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中編4
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ハイヒールガール

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絶対私は綺麗じゃなきゃいけないの。

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中学校のとき、あまりに冴えない見た目とオドオドした態度で私は損ばかりしていた。

いじめられてこそいないが、その不当な取り扱いは、大人しい可愛い子の「それ」とは違った。

(あの子はいくら喋らなくてもだれか側にいてくれるのね………かわいいから…)

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初めて母に化粧を施してもらったとき、鏡の中に映る自分に惚れ惚れした。

今思ったら全然そんなたいしたものじゃないんだけれど…。

それで、高校は自由な校風のところだったから毎日化粧して制服もお洒落に着崩して登校したの。

そしたら、これまで住む世界が違うと思っていたグループに入れた。

見た目に自信が持てたら、次第に態度も堂々となってきた。

「おーい、お前ちょっとケバすぎんかー?」

と風紀の先生に言われることもあったけれど私はお構いなしだった。

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両親の忠告も聞かず、派手な化粧で遠い親戚のお葬式に出席した。

みんな私の顔をじろじろと眺めた。

親戚の1人が私におずおずと声をかけた。

「あらまぁ〇〇ちゃん、…すごく変わったんやねぇ…オバちゃんは、前の方が可愛らしくて好きやったんやけど……」

私は笑顔を取り繕ってわー、ほんとですかーありがとうございますーと言った。感情など当たり前にこもっていない。

誰がアンタなんかの趣味に合わせるもんか

もう二度と戻りたくないわ。

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スタイルも良く見せたいからタイトなワンピースとハイヒールが私の定番私服だった。

ヌーブラも買ったし、補正下着も買った。

高すぎるハイヒールで最初はよく靴擦れになったが、慣れれば大丈夫だった。

むしろ、痛さなんて上等だと思えた。

誰も何も言及しないで。

私は、私は絶対綺麗になるの。

綺麗になったらチヤホヤしてくれた。

除け者にならずに済むの。

………

……

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高校2年生の秋頃、

校外学習にて、ハイキングをすることになった。

案内の紙には「各自ハイキングに適した適切な服装をすること」と書いてあった。

私は母に「私、山登りしとるから貸してあげる」と言われ、なんだが重たくてごついスニーカーかブーツか…と、妙な柄のTシャツとゴムの伸びるハーフパンツとルーズソックスもどきを手渡された。

「こんなんダサい」

「文句言いなや、ハイキングやろ?靴は大袈裟かもしらへんけど他はええやんか」

「絶対無理、着たくないわ!履きたくもないし!」

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口論の末、私はいつものワンピースとハイ

ヒールとお小遣いを貯めて買ったブランドのバッグを下げて家を出た。

クラス全員…というより、学年全員がこちらを凝視した。

同じグループの子たちも

「え、それウケ狙い?やばない?」と口々に嘲笑した。

教師は私の今日の活動をやめさせようとした。

黙れ黙れ黙れ黙れ!!!!

いつでも完璧な自分じゃないとやだ!

こんなでもハイキングくらい余裕に決まってる!!!

私は無心でコースを確認し、歩き回った。

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そう、本当に無心だった。

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皆が私を引き止める声も聞こえないほどに、私は必死になって歩いていた。

しばらくして、ここの道が一体どこなのかわからなくなってしまった。

不安に苛まれた。

でも小さな山……たいしたことない…

観光もちらほらいる…

登山客も少し登るといるよね…

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私はまっすぐ道を進んだ。

だが、途中で行き止まりになり、雑木林ばかりになった。

(なんで…?)

携帯も当然繋がらない。

雑木林を切り開いて進もうとすると、足元にあったらしい枝に足を引っ掛け、大きく転んだ。

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痛い

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薄いワンピースは体を守ってくれない。

ハイヒールは私の足を疲れさせ、痛めつける。

それでも、私は綺麗でいたかった。

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ハイヒールを履いて、ワンピースを着て、ブランドバックを下げた私は、深緑の中を彷徨い続けた。

このまま誰も私を見つけてくれなかったとしたら、私は餓死でもするんだろうか。

そうなったら……

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とても醜い

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私の足は血まみれで、体も痣だらけで髪の毛もボサボサで、見せられたもんじゃない

誰も何も見つけないで。

私は綺麗に死にたい。

綺麗に死なないなら見つけられたくない。

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「……『〇〇高校ハイキング行方不明事件』からはや10年が過ぎました。当時17歳だった〇〇さんはいまだ見つかっておらず…」

ビルの大画面テレビにはニュースキャスターが沈んだ声と表情をつくっている姿が映し出されている。

私はしばらく呆然とそれを眺め、寝床に帰っていった。

私は、公園のベンチで薄汚れた毛布にうずくまっている。

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もう、綺麗じゃないから

「誰も見つけないで」とつぶやいた。

ハイヒールの折れたヒールを撫でた。

Concrete
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