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短編2
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僕を殺す病

真っ昼間だというのにカーテンを閉めきり、槙村は死んだ息子のことを思い、リビングに立ち尽くしていた。

ポタポタと落ちる滴がカーペットを濡らす。どれ程の時間そうしていたのか、喉の渇きで我に返った。

テーブルの上にあるグラスに手を伸ばしたその時。

誰もいるはずのない部屋で空気が動いた気がした。気のせいだと思いながらもゆっくりと振り返る。

信じがたい現象に息を飲んだ。

それが息子の姿をしていなければ、情けない声を発していたに違いない。

幽霊というものを初めて目にした槙村は、開いた口をなかなか閉められずにいた。

眼前には、裕太の姿をしたものが、下から槙村を見上げている。

姿、形は人のそれだが身体は薄く、透けてみえた。

しばし視線を交わしていると、

(どうして僕は死んじゃったの?)

唇は動いていない、それなのに生前となにひとつ変わらない裕太の声が、槙村の耳には、はっきりと聞こえた。

突然の死だった。子供の裕太が理解出来ないのも当然のこと。

槙村は変に誤魔化さずに、正直に答えた。

「ごめんな、裕太......病気を──治せなかったんだ」

幼いころから患っていた病。

何度か発症したことはあったのだが、長いこと影を潜め、安定していた。しかし最近になり急激に症状は悪化し、病は大切な家族を殺した。

裕太に槙村の声が聞こえているのか、無表情の面をしていて読み取れない。

すると、

(僕は──病気じゃなかったよ?)

また、声が聞こえた。今度は少し困惑したような声。槙村は裕太を諭すように優しく応えた。

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「そうだよ、病気なのはね、──お父さんのほうだから」

槙村は手に持つ血に濡れた包丁を、顔の高さまで上げると、虚ろな目で刃を眺めた。刃元からポタポタと垂れる滴がカーペットを濡らす。

傍には、今し方絶命したばかりの妻と息子が血にまみれて倒れている。

「ごめんな......お父さんの病気、治らないみたいだ──」

そこで初めて幽霊になった裕太の表情が少し曇ったように見えた。

「ただいまー」玄関から元気一杯の声が聞こえた。娘が学校から戻ったようだ。

槙村は裕太に耳打ちをする。

「そんな顔をするなよ、お姉ちゃんもすぐにそっちに行くから、──寂しくないよ」

裕太の顔は、はっきりと恐怖で歪んでいた。

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