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長編14
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マンション【店長】

心霊スポットとはそもそもどうやって誕生するのだろうか。

多くの人はこう思うだろう。何かしらの曰くがあるからだと・・・

しかしそれは何故付いてくるのか、何かの事故があった、誰かが死んだ、様々な理由が存在するであろうが。そこにおそよ悲劇と呼ばれるような事象が発生した事は、紛れも無い事実であろう。

そしてそういった出来事を伝えて行く内に、それが曰くへと発展するのではないだろうか。

で、あれば─心霊スポットを創っているのは生きている人間なのではないのではないか?

此処で起こった事を忘れてはならいと・・・そう思う人間たちの想いにより、意図せず創り出されてしまうものなのでは?

しかしそれは逆を言ってしまえば、意図して心霊スポットを創り上げる事が可能だと言っている様には聞こえないだろうか─

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夜の繁華街を俺達三人を乗せた車が走り抜ける。

時計の針は23時を指そうとしているが、この場所ではまだ遅くない時間である。

スーツ姿の酔っ払ったサラリーマンの群れ、若い女と腕を組み満足そうに歩く肥えた男、ネオンに照らされたビルの間の狭い道を、様々な人間が欲望を胸に歩いている。

まだこの街は眠らない。夜は始まったばかりである。

「で?本当にこんな所にあんのかよ」

だからこそ、今から俺達が向かう場所におよそ似ても似つかないこの街を横目に、後部座席に座る女二人に声をかけた。

「こんな所にあるから面白いんじゃないですかぁ!」

そう楽しそうに声を上げたのはウチの店で雇っているバイトの少女だ。

名前は倉科沙希、職業大学生、趣味オカルト全般、そして毎度その趣味に俺は付き合わされている。

しかしこの少女、普段の言動はさておき、頭は切れるし物覚えも早い、更には外面も良く、そこらのアイドルなら裸足で逃げ出すであろう整った顔立ちをしているので店での評判はすこぶるよく、俺も信頼を置いている。

故に、性質が悪いのだが・・・

「普通の廃墟なんて今更面白くもないでしょ?普通じゃないからいいのよ、そもそも、前提からして心霊スポットなんて普通じゃないんだから」

倉科の隣に座る女が、さも当然の事だろうと言うかのように呟く。

この女は立花椛、俺の高校時代からの同級生で、まぁ腐れ縁の様なものだ。

倉科の事を美少女、と言うならばこの女は美人と言うべきだろうか。

態度、容姿、言動、性格、その全てにおいて対極にあるような彼女達だが、その根底にあるものは変わらず・・・故に俺はこの二人を決して出会わせたくなったのだが。

まぁ出会ってしまった結果がこれなのである。

どんな化学反応を起こして反発するかと思えば意気投合。俺を廃墟に引っ張り出す始末。

何も知らない一般人からすれば、美女二人を侍らせて繁華街を高級セダンで走り抜ける勝ち組に見えるだろう。

しかし俺の心の中は超巨大台風と大寒波プラス猛吹雪が両方示し合わせて直撃してきた様なものである。

「ちょっと失礼な事考えてないですか?」

「凄い失礼な事考えてるんじゃないの?」

途端、背後から刺すような気配を感じる。だめだ、コイツらには勝てない。

半ば諦めを覚えつつ、俺はアクセルを気持ち強めに踏み込むのだった─

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繁華街からほんの数分車を走らせただけで、目的地に到着した。

