バイトから帰ってくると、居間のテレビがついていた。
[本日のゲストは今話題沸騰の人気占い師"鬼道源右衛門"さんです!]
テレビに現れた男は水晶玉を覗き込んでいる。
『おかえり〜。』
「ただいま。…鬼道源右衛門。」
『もう色々引っ張りだこみたいだよ。』
「へぇ〜。天も占いとか好きなの?」
テレビを見ながら煎餅を食べていたのは"天子"本名は"天衣(てんい)"俺の妹で唯一の肉親だ。
鞄を置くと仏壇の前に座り手を合わせた。
「ただいま。父さん、母さん。」
両親は俺が中学生、妹が小学生の頃に亡くなった。
現在、俺は大学生で妹は高校生である。
『ご飯は?』
「店で食べてきたよ。」
上着をハンガーにかけていると
『ねぇ、兄様(あにさま)。』
テレビを見ていた妹が俺の方を視ていた。
「ん?」
『何があったの?』
俺は苦笑いをするしかなかった。
「今日な…」
ーーーーー
以下回想
今日、講義が終わりバイトに向かうために校門を出ると1人の男が立っており、声をかけてきた。
《すいません。童切 夜守綱(やすつな)君ですか?》
「どちら様ですか?」
《いきなり申し訳ありません。私はこういう者です。》
"占い師 鬼道 源右衛門"
「占い師の方が私に何の御用ですか?」
《助けていただきたいんです。話を聞いていただけませんか?》
校門の前で男同士が神妙な顔つきで話している。
端的に言えばこの状況はすごく目立つ。
「わかりました。」
《ありがとうございます。あちらに車を停めてありますので。》
そう促され、俺は鬼道邸へと向かうことになった。
ーーーーー
鬼道邸は一等地に建っていた。
それを見ただけでかなりの財を成していることが伺えた。
俺は応接室へと通された。
俺みたいな学生には縁のない様な部屋だった。
ソファーへと腰をかけると
コンコンとノックの後女性がコーヒーを運んで来てくれた。
俺と同い年くらいだろうか。
《娘の美世です。》
「ありがとうございます。」
美世さんはお辞儀をすると部屋から出て行った。
「お話を伺いましよう。」
《はい。》
ーーー--
以降、鬼道源右衛門の話。
全ての始まりは5年前に遡る。
鳴かず飛ばずの占い師をしていた鬼道源右衛門。占い師としてだけでは食べれないため、昼間は工事現場で働いていて生計を立てていた。
妻子持ちであるが故に妻からは遠回しに占い師をやめて欲しいと言われていた。
「はい。本物になれば富も名誉も全て思うがままですよ。古来より、占い師というものは陰で権力を握り全てを操ってきた。それは現代でも変わらぬ。時の権力者といものはそういう者の言葉を信じてきておる。…どうですかな?」
対価…?
俺に渡せるものなのか?
もはや、何もないのと変わらないのだ。
何でも渡せる。先行投資と思えば良い。
「そなたが契約者か?」
《うわぁ?!》
「本物になりたいのであろう?」
《…はい。》
「ならば対価を差し出せ。この眼をくれてやろう。さすればそなたの求めるものが全て手に入る。」
俺を蔑んだ者たち
バカにした奴ら
そいつらを踏み潰せるほどの力を…
そして
鬼道源右衛門は契約をした。
----ー
「"鬼の眼"を契約したんですね。」
なるほど。
それは占い師にとっては最高の眼だな。
「何を対価にしたんですか?」
《それは…寿命だ。娘の…寿命だ。》
なんて男だ。
他者どころか、己が娘の寿命を差し出したのか。
反吐がでる。
「私にどうして欲しいんですか?」
《…娘の寿命を取り戻して欲しい。》
鬼道は俯きながら答えた。
「無理です。」
《えっ…》
即答されるとは思わなかったのだろう。
俺のことを誰からか聞きつけここへ呼んだ。
恐らく俺ならどうにかしてくれるとお思い込んでいたのだろう。
だが、無理なものは無理だ。
感情論で言っているのではない。
事実として無理なのだ。
「娘さんの寿命は鬼に無理やり奪われたものではない。今はそういうモノは力づくで寿命なんて奪えない、渡す側渡される側双方の合意時にのみやりとりできます。"取り返す"という言葉自体間違ってる。相手方の味方をするわけではないが、非は貴方にある。性格には"契約内容の変更"もしくは、"契約解除"が正しい。」
《そんな…》
「ただ、娘さんの寿命のみを返してもらうことは可能かもしれない。」
