の明かりを少し入れてくれる、そんな部屋だ。
Nちゃんは俺の弁護士から連絡をもらったらしく、差し入れのマンガと着替えを3着もって来てくれたのだが、内心来てくれるとは思ってもいなかった。
面会は、決められた15分という時間をすぐに過ぎ、ブツクサ言い足りないNちゃんは
「掘られるなよ!!」
と面会部屋の扉を出る瞬間、唇の右端だけをクイッとあげて帰っていった。
「掘られるってなんだよ(笑)ひとり部屋だっての…」
しかしその夜、事態は急変することになる。
「4号、お前には悪いんだけど、今夜から4-1な、二人部屋にさせてもらうから4-2と仲良くしてやってな。」
看守は、言い放つとそのまま忙しそうに走っていってしまった。
「おい…マジかよ、こんな狭いのに二人…」
ある意味覚悟を決めた。
その数時間後、ごくごく普通のおっさんが部屋に入居してきたので、すこし安心した。
歳は40代前半、刺青はいっぱい入っているけど、ヤクザとかでは、無さそうな感じの人だった。
ここでの暗黙のルールでは、ないのかもしれないけれど、ルールみたいなものを看守から聞いていたので、“何をして捕まった”のかは聞かないでおいた。
おっさんは無口な方ではあったけど、話しかけると答えは、返ってきたし、2~3日もすると独り言だか、俺に話しかけていたのかは、分からないが喋るようになったので、俺もそれにのっかってそのまま会話をするようになった。
「ここの飯は、まじで不味いな…」
おっさんと何日か目の夜食を食っている時の話。
「そうですね、冷えきってる上に、毎度同じようなメニューですしね。」
みんな思うことは一緒だなと言葉を返すと
「にぃちゃんは、舌こえてそうだもんなぁ、飯も女も上手いもん食ってんだろ?」
と、童貞に毛の生えたくらいの俺へ言う。
「そんなことないですよ!!早く帰って好きな人の手料理は食べたいですけどね」
これは事実だった。いろいろあったがNちゃんとは「死んだ部屋」以降、ちょくちょく会うようにまたなり、Cさんとも、二人で会う頻度は増えていたので早くこんな所からおさらばしたい気持ちでいっぱいだった。
「いいなぁ、俺はもう、ここを出ても待っていてくれる人なんかいねぇからなぁ、その好きな人ってのは大事にしてやらなくちゃな」
と、年長者としての助言をくれていた。そこで、
「でも実は、大事な人が二人いてどうしたらいいのか分からないんですよね。」
と、モテてる俺を演じてみたかったので、口にしたところ。いろいろ聞いてからこう助言をくれた。
おっさん曰く。
恋愛は三つの事柄から成り立つのだと言う。
それは、「親密さ・責任感・恋心」なのだと言う。
その組み合わせで形は変わるのだと…例えば…
Nちゃんとは、
お互いに「親密さ」と「恋心」はあるけど、
二人とも「責任感」がないので
「ロマンチックな愛」
Cさんとは、
「親密さ」を俺が一方的に持っているだけなので
「ただ好きなだけ」
とつつかれ、じゃ、兄貴とSちゃんは、
「恋心」と「責任感」はあるのに「親密さ」がない
「実態のない馬鹿げた愛」
といった所か…と考えた。
きっと兄貴は「うるせぇ。」と思っているだろうな、ニヤニヤしていた俺は、ふと思う。
兄貴とCさんは…?
ズキっと小さな痛みが胸をさす。
そんな時間を潰すだけの日々を過ごし、俺は釈放された。
4号として出ていく時おっさんは
「ちゃんと大事にしてやれよ、1度しかないんだから。」
と言っていたのが印象的だったのを今も思う。
家に帰り、いつもの定位置に腰をおろす。
俺の膝の上にはファラオ(愛犬)が横たわり「フンッ」と一息すると眠り始めた。
台所からは美味そうなカレーの匂いがしてきていて、俺はそれとなくニュースを眺めている。
「○○区の食人鬼と呼ばれる○○被告が今日の午前○○時頃起訴されることが決まりました。○○被告は妻の○○さん(36歳)を冷蔵庫に…」
プツン…とテレビを消して窓の外を眺めてみた。
そういえばおっさんの名前聞いてなかったな。と少し彼のことを考え、パラパラ降り出した雨を見て
「飯の前にファラオの散歩行ってくる~」
と、外へ出た。
パラパラと降る雨は夏の終わりを告げるように、体中に張り付き、少し熱を流す。
誰を待つわけでもないのに、いつもの散歩道をゆっくりと歩いていた。
「こらっ!!この不良者!!!」
明るいその声は振り返らなくても誰だかわかる。
「ど~もお勤めから帰ってまいりましたっ!!」
俺もちょけるのでCさんは少し笑ってから、
「おかえりなさい。まわりに心配かけないの!」
怒りのない優しい笑顔で怒ってみせるのだった。
拘留所での出会いや、どれほど暇でつまらなくて、不毛な日々を過ごしたか説明しながら、家のすぐ近くまで来たので、俺は気になっていた事をズバッと聞くことにした。
「恋愛における「親密さ・責任感・恋心」Cさんと兄貴は、どういう感じだったのですか?」
自分の気持ちをよまれないようあえて、気軽な感じで聞いた。
彼女は、少し考えてから、ちょっとだけさみしそうな顔で
「私は「恋心だけ」の「のぼせ上がり」で彼は「親密さと責任感」の「友好的な愛情」だったんじゃないかな?」
と言った。でもそれはきっと違うとこの胸の奥の小さな痛みが物語っていたが、俺はあえて何も伝えなかった。
人生とは無慈悲な物だ。
名も知らないおっさんは日付的に、刑が決まった頃だろう。
自分の愛の表現方法には、いろいろあるのだろう。
俺は1度かぎりとは限らないと思うが、それは、俺の愛の形と彼の愛の形の違いなのだろう。
Cさんは、俺の家をテクテクと通り過ぎた。
雨はあがり、綺麗な星空が広がっているそんな夜。
家に入ると、カレーはできていた。
「うっまそ~♥」
鍋を半分くらいをたいらげ、俺は求めるがままにNちゃんを愛した。
作者Incubus
約3年振りの更新です。
待っていてくれた数少ない方々…まだ見てくれているでしょうか…
もしもまだ読んでくれるのなら嬉しく思います、ずーっと書きたくてもかけていなかったこのシリーズなので…
新規の方もよかったら暇潰しにでも読んで頂けたら光栄でございます…またよろしくお願い致します!!
では、以下説明文です↓↓
一回り歳下ないとこのAと俺のトラブルメーカーな2人がだいたい自業自得な目にあうシリーズ物です
セカンドシーズン突入!!
一回り歳の離れた兄貴は死んでしまったのに、Aの中にその意思は生き残った。
彼女のNと、彼女を守るもう1人の人格S…
4人の関係はよりいっそうカオス化していくばかり…
トラブルを巻き起こしながら彼らはどこへたどりつくのでしょうか…
ホラー×恋愛
異色のストーリーをお楽しみください!
ノミネートしていただいた
『くるって』
をふくむファーストシーズンは『トラブルメーカーシリーズ』で探すか、筆者のプロフィールから投稿した話を読んでいただけます!
よかったらそちらも読んでいただけたら、セカンドシーズンをもっと楽しんでいただけると思います!
それでは今後もゆっくりですが更新していきますので、よろしくお願いいたします。