-私達ずっと一緒よね?
癌で衰弱しきった早苗が酷く弱々しい声で俺に言う。
俺は手を握りながら応じる
-ああ、たとえ何があっても俺達はずっと一緒だ。
そう約束しただろ?
だから、そんな悲しそうな顔をしないでくれ
妻はにっこりと幸せそうな顔を浮かべた。
その数日後、早苗は息を引き取った。
29という若さだった。
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-またこの夢か
酷い息切れと共に朝目覚める。
早苗が死んでからもう三年が経った。
俺は早苗の死の悲しみを乗り越え、32歳の会社員として日々働いている。
この夢を見始めたのは、そう、渚と一緒に出かけた後の日からだ。
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渚は会社の後輩であるのだが、気弱だが優しい心の持ち主で、早苗が死んだ後心身ともに疲れ果てていた俺を
懸命に励ましてくれた。
そのおかげで俺は少しずつだが、元の性格を取り戻し始め、仕事でもミスをしないようになっていった。
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そんな渚に俺は少しずつ、感謝の感情以上の気持ちを抱くようになっていった。
それで俺は最近彼女を映画に誘い、付き合ってほしいと告白したのだ。
-早苗…怒っているのか?
俺は心の中で早苗に問いかける。
早苗のことを忘れたわけではない。
あれほど愛した妻を忘れられるはずもないが、
渚に惹かれ始め、徐々に俺の心に早苗の場所が減っているのも事実だ。
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義父母は
-まだ若いんだからはよー次の幸せにする人見つけやあ。
といつもいってくれている。
だが
-怒っているよな…やっぱり…
ずっと一緒だと約束したんだし当然か。
俺は部屋で一人呟いた。
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-最近お墓参りは行ってるの?
会社の休み時間、夢のことを渚に相談するとこう返っててきた。
俺は最近忙しくて行けていない由を答えると渚はぷんぷん怒りながら
-もう、ダメじゃない!そら早苗さんも怒るよ。今度一緒に墓参りに行かない?私達の真剣な気持ち、ちゃんと認めてもらおうよ。
-そうだな。けじめをつけないとな。
俺は了承した。確かに最近忙しくて墓参りに行っていなかった。
俺達は週末早苗の墓に二人で行く約束をした。
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当日、渚は俺の地元まで来てくれ、二人で早苗が眠る墓のある寺まで行った。
-ここに早苗さんがいるのね…
渚が感慨深げにつぶやいた。
寺はそんなに大きなものではなく、その圏内に小規模な墓場がある。
その一番端の墓石に、ひっそりと早苗は眠っている。
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二人で墓石の前に手を合わせた。
-早苗、ごめんな。ずっと一緒だと約束したのに俺は向こうに行けなくて。隣の子、渚っていうんだけどお前に似て本当に優しい子なんだ。お前の事は決して忘れていない、忘れられるわけがないけど、俺は新たな一歩を渚と踏み出したい。
俺はしっかりと手を合わせ、涙を抑えながらそう墓前に話した。
すると、確かに早苗の生前の懐かしい匂いと共に優しい風が吹いた。二人を祝福してくれているように、そう感じた。
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渚の方も真剣な面持ちで墓前に手を合わせていた。
私の想いが真剣なこと、亡くなった早苗さんの代わりに私がこの人を支えていきたい
そう真摯に訴えたそうだ。
二人で墓石を去ろうとした時、またあの早苗の匂いと優しい風が吹いた
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その日から、あの夢を俺が見ることはなくなった。
早苗が俺達を認めてくれたのだろうか
そう感じた。
俺と渚は日に日に進展し、互いに求め交じり合い、
ある日結婚の約束を交わした。
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だが渚との日々は翌日突然終わりを迎えた
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渚が交通事故にあった知らせを受けた俺は事実を受け止められなかった。
なぜ
どうして将来を約束し合った次の日に?
その時一瞬、早苗の夢を思い出した。
-もしかして早苗が…?
俺はとにかく渚が送られた病院へ急いだ。
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-君が渚の彼氏か。渚から話は聞いているよ
そう渚のお父さんが俺を中に入れてくれた。
渚は
顔に布を被せられていた。
-手は施しましたが、、、
医師がいう。トラックと衝突。即死だったようだ。
俺は号泣し、家族のむせび泣く声が静かな部屋に響く。
と、その時部屋の隅に黒い影があるのを見つけた。
-早苗か⁉︎早苗なのか⁉︎どうして…
どうしてこんなことを…なんで渚が…
俺は激昂した。
そんな俺の姿に渚の家族は驚きの様子を見せたがすぐに俺を止めに入った。
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渚が死んだことで、悲しみに耐えられなくて変なものを見たのだろう。それだけ渚の事を想ってくれていたんだな。ありがとう。今日はもう帰りなさい
優しくそう諭され俺は帰ることになった。
虚ろな表情のまま俺は車を運転する。
もう希望がない
早苗も渚も俺の愛する人はみんな死んでしまう
どうして渚が…
ふとその時誰かの手が俺の顔を優しく覆い隠した。
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車には運転する俺一人、他に誰もいるわけがない。
だが特に恐怖を感じなかった。
早苗だろう
早苗が俺も殺しに来たに違いない
直感でそう思った。
正常な判断を出来る状態ではなかった。
早苗との幸せな思い出を思い出し、早苗に殺されるなら本望だと、そう感じさえした。
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shake
だが、これは早苗の匂いではない!!
これは誰だ?渚か?いやありえない。
だとしたら…
この香水の匂いは誰だ
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shake
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意を決して俺は顔を見た。
顔に本来あるはずの物が全てぐちゃぐちゃに潰れており血塗れだった
口がないのにどこからか
「ずっと一緒だよね?ずっと…一緒だよね?」
声が聞こえる。
-ひっ…!!
誰だこいつは、この化け物は
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俺は記憶を辿る。この香水の匂いは…?
香織だ!
大学生の時付き合い、浮気をされ俺から
別れを告げたあいつだ!
恋人時代「私達ずっと一緒だよね?」と口癖のようにいい、別れる間際ありったけの憎しみの言葉を俺にぶつけた香織だ
俺と別れた後、マンションから飛び降り自殺をしたと噂で聞いていた。
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そう俺が悟った瞬間、そいつは俺がハンドルを握る手を強く握り
あらぬ方向に動かした。
-うわああああああああああああああああああああ
このまま行けば対向車にぶつかる。
俺は意識を失った。
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-目が覚めたのか⁉︎よかったあ…
俺は家族の声で目が覚めた。
ここは病院なのか
-お兄ちゃん、もう!死んじゃったかと思ったよお
妹が泣きながら俺に抱きついてきた。
周りを見渡せばみんな泣いている。
渚の両親、そして早苗の両親もきてくれていた。
それぞれが俺に労いの言葉をかけてくれた
俺は生きていることに安堵しこれまでのことお思い返した。
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よく考えたら優しく俺を想い死んでいった早苗が俺を不幸にすることをするわけがない。
夢は、早苗と永遠を約束したのに好きな人が出来た俺自身の心の葛藤が見せた物だったんだろう。
渚の病室で見た影、あれは香織に違いない。
俺は早苗を疑ったことを心から謝罪した。
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shake
「ずっと一緒だよね?」
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聞き間違いだろうか
この病室であの恐ろしい声が聞こえた
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病室の端、そこに香織がいた。
例の言葉を頻りに繰り返している
-おい!!見てくれ…!!ほら..あ、あそこ!!
俺が言うが俺の他に見えていないようだ。
早苗
渚
俺もそっちに行くよ
香織が俺をアイツのとこに連れていかなければ…
作者キャトラ
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