鬼道源右衛門は身を乗り出し
《本当ですか?!》
「はい。しかし。はっきり申し上げます。代わりに貴方は死にます。」
《ど、どうして…》
「当然です。鬼の眼の使用料です。
新品の物を買っておきながら、長年使用した中古品を返すから買った時の料金を返してくれ。だなんて、人間の世界でも通用しないでしょう。使用料として貴方の残りの寿命全てを払うんです。うまくいけば、それで娘さんの寿命は返してもらえるかもしれません。」
《そんな…》
「それと、これは最高形です。場合によってはもっと悪くなるでしょう。それと、鬼の眼を使用し得た財は全て失うでしょう。それは、貴方の助言を貰った者全てに起こります。よく考えてください。もはや貴方だけの問題ではありません。」
鬼道源右衛門は頭を抱えている。
《…少し、考えさせてください。》
「わかりました。忘れないでください。あなたが考えている間にも娘さんの寿命は確実に減っています。どれだけの寿命を取引したのかわかりませんが、決して長くはないでしょう。どうするかお決めになりましたらこちらに連絡下さい。」
娘の寿命を対価にしておきながら、まだ我が身が可愛いのか…。
メモ用紙を渡し、家を後にした。
送ると言われたが、そんな気分じゃなかったためバスなどを乗り継ぎ何とかバイトに間に合った。
----ー
「ってわけさ。」
『そっかぁ、通りで当たるわけだ。』
天子は改めて画面に映る鬼道源右衛門を見ていた。
「起こる未来を先に作り、それを水晶にうつしている。」
『そんなの…占いじゃないよね?そんなことできるの?』
「占いではないね。人間1人の寿命で取引できるような代物ではないと思うんだけどな。多分、使用回数や結果の大きさに上限や制限がかかってるだろうけどな。副作用なんかもあるかもな。」
『鬼と逢うの?』
「あぁ。ここで俺が断れば向こうのヤツらによくねぇ評判が流れかねない。"鬼から逃げた。"ってね。」
だが、事実困ったモノだ。
鬼の相手はしたことがない。
厄介なヤツらだろうしな。
ーーーーー
数日後
鬼道源右衛門から連絡が来た。
私の寿命と引き換えて娘の寿命を返して欲しい。と。
彼にどんな想いがあって出した結論かはわからないし、興味もない。
俺の中にあるのは、鬼とどう交渉するか?それだけだった。
[はぁい、夜守綱。天ちゃんから連絡もらってやって来たよん。]
最近校門の前で待ち伏せるのが流行っているのか?
今度俺の前に現れたのは、菖蒲(あやめ)さんだった。
見目麗しい麗人で出版社に勤めるキャリアウーマンで両親が亡くなった時にフラリと現れ
"両親に頼まれていた。"と言い、俺たちのことを見守ってくれている。
[鬼と取引するんだって?お姉さん、危ないことはしてほしくないなぁ〜]
「手伝ってくれるの?」
[手伝わないわよ?]
ですよね〜…
[だけど、どこで取引するのか教えなさい。あと、時間もね。]
ーーーーー
取引当日。
とある部屋へとやってきた。
ここは交渉の場。
「持ってきていただけましたか?」
《はい。これでいいでしょうか。》
源右衛門が手渡してきた木箱には占いで使用していた水晶が入っている。
これは、今回の依頼料だ。
「たしかに。では、始めましょう。血文字で"召"と書いて貰えますか。」
《わかりました。》
源右衛門はナイフで指先を切り紙に字を描く。
俺はその間に面を被る。顔を知られ身バレするのを防ぐためだ。
一瞬。
ロウソクの火が全て消えた。
そしてまた火が灯る。
「貴方が、鬼道源右衛門と契約を交わした鬼ですか。」
大柄の異形。
まさしく鬼だ。
背丈で言えば俺の2倍ほどだろうか。
「契約更新までにはまだ日があるが、何用でわしを呼んだ?」
鬼が言葉を吐く。
「契約を終わらせたく思いまして。」
「其方は?」
「鬼道源右衛門の代理人の様なものです。」
「ほう。残念ではあるが、終わらせたいのであれば致し方ない。受け入れよう。」
予想よりは話せる相手か?
「つきましては今渡してある娘さんの寿命を返していただけませんか。」
「ほぉ…」
鬼の声色が変わった。
「両親、妻の寿命は差し出したが、娘の寿命は惜しくなったか?」
鬼は源右衛門を蔑む様に笑い見下ろした。
《頼む!娘の寿命だけは返してくれ!!》
どういうことだ…?
