「世の中ってほんと怖い人間がいるんだぜ」
馴染みのバーカウンターに座る渋い紳士が私に話しかけてきました。
寡黙なマスターはいつものようにグラスを磨き店内はジャズが流れていました。
仕立ての良さそうなスーツ、左手首には品のいい時計がはめられてました。カタギの人ではなさそうな雰囲気、かといってアウトロー然ともしていません。
「お兄ちゃん、殺し屋っていると思うか?」
「こ 殺し屋ですか?どうなんでしょ?いるかもしれませんがそんな頻繁に殺しの依頼なんてないでしょう?商売ですよね?殺し屋だから?」
「商売か?だよな、屋ってつくんだから商売だよな、でもな、世の中人を殺すのが好きなやつもいるかもしれないぞ」
「人殺すのが好きなやつですか?精神的に変な人ですよね」
「ある意味そうかもしれないな、冷静に人を殺すなんて普通ではないよな」
「そいつは音もなく背後から忍び寄り背中の骨の間に千枚通しを心臓に入れるんだぜ、そして2,3度回すようにして仕留めるんだ、で血が出ないように押さえて車に乗せる」
「なんだか職人芸ですね」
「職人だな、職人技だよな」
「でも依頼はどうするんです?だって街中に看板上げてるわけじゃないですし 笑」
「だよな・・・笑」
「死体は海に、山に、燃やすとかですかね?」
「いや溶かす、薬品でな」
店内にはジャズが流れている。
「じゃマスターありがとう」
そう言って紳士はカウンターに一万円札を置きながら
「このお兄ちゃんの分もな」
マスターが珍しく話しかけてきた。
「面白い人でしょ?この前は人身売買の話、今日は殺人鬼・・・あの人のおごりで私も頂くかな・・・」
珍しくウイスキーのロックを飲みだした。そしてアイスピックで氷を割りだした。
「千枚通しってそんなやつですよね、もっと長いやつ」
「ですね・・・さっきの人の話だと・・・」
マスターはアイスピックを素早く流れるようにして刺す動作、もう片手で刺したところを押さえる仕草をした。流れるように・・・。
目は氷のように冷たく感じた。
店のドアを開けて外に出て看板を見直した。「亜沙心」アサシン・・・殺人者暗殺者という意味なのか・・・・。
作者Kazuki
一番怖いのは生身の人間かも・・・・。