「はっ!ヤベっ!」
俺は、がばっと体を起こすと、目覚まし時計を確認しようと手を伸ばす。
「あれ?目覚まし?どこ?」
キョロキョロと目覚ましを探すが、見当たらない。
今何時だ?
あ~、ヤバいよ。絶対に寝過ごしてる!
今日はバイトの面接だってのに。
それにしても、ここはどこだ?なんだか、俺の部屋じゃないっぽい。
周りの壁は全部真っ白。病院?
これまた白で統一されてる清潔なベッドは明らかに俺の汚ベッドではない。
「お目覚めですか?キザキ ケンジさん。」
へ?なにこいつ。
目の前には、黒ぶち眼鏡の男子中学生が立っていた。
「誰?お前。」
「申し遅れました。僕は、あなたを担当させていただく死神です。」
「はぁ?ナニ言ってんの?」
「キザキさん、認めたくないのはわかりますが、あなたは今朝死亡しました。」
「おい、ふざけんな。何で俺はこんなところにいるんだ。ここはどこだ?」
「ここは、現世とあの世の境目で、僕は黄泉先案内人の死神で、新人のサトウと申します。」
「いやいや、意味わかんねえ。超健康体の俺が死ぬわけねえ。寝る前にピンピンしてて、起きたらいきなりあなたは死にましたなんて言われて誰が信じるんだよ。あ、これってさ、ドッキリだろ?」
「残念ながら、ドッキリではありません。キザキ ケンジさん。」
「あのさ、さっきから、俺のこと、キザキ ケンジって言ってるけど、誰なの?それ。」
「・・・えっ?あなた、キザキ ケンジさんですよね?」
「惜しいけど違うな。俺の名前は、木崎 啓二だ。」
「キザキ・・・ケイジ?」
その中坊もどきは、そう言うと青ざめて、何かの台帳を急に焦ってペラペラとめくりはじめた。
「あっ、本当だ。あなたはキザキ ケイジさん。」
「当たり前だろ。」
「す、すみません。間違ってあなたを死なせてしまいました。」
「は?またまた~。もうドッキリなら、種明かししてくれよ。俺はそんなに暇じゃねえんだよ。今日はバイトの面接があるんだから勘弁してくれよ。」
「ほ、本当なんです。あなたは死亡してるんです。これを、見ていただけますか?」
そう言ってサトウが手をかざすと、床が巨大モニターになった。
「うわっ!」
巨大モニターには、俺の家の屋根が映し出され、黒塗りの車が横付けされていた。
俺の母ちゃんと父ちゃんが、すすり泣きながら、家から出てきた。
母ちゃんが手にしているものが、アップに映し出された。
「えっ?俺?」
それは俺の遺影だった。
「おい!なんでだよ!なんで、俺の葬式がたってるんだよ!」
「えーと、死因は心不全です。」
「そんな馬鹿な!一度だって、心電図にも異常が出たことないのに!」
「正確に言うと、キザキ ケンジさんが、その病名で死ぬ予定でした。」
「おい、ふざけんな、お前!」
俺は思いっきり、サトウという中坊もどきの首を締めあげた。
「や、やめて!無駄です!僕は死にましぇ~ん。」
「古いドラマみたいなセリフ、吐いてんじゃねえぞ、このクソガキ!」
「ほ、ほんとなんです。死神は死なないんですよ。」
荒い息を吐くと、俺は力が抜けて、サトウの首から手を離した。
「俺は、どうすればいいんだよ・・・。」
情けないけど、涙が出てきた。なんで俺がこんな目に。
「す、すみません。僕のミスで・・・」
サトウが小さな声でうなだれた。
「すみませんで済めば警察はいらねえんだよ。ま、あの世で警察もねえけど。」
サトウはオロオロするばかりで、まったく頼りになりそうもない。
「なあ、サトウ。何とか俺を、現世に返す方法はねえのかよ。」
「・・・残念ながら、ありません。」
「はぁ~。俺も現世でそんなに良いこともなかったけど、それなりにこれから頑張ろうって思ってたんだよ。長らくニートやってたから、これじゃダメだって、バイトの面接いって、まっとうに働こうって思ってた矢先にこれだよ。」
サトウは、申し訳なさそうに俺の前で土下座した。
「本当に、本当にすみません!」
「謝られたって、俺が死んだ事実は変わらない。」
「あのう、木崎さん、一つだけ、方法が無いわけでもありません。」
「え?マジ?なんだよ。」
「現世から、何か持ってきたものは無いですか?衣服以外で。」
「寝る前だから、あるわけねえべ。・・・いや?ちょっと待て。」
不精な俺は、パジャマに着替えずにそのままベッドに横たわったんだった。
ポケットをさぐると、案の定出てきた。昨日の自販機でジュースを買ったおつりだ。
「10円。」
「その10円が現世とまだつながっています。」
「は?」
「その10円で、現世とのトンネルを作りましょう。」
「そんなこと、できるのか?」
「僕の力じゃ足りないかもしれないけど、頑張ります。」
サトウに10円を渡すと、サトウはそれを掌に乗せ目を閉じると、10円は浮かびあがった。
「すげえ、マジックみてえだ。」
サトウから夥しい光が放たれ、浮かび上がった10円に吸い込まれていく。
10円だったものは、徐々に巨大化して行き、人一人が通り抜けできるくらいのトンネルができた。
「今です!キザキさん!飛び込んで!早く!」
サトウの体が震えて今にも倒れそうだ。
「わかった!もうちょっと耐えてくれ!」
俺は、真っ暗なその穴に飛び込んだ。
次の瞬間、俺は、ガバっと飛び起きた。
「キャーッ!」
悲鳴が聞こえた。
すぐそばにいた坊主は腰を抜かし、お焼香をしていた従妹は泣きながら目を丸くしていた。
「ケイくん!」
「おい、啓二が生き返ったぞ!」
両親は泣いて喜び、俺に抱き着いてきた。
よかった、俺、助かった!
俺はもう少しで、出棺されるところで、寸でのところで火葬を免れた。
「はぁ~、死ぬかと思った。」
俺の第一声である。
死神のサトウ。あれは、全部俺の夢だったのだろうか。
とにかく、俺は生きてる!
日をあらためて、俺は、バイトの面接に行ったが、見事に落ちてしまった。
傷心の俺は、自動販売機でジュースを買った。
「落としましたよ?」
ジュースを自販機の排出口から取り出していると、後ろで声がした。
俺が振り向くと、そこには黒ぶち眼鏡の中坊が立っていた。
「・・・サトウ?」
それは、まさしく死神のサトウだった。
「死神、クビになっちゃいました。下界に降ろされちゃって。」
サトウは笑いながら、俺に拾った10円を手渡した。
作者よもつひらさか
怖くないです