「なんだ?なにもきいていないのか?この男は1年使用するために1人の寿命を差し出してきたのだ。最初の1年だけは試用期間としてまけてやったがな。2年目には父の、3年目には母の、4年目には妻の、今年は娘のを差し出してきたのだ。今になって罪悪感でも覚えたか?」
…そういうことか。
1人の寿命で源右衛門がずっと鬼の眼を使用できるのはおかしいと思ったんだ。
自分の寿命は使わず血縁者や妻の寿命を使っていたのか。
なんてやつだ…
《私の寿命と引き換えに娘の寿命を返してくれ!》
「足らぬ。お前の寿命では足りない。…そうだなぁ。お前の寿命も渡すなら娘の寿命は返してやろう。」
鬼がこちらを見る。
それに続き、源右衛門が俺を見る。
わかった。と言って欲しげに。
「そこまでしてやる理由が私にはない。私の寿命なんてあげられない。」
それを聞いた源右衛門はがっくりとうなだれた。
《そんな…》
交渉は決裂。
まぁ、そうなるわな。
そんな時、
キィ…とドアが開いた。
俺がドアの方を見ると、鬼もそちらを見る
「何奴?」
[何奴?誰に向かって口を聞いているかわかっておるのか?中級風情が。]
ロウソクの火で照らされ姿を現したのは
漆黒の生地に金の薔薇をあしらった着物を着た菖蒲さんだった。
「その着物…あなたは…茨木童子様?!」
[ほう。妾のことを知っておるか?」
「菖蒲さん…?」
「何故貴女様のような方がこちらへ?!」
[なに。そこの面の男は妾の配下での、ちと気に入っておっての。死なれるとつまらぬのじゃ]
「茨木童子様の御配下の方とは…では、本日のことについても…」
[知っておる。]
「そうでありましたか…では、この男の娘の寿命をお返しします。」
菖蒲さんと鬼のやり取りを源右衛門は訳がわからない様子で見ていたが、自分の寿命を差し出さず娘の寿命が返ってくるのでは?という様な期待の目をしていた。
[それはすまぬな。ただ、手ぶらで返すのでは主が多少損をしてしまうな。それでは主のメンツもあろう。その男が自分から提案した通り、その男の寿命を渡すことで手打ちにするのはどうじゃ?]
「わかりました。それで手打ちとさせていただきます。」
この瞬間。源右衛門の死が確定した。
それと同時に美世さんの死が回避された。
[男。主の言い出したことだ、それでよいな?]
菖蒲さんの放つ威圧感の前では源右衛門はただ頷くしかできなかった。
その後は滞りなくことは進み、明日の正午源右衛門の寿命が渡されることが決まった。
全てが終わった後の源右衛門は何を考え思っているのか俺には分からなかった。
去り際にただ一言
《娘の寿命を取り戻すことができました。ありがとうございました。》
と、深く頭を下げ去っていった。
「菖蒲さんが来てくれるとは思いませんでしたよ。ありがとうございました。」
[別にお礼を言われることはしてないわよ〜。ちょっと口添えをした程度よ。]
先ほどまでの威圧感を収めいつも通りの菖蒲さんに戻っていた。
「鬼相手に口添えができるってのが凄いですよ。流石は茨木童子様ですね。」
[へへっ。そうでしょ〜。まぁ、夜守綱や天ちゃんは本当にお気に入りだしね〜。…けど、前にも言ったけどこんな危ない真似は本当にお姉さんはやめてほしいな。]
少し俯きながら菖蒲さんはそう言った。
「…はい。気をつけます。菖蒲さん、今からどうするんですか?」
[茨木童子様になって疲れちゃったし、異酒屋にでも行こうかな。]
「好きですね〜。今度一緒に行きましょうよ。天も連れて。」
「そうね〜。"2人も行ける居酒屋"に行こうか。」
そう言ってふらりふらりと菖蒲さんは闇に消えていった。
さて、この水晶を引き取ってもらわないと。
ーーーーー
疲れた体を引きづりやってきたのは、古びたビルのある部屋
「こんばんわ睡蓮さん。」
『いらっしゃい、思ったより早かったわね。うまく事が進んだってことね。なによりなにより。』
「菖蒲さんが手伝ってくれました。手伝ってくれないって言ってたんですけどね。」
『菖蒲ちゃんはツンデレだからね〜。話を聞いた時から助ける気満々だったはずよ。これが例の水晶ね。』
そう言って水晶を手に取り眺めている。
『確かにこれは無闇に人の手には渡らない方がいいわ。鬼の眼で覗き続けたせいで呪具になっているわ。引き取るわ。』
「お願いします。そういえばバイトを雇ったって噂で聞きましたけど、睡蓮さんのお眼鏡に叶う人がいましたか。」
『まぁね。面白い子よ。そのうち夜守綱君も会うことになるわ。』
その後少々の談笑をし家に帰った。
もちろん、家では天が心配してた顔をして出迎えてくれた。
事の成り行きを話すと
『兄様が無事ならそれで良い。』
と言っていた。
たった2人の家族、もう誰も失いたくないのだ。
そして、翌日の午後
占い師 鬼道源右衛門 急逝
とネットニュースで目にした。
全て丸く収まったと言っていいのか俺にはわからない。
だが、全ては本人の決めた事。他者が口を出すことではない。
収まる形に収まったのだと俺は納得しスマホの画面を閉じた。
作者clolo
また長くなってしまいました…
短く収める練習をしなくてわ…
今まで書いてきたモノがクロスオーバーする。そんなものが好きなんです。厨二なんです(いい歳して申し訳ないです(;_;))
長編に時間を割きお読み頂きありがとうございました!