俺達の目の前にあるのは、まだ比較的新しいタワーマンションである。

此方から視えるベランダの数を数えれば13階建て。

すぐそこに繁華街があり、周囲は同じようなマンションに囲まれ、夜中だと言うのにまだ明るい。

「ここで合ってるのか?」

とても曰く付きの廃墟には見えないソレを前に、俺がそんな疑問をぶつけてしまうのは当然だろう。

「詳しい事は中で話しましょー!さぁ!いきますよぉー!」

相も変わらず元気な事である、もう使われていないマンションの駐車場に車を停め、勇み足の倉科に続こうとしたのだが─

「最悪・・・」

比喩では無く、ありとあらゆる憎悪を込めたかのような低い声で、俺の隣に立った椛が呟いた。

先客が居たのである、文字通りの意味だ。

エントランスへの入り口に至る、もう壊れて機能していない自動ドア。丁度その手前で見るからに頭の弱そうな若者グループがはしゃいでいる。

男女共に二人ずつ、計四人のそのグループは、年齢は倉科と同じくらいだろうか、しかし彼女と決定的に違うのはその見た目である。

まるでサブカルチャーの世界から飛び出て来たのではないかと言う程の髪の色、赤、金、青・・・とまぁベッタリ染め上げられ、女二人においてはどれだけ貼り付けてあるんだ?と思えるくらいの化粧、一言で言おう、ケバイ。

お前達はその年で難聴なのか?とさえ思えるような大声で喋っている。

相手にするのも憚られるタイプの連中である。

それは椛も一緒で、こう言う人種を毛嫌いしている。倉科も似た様な考えだろう。

しかし、此方が気付くのに、彼方が気付かない筈もなく。

「おっ、おねぇさん達もここに遊びにきたのかなぁ~?」

等と言いながら此方に歩み寄って来る。だから声がでかい。

「そうだけど、それがどうかしたの?」

此処まで来ておいて違う、等と言えるわけもなく。渋々と底冷えする声で返答しながら椛が前に出る。

既に臨戦態勢体制なのは如何なものかと思うが、まぁこの女はほっといても大丈夫だ。

「いやぁ俺らも遊びに来たんだけど?女どもがちょ~っと怖がっちゃってさ、大人数なら大丈夫だろ?って思うじゃん?一緒に回りません?」

へらへらと調子良く喋りながら椛の前に立つ金髪野郎。酒くせぇぞ。

もし、椛に触れたりするような事があれば即止めに入れるようにと、一歩踏み出そうとしたが。しかしそれは杞憂に終わる。

「いいけど、私達の邪魔はしないでよ?吊るすわよ?屋上から」

瞬間、周囲の温度が2度は下がった。気がする・・・嗚呼、気がするだけだ。

しかし彼らに、この女はヤバイ。そう思わせるには十分過ぎる程の恐怖を与えたのだろう。

「それでいいです!ぼくら後ろついてきますんで!」

この有様である、情けない。そもそもお前ぼくなんて言う様なガラじゃねぇだろやめろ。

こうして、紆余曲折あったものの、奇妙な集団となり、俺達七人の廃墟探索が始まった─

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外観だけでなく、内部まで比較的まだ綺麗で荒らされてもいないこのマンションはやはり築2年と言う真新しい物だった。

