中編7
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愉悦

男は重度の薬物中毒者だった。

きっかけは失業、失恋、友の裏切り、親の死。

一つを取れば誰しもが通る可能性がある道。

しかしこれら全てが一度に重なるとすれば

弱き人間が絶望するには十分であった。

愛犬だけが、自身の支えだったが男はふとしたきっかけに悪魔の誘惑に負けた。

薬を飲めば、憂鬱な気分が晴れる、そう気づいた彼は毎日多量の危険薬物を服用した。

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ある日男は幻覚を見るようになった。

お前は人類の救済者。選ばれし神の申し子だ、と

天使が夢の中で告げる。

男は舞い上がった。

すぐさま行動に移さなければ

男はそう考えた。

人間の救済=死。死ねば一切の生の苦しみから解放される。正常な判断が出来なくなっていた男はそう解釈した。

自分のような不幸な人々に救済を。

男はネットで死にたいと言う人間をさがした。

「自殺を考える人のための悩み相談」

表向きはそう偽り、サイトを自分で作り救済対象を待った。

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作ったばかりのマイナーなサイト

なかなか手を挙げるものがいなかったが

ある日1人のサラリーマンが申し出てきた。

まだ若かったが、会社でいじめに遭い、

探し回って唯一自身を受け入れてくれた会社であることから

辞めることもできず、相当な苦悩な果てに、死にたいとまで思い悩んでいる悩みを打ち明けた。

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男は言葉を弄し、男に親身に寄り添った。

私も死にたいと思っていた時期があった

相手の悩みに自身の経験を通してあたかも共感し同情したかのように装い、若いサラリーマンの心を掌握した。

そしてとうとう

サラリーマンを自宅に誘い出すことに成功した。

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殺されるなど微塵も思っていない。

この人なら信頼できる、直接話を聞いてもらいたい一心であった。

だが、男がもてなした飲み物には睡眠薬が。

ほどなくしてサラリーマンは眠りについた。

ようやく「救い」の実行の時だ

男はほくそ笑む。

男の最初の殺人が始まる

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なぜ睡眠薬を?

まだ少しの理性が男にはあった。

自分のような不幸を感じ、絶望を感じている人間は死ぬことでしか救われる道はない

本気でそう信じていたのだ。

可愛そうな哀れな人間

せめて痛みなく寝てる間に事を済ませよう。

これは殺戮ではなく救いであると自らに言い聞かせて

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男は用意していたハンマーを掲げる

男の手は震えていた

意を決しサラリーマンの後頭部に振り落とした。

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鈍い音が部屋一帯に鳴り響く。

大量の血がほとばしる

サラリーマンは即死かと思われた。

だが当たりどころが悪かったのか彼はまだ生きていたのだ

うう…うう…

声にぬらない声を上げながら、苦しんでいる。

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その姿を見て男は一瞬後悔した。

だが次の瞬間それは激しい嫉妬の感情に変わった。

サラリーマンの胸ポケットから、女性と一緒に彼が写っている写真を発見したのだ。

罪を犯した男は狂気の叫び声を上げる。

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何が不幸だ

何が死にたいだ

お前には愛し愛される存在があるではないか

殺意に、そして憎悪に満ちた言葉を叫びながら

何度も何度もサラリーマンの頭をハンマーで打ち付けた。

男の家は町外れにある

誰もこの音を聞くことはない。

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どれくらい殴りつけていただろう。

もはや頭部と呼べるものはそこにはなく

あるのは動かない胴体だけだった。

-あはははははははははははははは-

男の高笑いが部屋に響き渡る。

そこには少しの理性も感じられず

笑みを浮かべ、ただただ殺しを愉しむ

人間の形をしたものが佇んでいた。

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その日から男はただただ殺しを楽しんだ。

対象者は幸せそうな人間。

もはや男は人を死で救済するということなど完全に忘れ

被害者が恐怖する姿、逃げ惑う様、叫び声

それらに快楽を覚える異常者であった。

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どれくらい殺めただろう。

男は事後処理を怠らなかったため捜査は難航していた。

今日も男は人を殺め嬉々とした面持ちで帰宅した。

ただいま、愛犬に呼びかける

しかしいつも自分が帰ってくるとドアまで駆け寄ってくる愛犬の姿がそこにはない。

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あれ?どうしたんだ?

愛犬の名を呼びながら男はリビングまで移動した。

そこで恐ろしい光景を目の当たりににする。

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犬の頭部が皿に盛りつけられ、ナイフとフォークが添えられていた。

誰がこんな事を…

男は涙を流す…

いつもいつも自分を見つけると駆け寄り

抱きしめて欲しいと甘えた表情で見つめてくれた

唯一の自分の家族

もうその姿は見られない…

とその瞬間

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後ろからハンカチを顔に抑えられた。

薄れ行く意識の中

見ーつけた

楽しそうな女の声が耳元で聞こえた。

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しばらくして男は目を覚ました。

目の前には愛犬の頭部が盛られた皿が。

身体は椅子に固定されており動かない。

口も塞がれ声が出せないでいた。

台所から鼻歌が聞こえる。

ふーんふーんふーん♪

本当に嬉しそうな様子で、

まるでずっと会えなかった最愛の人に久しぶりに会った時に浮かべる表情で

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女は男の前に姿を現した。

手には包丁が握られている。

表情こそ嬉々としているが

クマが酷く、肌は荒れ果て、髪はまだ若い女性の物とは思えないものだった。

精神を病んでいるのだろう。

-私が誰だかわかるかな?

