長編8
  • 表示切替
  • 使い方

1人かくれんぼ

怖いもの好きな人ならご存知だろう。万一、知らない人がいたら、ネットで内容が無数に出てくるので、検索してほしい。

「1人かくれんぼ」

大学生だった俺はネットで見て有頂天だった。今まで幽霊はもちろん、怪奇現象すら遭遇したことはなかった。怪奇現象が体験出来るかもしれない。それだけで、ワクワクしていた。

また、タイミングも良かった。両親は県外で働き、独り暮らしをしている姉貴のところに遊びに行っている。

今日は実家は使い放題。朝から夕方までゲームをしていたが、さすがに飽きてきて、夕方からはネットサーフィンをしていた。そんな時に友人Aから電話があった。

「1人かくれんぼってのがあるらしいよ。」

「えっ?なにそれ?」

「それはね………。」

Aとの電話が終わり、ネットで1人かくれんぼを見た時には夜中の2時になっていた。

早速1人かくれんぼの準備にかかったが、すぐに一番重要なものがないことに気付く。「ぬいぐるみ」だ。男の俺はぬいぐるみなど持っていない。家の中を探したが見当たらない。

ぬいぐるみを売ってそうな24時間営業の店は実家から片道30分はかかる。何とか、午前3時までに帰ってこれたとしても準備の時間がない。

明日には両親が帰って来てくるということもあり、こんなチャンスは次いつめぐってくるのか分からない。ここまでくると、最後の手段しかなかった。

姉貴の部屋だ。

実の姉貴とはいえ、女性の部屋に入ることには気が引けていた。実際、姉貴が実家を出てから姉貴の部屋に入ったことはない。だがこの時ばかりは好奇心が上回っていた。部屋に入ると案の定タンスの上にぬいぐるみが置いてあった。

(どれがいらないぬいぐるみなんだろう・・・。)

そんなことを考えながらぬいぐるみを選んだ。

人気キャラクターやご当地ものを省くと、どこにでもあるテディベア(ノーブランド)が最終候補になった。

すぐに準備に取り掛かる。・・・準備が終わったのは午前2時50分頃であった。

ギリギリ間に合ったことに安堵しながら、1人かくれんぼが始まった。

誰もいない暗い部屋に自分ひとり…

さすがに怖かった…

でも、究極ではなかった。また、心霊現象も起きない。

時々、パキッっていう音が聞こえたりするが、そんなの1人かくれんぼをしていない普段の生活でも鳴ることがある。こういう音を心霊現象と勘違いしているだけか…

などと、考えながら終わらせようと思った。

インターネットに記載のあった手順で終わらせ、使用したぬいぐるみは中身のお米を出して、乾燥機で乾かし、出した綿を詰め直し、テキトーに糸で縫ったら、姉貴の部屋の元の位置に戻した。

一連の作業が終わると、ホッとして眠気が一気に襲ってきた。時計を見ると朝の6時を回っていた。

自分の部屋のベッドに寝転がるとすぐに眠りについた。

プルルル…プルルル…

すこやかな眠りは、携帯の着信で妨げられた。

母からだった。

携帯の時計を見ると朝の10時過ぎ…

無視しようかとも思ったが、着信が長いことと心配をかけたくないので、しょうがなく出る。

「もしもし。」

最初なんて言ったか分からなかったが、泣いているのは確かだ。

「…お姉ちゃんが、お姉ちゃんが…」

もう何を言っているのか分からない。

「もういい。貸してみろ。」

電話の向こうで父の声がした。

「もしもし。今な、病院にいるんだ。」

「うん。」

「昨日はお姉ちゃんの部屋に泊まったんだがな、朝いつまで経ってもお姉ちゃんが起きてこないから、起こしに行ったんだが、実は目を覚まさないんだ。昨日は元気だったんだが…。今、病院でみてもらっているが、原因が分からないらしい。そういう訳だから、しばらく帰れなくなるかもしれん。大丈夫か?」

