あれ?人がいる……
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すっかり日も暮れ、街灯にも明かりが灯りだす夕暮れ時。
賑やかな市街地を抜け、ところどころに田んぼが広がる郊外に入り、
一番最後の緩やかなカーブの角に差し掛かったとき、ポツンと人が立っていた。
私は二十九歳のありふれた独身女性だ。仕事はコンビニ弁当の工場で検査をしている。
それは工場からアパートへのマイカーでの帰路の途中のことだ。
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直進する国道と、そこから左に緩やかに入る道のちょうど交差したところに小さな雑草地があるのだが、そこの際に立っていた。
上下黒いジャージを着たひょろりと背の高い若い男で、何か物欲しそうな表情をしながら行き交う車をひたすら目で追っている。
ハンドルを左に切り、車が国道から左の狭い道に入る寸前、ヘッドライトはまともにその男を浮かび上がらせたのだが、一瞬私はその男と目が合ってしまった。
その瞬間、男は大きく開いた血走った瞳で確かにニヤリと笑った。
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その日を境に男は毎日、あの交差点にある雑草地に立っていた。
残業で帰るのが遅くなった日も、逆に早く仕事が終わった日も、来る日も来る日も男は立っていた。
そして、横を通り過ぎるたび、あの血走った目で私の姿を追うのだ。
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それは、梅雨明けだというのにやけに肌寒く、朝から雨が降り続けていたある日のことだ。
夕暮れ時、いつもの通り私は仕事を終えて、アパートに帰っていた。
いつもの市街地を抜け、いつもの最後のカーブに差し掛かった時、異常に気付いた。
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男がいないのだ!?
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なぜだろうか、私は不安になり男の姿を必死に探した。それはわずか数秒のことだった。
だが、それが全ての間違いだった。
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突然、耳をつんざくようなクラクションの音とブレーキ音が聞こえたかと思うと、
正面からの強烈な眩いライトで車内がパッと明るくなり、
激しい衝撃とともに私は、体ごとフロントガラスを突き抜けていた。
その後は……その後は、
……
漆黒の闇に包まれた。
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どれくらい闇は続いただろうか。
突然目の前が明るくなり、気が付くとなぜか私はあの雑草地の際に立っていた。
それから毎日、来る日も来る日も、
ときに正面からヘッドライトの眩い光を浴び、
ときに排気ガスで咳き込みながら、
私はひたすらそこに立ち続けている。
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いずれ現れるであろう代わりの者が見つかるまで。
作者ねこじろう