わかるわけないよね?初対面だもの

女は笑いが堪えきれない様子で続ける。

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-私ね、あんたが殺した一馬くんの彼女なんだー。

本当に探すの大変だったんだよー。

ほんっと、会えて良かったわ!

女はニコニコしながらそう言い

男の足に包丁を突き立てた。

一馬とは男が最初に殺めたサラリーマンの名であった。

男は苦悶の表情を浮かべたが

そんなことお構いなしに刃を突き立てながら女はいう。

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-ほんとはね、あなたの親、彼女、親友を殺して私と同じ気持ちを味あわせたかったんだけど、

犬しかいないんだもの。つまらなかったわ。

つまらなそうに吐き捨て女はいう。

女はナイフとフォークで犬の頭部を切り始めた。

人間の口に入る大きさに切り分けた後、

男の口枷を外し、無理やり中に突っ込んだ。

-よかったわね。これでずっと一緒よ。

死んだ後もね。もう、吐いたらダメじゃない。ほら、何度でも突っ込んであげるわ。

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頭を掻き毟りながら女はそう言うと次は男の喉元に包丁を突き立てた。

-一馬くん、胴体しか見つかってないんだってね。

首はどこにあるのかしら。

まああなたも同じ目にあってもらわないとね。

大丈夫よ。少しずつ、少しずつ切り離してあげるから。ふふふ

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首に包丁をあて、ノコギリのように少しづつ男の首を切っていった。

男は必死に逃げようとするが身体は固定され動かない。なされるがままだ。

時々痛い?痛いよね?と聞きながら、嬉しそうに女は首を切り続けた。

完全に男の首が胴体から離れるまでどれくらい経っただろうか。

最後の最後まで男は苦悶の表情を浮かべ生き絶えた。

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女に罪悪感はない。

むしろ満足感を感じていた。

誰かがやらねばならない。

この男が仮に警察に逮捕されたとしても、

精神鑑定とやらで無罪になる可能性がある

そんなこと許してなるものか。

とは言うもののやはり人間故か

男を殺めたその手はかつてないほど震えていた。

-一馬くん、これでよかったわよね

女は号泣した。

その後は現場から逃げるように現場から立ち去った。

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女は悪夢を見るようになった。

一馬が殺された時も悲しみ、絶望で寝れなかったがそれどころではない

今も犬の首を切断する感覚、男の首を切断する感覚、片時も自身から離れることはなかった。

殺人の記憶、疲れ、これからどうなってしまうのかという不安

女は日に日に自分が壊れていくのを感じた。

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ある日ニュースが流れた。

首を切断された男の遺体

そしてその男を調べているうちに、これまでの殺人事件にその男の関与していることが明らかになってきたそうだ。

しかし、男を殺害した犯人に対する手がかりはない、とニュースで報道していた。

女ほホッとした。 自分はまだ特定されていないもいう安堵感。

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ふとネットでどのよなうな騒ぎになっているのか気になり女はネットを開いた。

犯人はメシアだろう

快楽殺人犯に裁きを下された

男は死んで当然

よくやった

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そこにはこのような、女を擁護するコメントが多く見られた。

もはや疲れ切った女の心境は正常ではなかった。

このコメントでそんな彼女が豹変するには十分であった。

自分た正しいことをした

私はメシアだ

悪人には死を

私は正義の審判者なのだ。

女は笑みを浮かべた。

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その日から女はネットで過去に重大な犯罪を犯したが、

少年であったり、精神障害で

大した罪にならなく、今ぬくぬくと生活している人間をリストアップすることにした。

住居を特定することは難しかったが、ついに1人を特定し、殺害に踏み切った。

その人間が過去に殺人を犯した方法と全くの同じ方法で殺害した。

女は悦びを感じていた。

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次の日ネットを見ると

また犯人を賛美する言葉が多かった。

女は人を殺すと褒められる

そう狂気じみた考えが脳内を駆け巡る

早く次の悪人を殺したい

その衝動が抑えられなかった

次の瞬間インターホンがなった

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-はーい

ドアを開ける

-こんばん…え?

開けた瞬間胸に包丁を突き立てられた。

-どうしてあの人を殺したの?あの人は確かに許されない罪を犯した。

だけど、その後はずっと後悔して、必死に更生しようと頑張ってたのに!!

来訪者はヒステリックにそう言った。

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後悔したからなんだというのだ

被害者が生き返るのか

殺人の罪など一生償えるものではないのだ

薄れゆく意識の中女は、

これから自分に起こるであろう「救い」に

ありがとう

そう感謝を告げ、涙を流しながら微笑み、地面に倒れ伏せた。

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