「ただですね・・・建築後すぐに入居者達に不幸な事故が相次いで遭ったみたいで、住む人は減るし新しい人は入らなかったみたいなんですよ。

なので、こんな新しいのに廃墟になっちゃったみたいです。」

倉科からこのマンションがこうなるに至った経緯を聞きながら俺達は階段を昇る。

「ただ、不可思議な事にですよ。

この場所、このマンションが建つ前も一回り小さいマンションが建ってたのに、その時は何も無かったんですね。

しかも建築中には何の事故も起きてないんですよねぇ」

つまり、ここが建ってからおかしな現象が起き出した・・・と言う事である。

「えぇー!怖いー!」

等と後ろでケバイ女Aが叫んでいるが、うるせぇ、お前の厚化粧の方が怖いわ、どれだけ化けてんだてめぇ。

心の中で突っ込んで置き、疑問を口にする。

「具体的には入居者に何があったんだ?」

「それは私が説明するわ。色々調べてきたから」

倉科に代わり、椛が淡々と、彼らに訪れた不幸を話し始める。

「経営してる会社が倒産し、離婚、その後部屋で首を吊った男性、この人がまず1件目。

階段から我が子を突き落とし、死亡させた母親、後に警察の取り調べ中に自殺。

ホストに貢いでいたキャバ嬢、痴情の縺れから部屋でホストを刺す、死にきれず廊下に逃げた彼を追い、その場で滅多刺し、その後彼女も自殺。

受験を控えた男子高校生、屋上から飛び降りる、動機は不明」

等々、出るわ出るわ、聞いているだけで吐き気を催すような事件がさらに多数。

最早呪われているとしか思えない程の事件の数々。

「私は刺さないからね?タクミ?」

ケバイ女Bが赤髪クンにほざいている。

「私が引導渡してやろうか?」

小声で呟く椛が怖い。

「オープンから2年そこそこでそんなに事件があったのに、ニュースで報道された記憶なんかないんだが。それは真実なのか?」

こんな街中に存在し、俺の家からだって車で30分程度で行ける距離にあるこのマンションでそんな凄惨な事件が多発していたなんて事は他聞にして聞いた事が無かった。

「そ、だから面白いの。ほとんど表に出てないんだ、これらの事件。これだけの事があったのにも関わらずね。

しかも、マンションの管理人は行方不明・・・なのに、廃墟になった今もマンションを維持する為のお金は払われ続けてる。どう?これ」

「どうもクソも・・・意味が解らんな・・・

そもそも管理人って、不動産会社が経営してるんじゃないのか?

この規模のマンションを個人で?」

面白い・・・なんて次元の話ではなくなって来ている気がする。

今までこの女共に連れまわされて色々な所を巡って来た。その中でも群を抜いて異常、異質、奇妙。

「そう、個人で。意味わかんないでしょ?

まぁ、本当に危ない事件程表に出ないって言うし・・・そう言うものなのかな?なんて片づけられる問題じゃないけどね」

椛が喋り終われば、辺りを静寂が包み込む。

聞こえるのは俺達七人が階段を昇る足音のみ。

やんちゃな四人組はすっかりビビっているのか静かなものだ。

9階の廊下に到着したその時、異変は唐突に俺達にも降りかかって来た。

一気に空気が重くなる、身体を撫でる夜風はさっきよりも確実に寒気を増している。

心が苦しい、重い。絶望、諦観、憎悪、憤怒、嫉妬、悲哀・・・諸々、およそ人間が抱きうる負の感情その全てが、俺の中に流れ込んで来るような感覚を覚える。俺達の恐怖心をさらに倍増させる。

「なん・・・だ、これ」

後ろを振り返れば、続く皆も同じように苦悶の表情を浮かべている。

引き返すべきだろうか?否、それは得策ではない。

もし引き返した所で、コレが治らなかったらどうする?

原因が解らない以上、対処する事もできないではないだろうか?

