中編3
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続 牛鬼

 おかしいと思ってたんだ。確かに思いっきりぶつかったはずなのに、これだけで済んだなんて。

 ――なっ、ここどこだと思う。

 場所聞いてんじゃねーよ、さっきのおっさん見たろ? 

 だ、か、ら、ここはいつの時代かって聞いてんだよ。

 お前ら何顔見合わせて笑ってんの? 頭なんか打ってねぇ。

 もし、もしもだよ、ここが大昔だとして俺ら牛鬼に間違われたとしたらどうなると思う?

 どういうこと? って、だからタイムスリップしたんじゃないかって言ってんだよ。俺たちが伝説なんじゃないかって。

 笑ってる場合じゃねえよ。

 俺が話した牛鬼の末路思い出せっ、もうすぐ鋤とか鍬持って大勢押しかけてくるんじゃないかっ。

 いつまでもこんなとこにいたらヤバいぞ。

 おいっ、車動くか確かめろ。

 ああいいよっ。頭がおかしくなったと思うんならそれでもいい。とにかく車を動かせ。

 よしっ。エンジンかかったな。

 ここへ来た時と同じ状況にしよう。車を思い切りここにぶつけるんだ。文句垂れてないで、言ったとおりにしろよっ。

 な、なんだ。どうしたんだ。えっ、人がいっぱい来た?

 だから言ったろ。鍬や鋤持って襲ってくるって。

 早くっ、早くっ、アクセル踏み込めっ。

 思いっきりぶつけろぉぉぉぉぉっ――

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 くねくねした山道を男女のハイカーが歩いてきた。

「ここの場所にはね、牛鬼伝説があるんだよ」

「あ、妖怪の漫画で見たことある。

 すごいね。昔は今みたいに簡単にハイキングに来られるような山じゃなかったんだろうね」

「あ、あれ事故かな?」

 男性の指さす方向に不自然な形で黒い車が止まっていた。フロントを山肌に突っ込んだ形になっている。普通ならぶつかったということなのだろうが、ぶつかったにしてはその痕跡がなく、埋まっていると言うのが一番正しい言葉かもしれない。

 だが、土砂に埋まっているのでもなく、もちろん崖崩れの跡もない。山肌から生えているように埋まっているのだ。

 二人は恐る恐る車に近づいた。

 中から呻き声のようなものが聞こえ、男性の指示で女性が携帯電話で救急車と110番に連絡した。

「だいじょうぶですかっ」

 男性が急いで後部座席のドアを開ける。

 中で呻いているのはどろどろとしたものの固まりだった。人の手のような突起や髪の毛に似たものがところどころに生え、苦し気に閉じた複数ある目も人のそれに似ていた。

 驚いて動けない男性の横から通報を終えた女性が覗き込み、大きな悲鳴を上げた。その声に全部の目が一斉に開き二人を捉えた。

「どぁどぅどぇでぇ――」

 あちこちにある亀裂が開き、濁った声を出す。赤い粘膜の中には人と同じ歯列が見えた。

 男性は慌ててドアを閉じ、女性とともにその場を離れた。

 二人は沈黙したまま、急いで山道を下り、主要道に出ると、ちょうど走ってきた路線バスを止め飛び乗った。

 途中パトカーと救急車にすれ違ったがどうなったのか、その後のことはわからない。

 自分たちが見たものはなんだったのか、男性はしばらくの間新聞の記事をチェックしていたが何も載らなかった。

 疲れが見せた幻だったのかそれとも現実だったのか――

 二人とも目撃したのだから現実に違いないと思う。もしそうなら隠蔽されたということか。

 牛鬼が今も生きているのだと、男性は信じて疑わなかった。

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