「大丈夫だよ…」

それからは何を話したか覚えていない。

実は父の話も途中からはこういう感じだっただろうという想像で書いてある。目を覚まさないというのを聞いてから、もう頭はパニックだった。

思い付く理由は一つしかなかった。

偶然かもしれない…。

いや、間違いない。

頭の中で自分を肯定したり否定したりを繰り返していた。泣きそうなのをなんとかこらえ、あることを思い付いた。

それはBの存在である。

普段から幽霊が見えると言っているBは、少し浮いた存在ということもあり、大学の友人を通じて連絡先を交換したものの、今まで連絡したこともなければ、大学であまり話したこともない。

それどころか、友人とおかしいやつなんて笑っていた。

でも、思い付いたのはBの存在しかない。

意を決してBに連絡する。

「はい。」

Bはすんなり電話に出てくれた。

「同じ大学の◯◯だけど…。」

「うん。登録してたから知ってるよ。どうした?」

「B…」

泣きそうな声で、来てほしい旨を必死に話す。

「分かった。今から行くね。」

Bは話を疑う様子もなく、すんなり来てくれるという。

Bはそれから30分くらいで来たと思う。

俺には3時間くらい経ったように思えた。

ピンポーン

「B…すまない。来てくれてありがとう。」

「いや、友達が困ってるんだから当たり前だろ?」

「すまない…。」

「そう謝るなって。上がるぜ。」

Bが玄関に入るなり言う。

「うわ…。何したんだよ、お前?」

「1人かくれんぼ。」

「えっ…?1人かくれんぼってあの?」

「うん。」

Bに今までの経緯を話した。

「それ…途中で終わってるよ?」

「えっ?」

「ぬいぐるみは最後燃やさないといけないんだよ。」

………インターネットで、1人かくれんぼを見つけた俺は浮かれて実は途中までしか見ていなかったことに気付く。

「とにかく、そのぬいぐるみはお姉ちゃんの部屋のタンスの上にあるんだな?」

「うん…。」

「よしっ!分かった。俺が取って来るから、ジッとしておいてくれ。霊感のないやつが行くと危険な目にあう可能性もあるからな。」

「分かった。」

姉貴の部屋を案内し、Bが中に入って行く。

Bが姉貴の部屋から出てくる。

「テディベアなんてなかったぜ。」

「えっ?そんなはずは…。」

姉貴の部屋に俺も入るが、タンスの上に使用したはずのテディベアがなかった。

「どうしよう…。」

声にならないような声で呟くとBが言う。

「諦めるなって、他に何か手があるはずだ。…そうだ。俺が悪い霊に付きまとわれた時によく行く神社にお祓いをしに行こう。」

俺はすがるような気持ちでBとその神社に出掛けた。

神主にまた経緯を説明する。

「分かりました。では早速取りかかりましょう。」

お祓いが終わり、神主が言う。

「これで一時は大丈夫でしょう。でも、お話を伺うとまだ途中らしいですね。ちゃんと終わらせないとこれから先も絶対安心か?と言われると分かりません。」

「…そうですか。でも、ありがとうございました。」

Bとは神社で別れて自宅へ帰る。

自宅へ戻ったとたんに電話が鳴る。

父からだった。

「お姉ちゃんの意識が戻った。だが、数日検査のため入院らしい。詳細が分かり次第連絡する。」

話が終わった時には、安堵して涙が自然とこぼれた。

その日は色々あってクタクタだったのと、昨日あまり寝ていないので、夜7時頃には布団に入った。

布団に入り、頭の中をあることがよぎった。

(まだ、終わってない…。)