「店長、あそこじゃないですか?」

そんな俺の逡巡も束の間、倉科が9階の一部屋を指さす。

玄関からはドロドロとした、最早ヘドロと言っても過言ではないような空気を垂れ流している。そう、視覚出来る程に。

俺達三人はその部屋へと向けて歩を進める。

「ちょっとアンタら!あんなとこいくのかよ!まじやべぇよ!普通じゃねぇよ!」

後ろから大声で喚かれるが無視する。

そもそも俺達自体が普通ではないのだし、この現象だって普通ではない。

にも拘わらず普通の行動を取ってどうしろと言うのだろうか。

「クソっ!どうなってもしらねぇぞ!」

諦めたのだろうか、それとも俺達と居た方が得策だと判断したのだろうか。

悪態を吐きながら俺達に付いてくる四人組。

908号室、災厄を垂れ流すその扉を潜った俺達、きっとここに何かがあるのだろうか。

七人全員が室内に入った途端であった─バタンッ!と、凄まじい音を立て、玄関が閉まる。

「うわっふぃ!」

その音に反応したのか倉科が叫ぶ、コイツは毎度奇声のバリエーションを増やしていくな。

そしてその当の玄関は、文字通り閉められていた。

「ちょ!開かねぇよ!なんなんだよおい!」

赤髪クンがドアノブを勢いよく回し、体当たりをかましているが、ビクともする気配が無い。

「ちょっと、勢い付け過ぎてドアノブ壊したりしないでよ、本当に出れなくなる」

周りの焦り様は尋常では無い為か、俺と椛は大分落ち着きを取り戻していた。

薄暗い室内、後方は相変わらずやかましいが、俺達はこの908号室を探索する事にしよう。

しかしそれは必要の無い事であったと、瞬間気付く。

玄関から伸びる廊下、その先にあるのはリビングであろうか、その少し広い空間にそれは吊るされたいた。

天井にロープを引っかけ、自らを吊るすは中年の男。倒産、離婚、先ほど椛から聞いた話が頭に浮かぶ。

であれば、この空間に充満する負の空気も説明が付くと言うものだ。

眼を見開き、舌は垂れ下がり、気道を圧迫されているのだろう、「ウッ・・・カッ・・・」と、言葉にならぬ空気を漏らすソレは苦悶の表情を晒している。

垂れ流した糞尿の悪臭まで漂って来そうな程の存在感。今まで色々と視て来たが、ここまで異常なモノがあっただろうか。

しかし、俺にどうしろと?貴方だけではないのだ、此処には─

「お前か!?お前のせいなのかよ!」

背後からの怒号で俺の考えは吹き飛ばされる。

「死んでまで俺らに迷惑かけんなや!今楽にしてやるからよ!」

最早意味の解らない身勝手な怒りをぶつける金髪クンの手には、風呂場から持って来たのだろうか。物干し竿が握られている。

「やめた方がいいよ?半端な覚悟で向こうの人に手を出すのは」

今までとは違う、普段の優しい声で椛が彼らを諭す。

が、その声は届かない。

「じゃあどうしろってんだよ!このままじゃ俺ら出られねぇじゃないか!」

そう言って彼は、手にした竿で天井の梁を、ロープが括り付けられた部分を破壊する。

土台、無理な話だと思うだろうか?否、簡単な理屈である。

彼らとて、当然だが生前は人間だ。いくらこちら側では無くなったとは言え、生きていた頃の感覚を有している。

つまり、こうなってしまえばもうロープは支えられない、そう言った認識さえ変わってしまえば・・・

落ちる・・・そう、吊るされて居た男は、まだ綺麗なフローリングの上に落下した。当然だ、支えがないのだから。よもやロープだけで浮いていられるとは思うまい。

男は、一瞬安堵の様な表情を浮かべて消えていった。

「ほらな!見ろよ!俺って天才かよ!」

息を荒げながら叫ぶ金髪クン。実に面倒臭い事をしてくれた物だと、反面俺は思っているのだが・・・

「おい!開くぞ!お前すげぇな」

赤髪クンが玄関が開く様になったのを確認して叫ぶ。

その声を聞き俺達は玄関に向かい、この部屋から脱出する事は出来たのだが。

─やはり、まだ終わらない。

一瞬目が合った。廊下の縁から見えるまだ明るい街並み、それらを遮るように、真っ逆さまに落ちて行く男性と・・・

学ランを着ていたように見えたが・・・嗚呼、これも先程椛から聞いたな、等と思考した瞬間、遥か下方より何かが弾ける音が響いた。

次いで、何かが吹き出すような音、振り続けた炭酸飲料を開けた時の様な音だ。

音の方を見て見れば、女が男に馬乗りになり、一心不乱に何かを振り降ろしている。

何かとは既に言う必要もないだろう。真っ赤に染まった男は此方に手を伸ばし、まるで助けを求めているように見える。

事実求めているのだろう。女も此方に気付き、立ち上がりゆっくりと近づいて来る。

「行くぞ」

俺がそう言うと同時、皆一斉に階段へと走る。

が、ナニかが上階より転げ落ちて来る。眼を向ければまだそれは幼い女の子であった。

関節の至る所が折れ曲がり、既に人間としての形を成し得てすらいないソレは縋る様な目で此方を見つめる。

