私の住んでいる町内の山奥での仕事が入った。
私の仕事は二人で行う。仕事は順調に進み、終盤に差し掛かった時に、ふと奥を見ると人がいる。この山奥に人?と思い、よくよく見てみると浮いている。………いや、首を吊っているのだ。
まぁ、自分のいる場所からは離れていたので、さほど恐怖は感じない。こういう時はなぜか冷静だ。一緒にいる人に「見ないでください。首吊りです。」そういうと、警察に電話した。
警察の現場検証が終わり、「連絡先は亡くなった方のご家族にお教えしてもいいですか?」との質問。
以前投稿した通り、この質問にはトラウマがある。なので、教えたくはないが、一緒に仕事をしていた人が「構いません。」と二つ返事だったので、変な人と思われたくなく「特に問題ありません。」と答えた。まぁ、同じようなことはないだろうという気持ちもあった。
後日、自殺していた人は自宅の隣の地区の人と判明した。そして、その自殺した人の家族から電話があった。「見付けて頂き、ありがとうございました。お礼がしたいので、自宅の方に来て頂けないですか?」と言う。(普通、呼ばずに来るだろう!)なんて思ったが、断りきれずに行くと言ってしまった。徒歩で行っても5分くらいのところだ。断るのも悪い気がした。
事件の経緯はもちろん同居の家族に話していた。その為、電話の旨も父に話した。すると、表情がどんどん変わる。「行くな!いいな!絶対に行くな!」と言う。いつもなら、なんで?と聞くが、とてもじゃないが取り付く島もない。なので、素直に止めた。
翌日、職場に行くと一緒に仕事をする人が開口一番、「(自殺した人の)家に行ったかい?」と聞く。「行きませんでした。」というと、「俺は"行ってしまったんだが"、あのな…………」
電話があったあの日断りきれず行ったらしい。行くと、同じ地区の人も集まっていたらしい。
「よく来て頂きました。ありがとうございます。」と父親が言うと、いきなり遺体の顔にかけてある白い布を外すと布団も剥ぎ取った。(顔を見てくれということか?なら、布団は?)と思ったのも束の間、いきなり木の棒で遺体をドンッ。何回も叩きつける。周りも黙って見ている。
「ざまのねえこつして」
私の地域の方言で「見苦しいことをして」、という意味だ。
「このバカが…ざまのねえこつして。ざまのねえこつして。」
もう幾度となく叩く。ずっと目を反らしていたそうだ。叩くのが終わると、
「これで勘弁してやってください。」
と言われたそうだ。反らしていた目をやると父親は泣いていた。泣きながら、子の遺体を叩いていたのだ。周りは騒ぐこともなく、至って普通の顔だったらしい。それが逆に怖かった。その後にお礼の品を持たされ、帰宅したということだった。
帰宅後、近所の人にこの話をすると、「あの地区は昔から自殺で死ぬと、迷惑かけたからという事で、そうしないといけない風習なんだ。」と言われたらしい。私の町のある一定の年齢以上の方は知っているとのことだった。
この話を聞いた時に、父が止めた理由が分かった。まさか、徒歩5分の地区でそんな風習があるとは知りもしなかった。
その後もずっと隣の地区に住んでいるが、その風習が続いているのかいないのか、自殺が起きない限り分からない…。
作者寅さん