数日が経ち、姉貴がもう大丈夫だということで両親が帰宅してきた。

原因は最後まで分からなかったらしい。

俺は姉貴の話を聞く度に罪悪感にかられ、また、まだ終わってないのでは?という恐怖にかられた。

大学では以前とうって変わって、Bと仲良くなっていた。その為か、元々親友のAと3人で行動することが多くなっていた。

そして、幽霊が見えるというBをバカにするようなやつはシカトするようになっていった。

1人かくれんぼのことも忘れかけていたある時、俺とAとで今度の休みに独り暮らししているBのアパートに遊びに行くことになった。

この数ヶ月でBとは親友になっていた。

当日、自宅の前でAの車に乗せてもらい、Bのアパートへ向かった。

アパートは1DKのどこにでもあるアパートだ。

玄関から入り、すぐが台所。そして、壁を隔てて別な部屋という感じだ。

Aは笑顔で迎え入れてくれた。

台所を通り、奥の部屋の扉を開けると絶句した。

オカルトグッズの山だ。

(ヤバい…)

どうにか、帰る理由を見付けて立ち去りたいと考える内にあるものが目に入った。

「テディベア」

「えっ…。」

思わず、声が出てしまった。

「気付いたかい?懐かしいだろう。」

頭がパニックになる。ふと横を見るとAも笑っている。そして、Aが口を開いた。

「お前さ、Bのこと頭おかしいって言ってたろ?実はな俺も見えるだよ。人には見えないものがお互い見えるからすぐに仲間だって分かったよ。」

「Aと俺とはすぐに打ち解けた。でも、学校じゃ友達じゃないふりをしてたんだ。…今までバカにされてきたからな。復讐してやる為にな。」

「1人かくれんぼ、俺が教えたろ?お前なら、絶対にやると思ったんだよ。その後でBに、お前に何か憑いているような振る舞いをさせて怖がらせるつもりだったんだがな、まさか自分で手順を間違えてくれるなんて。嬉しいぜ。しかも、それで本当に悪いことが起きるなんて。」

「俺に電話があった時にはまさかと思ったよ。でも、笑ったね。あの必死さ。…あの時、最初俺1人で部屋に入ったろ?あれな、このぬいぐるみを取って、隠す為だったんだよ。最初からぬいぐるみは部屋にあったんだよ。服の中に隠したの。よく見れば膨らんでて分かったのに、お前さ、必死過ぎて見てねーの。泣きそうな面して笑ったぜ。」

「くそがっ!」

「あっ?もう一度言ってみろ!お前がお祓いしてもらった神社な、あそこからもらったお札がこのぬいぐるみには貼ってある。これを剥がしたらどうなるだろうな?」

「………。」

「そうそう。おとなしくしてればいいんだよ。」

「お前は俺たちをバカにしたバツとして一生奴隷な!」

「返事は?」

「………。」

ここまで来ると、怒りもあってか、少し冷静になった。パニック状態から、あのお札が、あのぬいぐるみが一体なんだというのだ?という気持ちとこの場から逃れたいという気持ちに変わる。

そして、顔を伏せたふりをして周りを少し見渡した。台所から通じている扉が開いている。そして、台所の台の上によくうどんとかに入れる唐辛子の瓶があることに気付く。

「1つ条件がある…。」

わざと怖がったような震えた声で言い気をそらして、扉の外に走る。

「待てっ!」

追いかけて来るAとBに急いで、唐辛子の瓶の蓋を開け、中のキャップも取り、AとBの目の高さぐらいに撒き散らす。

「うっ!」

よろけた隙を見て、AとBを押し退けて、先ほどの部屋に入り、例のぬいぐるみを掴み、玄関へUターンした。

外に出た後、Aの車で来たことを思い出し、果てもなく無我夢中で、走りに走った。

気付くと、例の神社があった。

急いで神主さんの元にいき、

「お願いです。お祓いを。お祓いを。」と繰り返した。

ただ事ではないことを察したのか、すぐに神主さんがお祓いをしてくれた。

それからは奇妙なことは起こっていない。

行っていた大学は中退し、他の大学に行くことにした。

社会人になった今でも幽霊が見える、見たことあるといった人でもバカにすることはない。

普通の生活に戻っているが、AとBが実家の場所を知っていることをたまに思い出しては、不安になっている。

Concrete
コメント怖い
0
11
  • コメント
  • 作者の作品
  • タグ