ふと上を見上げれば、踊り場には髪はボサボサに衣服もボロボロの比較的若い女。母親だろうか。

また彼女も同様に、此方に気付くや否や、凄まじい速度で階段を降りて来る。

「なんだよコイツらぁ!俺が何したって言うんだよぉ!」

掠れ震える声で金髪クンが叫ぶ。

「だから言ったでしょ?やめた方がいいよ?って貴方なら救ってくれる・・・彼らはそう思ってしまってるから」

そう、此処に居るのはあの男性だけではないのだ。他に無数の存在が蠢いている。

そして彼らは、救いを求めているのだから─

「お前天才なんだろ!なんとかしろよ!」

8階、7階と下った所で、俺達を追いかけるモノの数は増えていた。

最早直視するのも躊躇われる程に悲惨な彼らを前に、赤髪クンは金髪クンを突き飛ばす。

「おまっ!ふざけんな!元はと言えばお前がこんな所に!」

瞬間、赤髪クンを掴み、もんどりを打って倒れ込む二人組。

「馬鹿なんですか?この状況でそんな事して」

先程までの椛すら可愛く見える程、底冷えする倉科の声が響く。

が、もう遅い。既に囲まれてしまった金赤コンビの叫び声を背に、俺達は階段を降り続けるのだった─

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アクションスター顔負けのスピードで車に乗り込み、スターターボタンを押し込む、同時にローギアに入れ、半クラからのエンジン全開。

もう一度同じことをやれと言われても絶対に無理だ。

マンションが見えなくなり、漸く一息吐き、コンビニの駐車場に車を停める。

ペットボトルの水を五本購入し、共に車から降りた四人に渡した。

俺と、倉科と、椛、ケバイ女ABの分である。

「あの二人は!置いてきちゃったけど大丈夫なの!!??」

ここに来て少し落ち着いたのだろう。泣きはらし、色々と剥がれ落ちた顔で叫ばれるが。

「大丈夫じゃない?朝下見に行った時は何も無かったから夜が明ければ勝手に帰って来るよ」

俺の代わりに淡々と答えたのは椛だった。コイツ下見なんかしてやがったのか・・・

「ホラー映画であるじゃないですか、気絶して起きたら朝だった。ってヤツです!あれと一緒ですよ!どうせあまりの恐怖で覚えてないですから!忘れた方がいいですよ!」

努めて明るく、しかし言外に忘れろと倉科は言う。

「そう言う事だ、今日の事は悪い夢だとでも思ってくれ。じゃないと君らが持たないぞ」

「店長私の時と違って優しくね?」

「悠真は昔からこういう人」

通常モードに戻った二人を乗せて俺達は帰路に就いた。

「うーん・・・今回はさすがに凄かったですね・・・しばらく怖いの控えようかな」

「お前明日にはその言葉わすれてんだろ」

「ひどー!そんな鳥頭じゃないですし!」

「偶然、にしては凄いわよね、あれだけ事件が多発して、かつそれらが全て現場に残り続けて居たなんて」

「まぁしかし?オカルトなんてそう言うもんだろ、俺らには理解なんて出来てねぇよ」

「店長くーるぅ!」

「悠真、冷めてる」

「うるせぇおまえら!」

時刻は深夜、もう人通りもまばらになった繁華街を俺達を乗せた車が走り去って行く─

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偶然でなかったとしたらどうだろう。

全てこうなるようにと、決められていた事だとしたら?

例えば─立地、建物の向き、部屋数、階数、それら全ての条件を整え、まさに地獄を創り上げようとした存在が在ったとしたら?

先程まで浅葱悠真達の居たマンション、その隣に建つもう1棟のマンションの屋上に二つの影が立って居た。

惨劇のマンションを見降ろしながら影は言う。

「まずは第一段階、と言った所か」

「ええ、ですがまだ」

「解っている、この程度では話にならんよ。ここまで大がかりな仕掛け、そこら中に組めるものでは無い」

どこか威圧的な態度を取る人物と、その後ろに控える人物。

その姿はこの夜の中でははっきりと見て取れる事が出来ない。

が、会話から察するに彼らがこの惨劇を創り出したと言うのだろうか。

一体どれほどの犠牲を出して、まさに畜生とも言える所業ではあるが、何のために?

「しかし、あの三人組なかなかどうして度胸があると見える。いや、あれは単に慣れているだけか」

多大な費用と犠牲を払って創り上げたモノに、既に興味を失ったのだろう。

この人物は悠真達の車が走り去っていった方角を見つめていた。

「調べておきますか?」

「ああ、なにいつか利用できるかも知れん。使える人材は多いに越したことは無いさ・・・」

そう言って笑った声は、全うな精神を持つ人間ならそれだけで発狂してしまいそうなほど、不気味な音をしていた─

Concrete
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