皆さんは実際に狂ってる人に会ったことがあるだろうか?
ネットでは狂人と言われる人を見る機会は多いだろうが、実際に…となると、変わってる人はいれど、狂人とまで言える人はいないであろう。
私の話に人間の闇に迫るような話が多いのは彼のせいである。彼のことを思うと人間がいかに愚かで弱い生き物かが分かる。
彼が狂人かどうかは皆さんの各々の判断にお任せしたい。でも、私は彼は狂人であったと思う。
彼とは物心ついた時からの友人だ。
友人というより、パートナー…。先生…。恋人…。
とにかく、彼のことを1番理解しているのが私で、私のことを1番理解しているのが彼だ。
彼は大学卒業後、1年間遊んでいたが、その後地元に帰り、コネもあって地元ではまあまあ大きな会社に勤める。
彼はその会社で花形の職種に配属され、一生懸命仕事をこなす。口が悪いのが玉に傷で、入ったばかりなのに関わらず、会議の場等で意見をする事なんていつものことだった。
逆にそれが上司の興味をそそる。彼は異例の入社3年で本社勤務となるのである。彼はそこでも一生懸命頑張った。
数年経ったある日、上司が彼を訪ねてきた。
「◯◯支店に異動だ。」
◯◯支店…。同じ職種を問題児がやっていた支店だ。そいつはクビ(諭旨解雇)となったらしかった。つまりは後始末をしろ。ということだった。
彼に異動を伝えると、その上司は別な上司と彼の前で話始めた。
「(問題児)に退職金が出るってよ!」
平気でそういう話をした後、「困ったことあったら、支援するから。」といい、その場が終わり、彼は異動となった。
異動先で彼は頑張りに頑張った。
だが、本社の支援など頼んでもない。そして、元々問題児と分かって、その職種に置いていた人事部門や役員も謝罪の一つもない日の毎日。
後始末しなければならない案件は到底1人で片付けられるようなものではなかった。が、彼は仕方なく残業や休日出勤でこなしていく。
その日々の中で、彼は変わってしまった。毎日毎日の屈辱に耐えられず、煮えたぎる腹の中…。関係のないことで苦労をしている。
それなら、支援してくれなかった本社の…前の担当をその支店に置いた人事部門や役員の…家族を全員殺してやろう。
関係のないことで苦労をしているのだがら、関係のないやつらを巻き込んでやる。あいつらに、まともな余生など送らせてやるものか。
もちろん、思いとどまろうと思った時もあった。だが、それよりも憎しみに縛り付けられていた。何故、俺が苦労しなければならない。あいつらのせいだ。あいつらを許さない。
どす黒い気持ちが込み上げてきて、それを抑えることが出来ない。彼はすぐに辞めようと思ったが、その支店の上司に泣き付かれ、問題を片付け、キリのよい年度末まで勤め、会社を辞めた。
辞めた後は営業職となる。単純な理由だ。お金を儲けたい。
彼は色々調べていた。人を殺す精神力を養う為にスナッフビデオを見て慣れ、酷い殺し方をする為に世界の拷問の仕方を学び、死体のない葬式をあげさせる為に死体の処理の仕方を学び、人を殺せる金額…等々、とにかくそいつらの家族を殺す為ならなんでもする。と思っていた。
そして、そんなに多くの人を殺すのは、とにかくお金が足りないことに気付く。
営業でお金を貯めるが、まだまだ足りない。彼は最後の手段にうって出る。父に頭を下げて、会社を継がせて欲しいと頼んだのだ。彼はその時まで会社を継ごうなどと考えたことはなかった。だが、金がいる。その時はそう思った。
すんなりと彼の父は許可した。
その途端だった。
今まで復讐でいっぱいだった頭の中が、会社のことでいっぱいになる。その時、今までの経緯が走馬灯のように頭をよぎり、どんなに自分がどんなに愚かな人間か気付く。彼が人間に戻った時だった。復讐しかなかった頭の中に別なことが入り込み、スーっと復讐心が引いたのだ。
これは彼にも不思議な感覚であった。
何故今まで復讐をしようと思ったのだろうか?それは彼が弱い人間に他ならなかったからであろう。頭が悪かったからであろう。被害妄想が激しいからであろう。
なんとも言えない感覚に陥り、その場に泣き崩れてしまう。しばらく力なく泣き続け、泣き終わると顔を上げた。
よし!これからは前を向いて、人の為に生きていこう。
私は彼に復讐しなくて良かったな。と今でも話しかけている。本当に良かった。彼が気付いて本当に良かった。
その彼とは私自身なのだが…。
作者寅さん
これは私自身の言い訳なのかもしれません。