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「おーい」
横に見えた公園から私に向かって呼びかける声が聞こえる。
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声の先にはジャングルジム、そしてその上には一人の男の人。
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しかし彼はピエロによくあるメイクを顔に施し
黄色を基調とした膨らみの大きい衣装を着て手には1つの風船。
その頃ピエロというのを、楽しいものとして認識していた私は
ピエロさんだ!と無邪気に彼に近寄っていく。
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「やあ!ボクの可愛いお客様、いらっしゃい!」
近寄る私を陽気な声で歓迎するピエロ。
「ピエロさん、なにしてるの?」
「君を待ってたんだよ、○○くん!」
教えてもいない名前を呼ばれたのにも関わらずはしゃぎだす私を見てピエロはニコッと笑う。
「ボクの名前はジョン!ピエロのジョンだよ、よろしくね!」
自己紹介を終えた彼はジャングルジムの細い柵の上に立ち、くるっとターンを決める。
わあっ、と喜ぶ私を見ながらどこからか取り出したボールを使ってジャグリングを始める。
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彼が行う芸に見惚れていると、気付けば周りが夕焼け色に染まっていた。
「おや?もうこんな時間なんだね・・・じゃあ名残惜しいけどこれが最後だよ!」
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そう言って彼が取り出したのは1本のナイフ。
そしていつの間にか設置されていた的に身体を向けどこからともなく流れてくる軽快な音楽に合わせてダンスを始めるピエロ。
ナイフでジャグリングし、踊りながら的に向かって正確にナイフを投げていく彼を見て私は大いに楽しんでいた。
しかし最後の1本となった時、空中に放り投げたナイフのキャッチに失敗し
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彼の頭に突き刺さった。
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「ひっ」
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唐突に起こった事故に驚き、声を上げる私を見たピエロは変わらぬ笑顔のまま、流れる血を拭きもせず私に近寄り
「どうしたんだい?芸にはアクシデントは付き物なんだよ、○○くん」
彼のその表情を見た私は一気に恐ろしくなってその場を離れようとした。
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「あ〜待って待って!まだお代をもらってないよ」
いつの間にか後ろにまわっていたピエロに肩を叩かれる。
「え、お代なんて持ってないよ!ピエロさんが呼んだから来たんだよ!」
そう言った瞬間。
「そうか、お代はないのか。じゃあ・・・」
先程までの笑顔が嘘のように真顔になり、目を見開いてこちらを見つめ、私の顔に自分の顔を近づけて
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「お前の肉を寄越せ」
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途端に顔面中にヒビが入り、口元の皮膚が血管が見えるくらいまで崩れ落ちると
耳まで口が裂け、私の頭をまるかじりできる程まで口が開くと私の肩を掴み、口をゆっくりと近づけてくる。
「うわあああああああ!!やめて!離して!」
いくら暴れても肩を掴む手はビクともしない。
「大丈夫、痛くないからねぇ」
地の底から響くような悍ましい低い声が私を更に恐怖へ引きずり込む。
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「お母さん!お父さんたすけて!お兄ちゃん!お姉ちゃん!」
パニックになりながら家族を呼び続ける。
その時、公園の入り口から母の声が聞こえた。
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「○○?あんた家に帰らずにそんなとこでなにしてるの?」
「お母さん!ピエロが、ピエロが!」
母の方へ振り向いた顔を正面に戻すと、そこにはピエロも何もいなかった。
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それどころか私が立っていた所は公園でもなんでもなく、遊具も何も置かれていないただの更地だった。
先程まであった筈の様々な遊具と、そこにいた筈のピエロは跡形もなく消えており、私は訳が分からなくなる。
夢を見ていた訳でもない、幻覚とは思えないリアルな体験。
それらは母の、帰るよという言葉で流されていく。
あれはなんだったんだと思いつつも母の手を握り、更地を出ていく。
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帰り際、ふと視線を感じて振り向くと
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「バイバイ」
と口を動かし、最初と変わらぬ笑みでこちらに手を振るあのピエロがいた。
ひっ、と顔を背け、おそるおそる顔を上げると既に消えており、至って普通の道が伸びていた。
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それからというもの私はピエロというものを直視することが出来ない。
見る度、見る度にあのピエロがあの時の満面の笑みでこちらを見つめているような気がしてしまうのだから。
作者黒人形
ピエロってなんだか不気味ですよね。