我慢強い私にもやはり──限界はある。
一度沸き上がった感情は男の死で決着が着いた。
ユウ君の借りるアパートの部屋。滅多刺しにされた男の死体と、血濡れの包丁を握り、返り血をたっぷりと浴びた女。
私は、精一杯尽くしてきた。
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ユウ君がお金に困れば出来るだけ工面したし、他所に女がいるとわかっても、最後には私の処に帰ってくると信じて待った。
酔っぱらい、私をただの道具のように乱暴に抱くこともあった。
ユウ君の先輩、その筋の男にお金を借りては、競馬で溶かし、闇金なみの利息で首が回らず、何度か顔を腫らした彼を見たこともある。
その度に怒りを私にぶつけて、私を殴る。
終いには、風俗で働いて金を作れだなんて、本当に駄目な男。
その結末がこれだ。怒りが少しぶり返し、とっくに死体となった身体に包丁を突き刺す。
なんでそんな男に惚れてしまったのだろう。考えて答えがでるものではないと分かっていても、考えずにはいられなかった。
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その時、玄関のドアノブがまわされた。
ゆっくりとドアが開く、中のようすを伺うような開きかたに少しイラついて、私の方から向かい入れる。
「お帰り、ユウ君」
「千尋......マジで......殺ったのか?」
「うん! これでユウ君、恐い思いをしなくてすむね──」
床に転がる死体となった借金取りの鼻先を蹴飛ばしながら答える。
「さてと、浴室でバラバラにしちゃお」
借金取りの襟首を掴み引きずる。
「わたしー、ユウ君の為ならなんだってできるよ」
そう、私は彼の為なら何でもできる。
風俗はユウ君以外の男に触られたくないから嫌だけど、ユウ君のこと困らす奴を殺すことくらい、なーんてことない。
だって私──
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ユウ君のこと愛してるんだもん❤️
脅えて青い顔のユウ君に私は血まみれの笑顔で返した。
作者深山