最近、寒さも和らぎ、晴れの日が多くなってきました。
穏やかな日射しが降り注ぐ日は、車で移動するよりも、徒歩で風景を見ながら、歩く方が私は好きです。
体調も悪くなかったので、暖かな陽気に誘われるように、近場のコンビニに行くことにしました。
閑静な住宅街を抜けて、大通りに出ました。
適度な車通りがあり、歩いている人もいれば、自転車に乗る人もいました。
「今日は、この道を真っ直ぐ行こう」
私はこの先にある、歩いて片道20分程のコンビニに行くことにしました。
少しでも暖かな日射しを堪能するため、いつもより遠めのコンビニにしました。
暖かな日射しと、春の訪れを予感させる風景を、堪能しながら歩いていましたが、コンビニには意外と早くに着いてしまい、買った物を手に持ちながら、私は再び歩いていました。
先程まで、私の他に歩いている人がいましたが、今はたまに、車や自転車が通るだけになりました。
暖かな陽気の中、私一人の靴音が寂しく響いています。
自分の足音を聞きながら、風景を見ていましたが、少し飽きてきました。
前を向いていた視線を下に落とし、足元を見るような感じに歩いていました。
しばらくそんな風に歩いていると、
「ペタペタ」
自分の後方からの足音に気がつきました。
「ゆっくり歩いていたし、誰かが追いついてきたのかな」
そんな事を思いながら、私は歩き続けました。
「ペタペタ」
足音は先程より近くなり、追い越すものかと思われました。
私は追い越しやすいよう、なるべく隅に寄り、歩きます。
しかし、追い越す事はなく、足音は今だに後方から聞こえてきます。
「ペタペタ」
「ペタペタ」
私の足音と後方からの足音だけが、響いています。
私は、追い越さない事を不思議に思いながらも、歩き続けていました。
そして、歩き続けている内に、信号機付きの交差点が見えてきました。
丁度、赤信号だったので、交差点に近づきすぎない所で、私は止まりました。
私が止まった事で、後方の足音も止まりました。
「歩きながらの追い越しは難しかったのだろう。今なら追い越すチャンスだよ」
私はそんな事を思いましたが、後方から動く気配も、足元も聞こえません。
「なんで追い越さないの?」
そんな疑問が浮かんだとき、信号が青に変わりました。
このまま私が歩き出せば、先程の状態が、暫く続くことになりそうです。
「それなら…」
と、私は歩き出しませんでした。
いつまでも歩き出さない私に、痺れを切らしたのか、後方で動く気配がしました。
私の側を、黒のスウェットを着た男性が通りすぎました。
「これで歩きやすくなる」
安心した私は、男性とある程度距離を取ってから、歩き出しました。
距離を保ちつつ暫く歩いた後、私は家に帰るべく、道を曲がりました。
男性は、まだ真っ直ぐ行くつもりらしく、当然ながら此方には目を向けずに、歩いて行きました。
別の日。
私は郵便局に行くために、歩いていました。
その日も見事な晴天で、楽しく散策しながら歩いていました。
郵便局で無事に用事を済ませ、昨日とは違う、住宅街の大通りを歩きます。
桜の木に今にも咲きそうな蕾を見つけ、
「そろそろ、咲くかな」
などと、呑気に考えながら歩いていると、
「ペタペタ」
私の後方から足音が近づいて来ました。
「まだゆっくり歩きたいし、道を譲ろう」
そう思った私は、道の隅に寄りました。
すると、私の側を黒のスウェットを着た男性が、通りすぎました。
「この間、見た人と似てるな」
ふと、そんな事を思いました。
あまり詳しく見ていなかったので、髪型はショートだった事位しか分かりませんが、印象に残っている、黒のスウェットは一緒でした。
「でも、同じ人とは限らないよね。黒のスウェットなら、誰でも持ってそうだし」
そう考えながら、私は歩き始めました。
「ペタペタ」
「ペタペタ」
男性と私の足音が響きます。
やがて、家に帰るため、私は道を曲がりました。
男性は昨日と同様に、まだ真っ直ぐ歩いていました。
「似たような人を続けて見て、驚いたけど、もう会うことはないだろう」
私はそう思い、家に帰りました。
また、別の日。
その日は仕事が忙しく、帰る時には、夜になっていました。
午後11時頃。
昼間はある程度、車と共に人通りがある道ですが、夜になると、ほとんどなく、とても静かになります。
たまに、会社員とすれ違う事はありますが、その日は遅かったため、人は見当たりませんでした。
「早く帰らないと」
そう思った私は、いつも通る大通りではなく、近道だが砂利道で、足場が悪い小道を行く事にしました。
「ジャリッジャリ」
夜の住宅街に、私一人の足音が響きます。
自分の足音を聞きながら、
「今日は疲れたな」
「明日は何からやろうかな」
と、呑気に考えていました。
「とにかく、帰ったらすぐに寝たい」
そんな事を思いながら、歩いていると、
「ジャリッジャリ」
「ジャリッジャリ」
急に私の近くで、別の足音がしました。
この砂利道は、大通り同士を繋ぐ、細長い一本道で、途中で他の道と合流する事はありません。
周りは住宅の高い塀で囲まれているため、途中から入る事は、まず無理なはずです。
なので、砂利道の真ん中辺りを歩いている私の側で、他の足音はしないはずです。
「ジャリッジャリ」
「ジャリッジャリ」
しかし、足音は私のすぐ後方から、響いてきます。
猫かとも考えましたが、足音からして、小動物の軽い足音ではなく、私と同等、またはそれ以上の重さのある足音である事が分かりました。
「不審者かもしれない。もしそうだったら、今の状態は危ない」
私は思いきって振り返る事にしました。
逃げきれる自信はなかったので、スマホを取り出し、緊急連絡を出して、せめて証拠を残そうとしました。
「ジャリッジャリ」
「ジャリッジャリ」
今だに響く、後方からの足音。
深呼吸をして、私は思いきって振り返りました。
「ジャリ」
すると、私が振り返ったと同時に、足音が掻き消えました。
そして、私の後ろには、何も誰もいませんでした。
注意深く、辺りを見回しましたが、何も見えませんでした。
安心と不安が半分づつのまま、また歩きだそうと、前方へ向き直ろうとした時、
「ジャリッジャリ」
後方から聞こえていた足音が、前方から聞こえてきました。
すぐに前方に向き直ると、青白い街灯に照され、黒のスウェットを着た男性の後ろ姿が見えました。
様々な考えが一瞬でぶっ飛び、気がついたら身体が動いていました。
私は、もと来た道を全速力で戻り、大通りに出て、家の玄関前まで、走り続けました。
「はぁ…」
家に入ると、今までの疲れが押し寄せてきました。
リビングにたどり着き、倒れ込むように椅子に座りました。
あの男性は、一体何者なのか。
何を伝えたかったのか。
分かりませんが、
もし、追い越す事を妨害したり、男性に追いついてしまったら、どうなっていたのでしょうか。
作者セラ
陽も長くなり、暖かい日が増えてきましたが、早めに帰りましょう。
引き続き、誤字、脱字あったら、暖かい目で見守ってくださいm(__)m