高校の修学旅行の思い出だ。
高校の修学旅行は仲良し5人組で同じ部屋だった。
そこにAくんという子がいた。Aくんは至って普通の高校生だ。
その高校の修学旅行先はスキーだったのだが、Aくんはなかなか上達せず、3日間のスキー教室の1日目でスキーが嫌になり、仮病で2日目から休んだ。
スキー教室が終わった3日目の夜、Aくんを除いた残り4人がスキーの話で盛り上がっていた。
もちろん、Aくんは面白くない。Aくんはテレビを見始めた。
そこで、Bという友達のイタズラ心が沸いた。
その頃はガラケー時代で、携帯電話にテレビのリモコン機能が付いているものがあった。
Aがテレビを見ていると、Bが番組を変えた。
当初、Aは本当のリモコンを間違えて押したと思ったのだろう。すぐに、元の番組に戻す。私たちは声が漏れないように笑った。
面白くなってきたのであろう。Bが番組を2度変えた。
「えっ…?」
Aがつぶやいた。
そして、その瞬間、Bはテレビの電源を落とした。
「何かいる!」
Aが叫びにも近いような声をあげて、私たちを見る。私たちはポーカーフェイスで「何かって?」と平然と答える。もちろん、皆、心の中では大爆笑だ。
「テレビがいきなり変わったり、消えたりした!」
とAが言うと、「そんなはずない!」「リモコン踏んだんじゃね?」「幽霊とかいるはずねぇし!」と皆で言う。
「いや、俺、家から何か連れて来たかもしれない…。最近、何かに憑かれていたような気がする。」
なんて言い出したので、ネタ晴らしをしようとした時だった。
部屋のドアが空いた。
ドアの方向を見ると引率の先生だった。
「夜遅く、何はしゃいでる!」
夜遅くといっても、夜の10時だ。高校の…しかも修学旅行生が寝れる時間じゃない。まぁ、それでも静かにするしかない。私たちが黙ると、こともあろうにAが先生に言った。
「先生、この部屋に幽霊がいます。」
先生がなんて答えていいのか分からない顔をしている。イタズラを始めたBがさすがにヤバいと思ったのか、「Aの冗談ですよ。」と言うが、Aは真剣な顔で「いや。自分が連れて来ちゃいました。」と言う。
先生も困ってしまい、「A以外は寝ろ。Aは俺の部屋に来い。」とAを連れて行ってしまった。
私たちは携帯没収が怖くて本当のことを言い出せなかったが、まぁたいしたことにはならないだろう。と考えていた。
翌朝、朝食会場に行くと、Aは来ていなかった。先生に「Aは?」と聞くと、「後でな。」と言う。朝食を取り終えて、Aと同じ部屋の4人だけが残された。
「Aは昨日あの後、ものすごく体調を崩してな。スキー教室も休んでいたし、昨日のことも気になるし、今日は1日自由行動だろう。だから、俺がお祓いにAを連れていく。お前たちは周囲には気分が悪いから病院に行くと言ってくれないか。」と言われた。
私たちは頷き、部屋へ戻った。皆、悪いことをしたなぁ。と話していたが、そこは高校生、その日の自由行動は大いに楽しんだ。
Aはどうなったかと言うと、お祓いが効いたらしく、帰りには元気になっていた。精神的に助かったのであろう。
それにしても、人間の思い込みって怖いな。と思わされた1件であった。
また、霊媒師には霊が5体憑いていると言われたらしく、テレビが変わったり切れたりしたのも幽霊の仕業と言われた。とのことだった。
Aよ。すまん。本当は違うんだ。
作者寅さん