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それは、たまたま外で会ったそこそこタイプの女と風呂に入っていた時だった。
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彼女のショートボブの黒髪から、水滴がゆっくりと滴り落ちる。
俺は、その女のうなじを眺めながら浴槽にもたれ掛かっていた。
綺麗なうなじだと思った。
「なぁ。」
「なぁに?」
女は振り向かずに、浴槽の縁に置いてある俺の右手に軽く頭を乗せた。
俺は左手で女のうなじを撫でた。
女はくすぐったいのか、はたまた気持ち良かったのか、「んっ」と軽く声を漏らした。
「こーゆーの慣れてんの?」
俺がそう言うと、怒ったように女は俺を見た。
「そんな訳ないでしょ。」
女はそう言った後、また前に向き直り、俺の右手で遊び始めた。
でも、と俺は思う。
普通、初対面の男とこんな風に風呂に入ったり出来るだろうか?
いや、昔の彼女とだってすぐには入れなかった。
彼女は今、元気にしているのだろうか。
俺は、自分の所為で傷付けてしまった元カノに対して申し訳なく頭を垂らした。
それが、たまたま目の前の女の後頭部にぶつかった。
「もー、痛いよー。」
「わり。」
俺はそう言って、女の頭を撫でた。
「徹くんこそ、女の子とこうやって遊ぶの慣れてんじゃないの?」
「あー、たまに。」
俺は、そう返答した後に、背筋に悪寒が走った。
女は自分の過ちに気付いたのか、体を強張らせたが、溜息を吐いてから俺の方に向き直り股間に跨ってきた。
俺は動けず、悔しいが反射的に股間が反応してしまっていた。
「徹くん、名乗ってなかったんだっけ?でも、もうこんなになっちゃってるから、しょうがないよね。」
女はそう言って、自分の身体の中に俺の一部を取り込んでいく。
「徹くんがあたしに気付かないからだよ。」
女はそう言って、頬を紅潮させながら、俺を見下す様に腰を振る。
水飛沫が乱暴に跳ね上がる。
「やめてくれ。」
「あたしが彼女さんの家に上がり込んだ時もそう言ったよね?」
俺が女の腰の動きを止めようと手で押さえると、どこで身につけたのか、捻るようにして、より深く俺の身体は飲み込まれていく。
「頼む、俺が悪かったから。」
「赤ちゃん出来たら、責任取って貰わなきゃ。」
「お願いだから、止まってくれ!」
女はとても嬉しそうな顔をして、腰の動きを止めた。
これなら何とか持ちそうだ。
俺が引き抜こうとすると、女は俺の顔を持ち上げキスをしてきた。
俺が女の顔を離そうと、腰から手を離したのが間違いだった。
彼女の腰が再び動き出し、俺の意思も虚しく、俺の遺伝子は彼女の中に入ってしまった。
俺の口から、なんとも情けない声が漏れる。
女の顔は恍惚に満ち溢れていた。
「ありがと、徹くん。あたし、ずーっと欲しかったの。」
女はそう言うと、風呂から上がった。
「赤ちゃん出来てたら、また来るね。」
最悪だ。
整形までしやがって。
俺は頭を抱えた。
まさか、昔のストーカーがまだ俺のことを好きだなんて思うはずがない。
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俺の前髪からも、ゆっくりと水滴が落ちていた。
作者適当人間―駄文作家
こんな大人にだけはならないでくださいね。