中編4
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中山さん

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中山さんは今まで数回怖い体験をしたことがあるのだという。

「初めて1人暮らしをした頃だから...今から数年前かな」

中山さんは東北出身の人で、大学卒業後に東京へやって来た。初めての1人暮らし、初めての東京、不安はあったが引っ越しの日が近づくにつれてその気持ちは薄れていった。

駅から歩いて数分の場所にアパートはあった。周りは閑静な住宅が並んでいたのだという。

「1人暮らしを初めて半年位したら生活に慣れていったね。あの日は7月の猛暑でね、冷房を朝からずっとつけていたのを覚えてるよ」

酷い猛暑の日、どこへも出かけずに家でテレビを観ていた。すると、うつらうつらとしてきていつの間にか眠ってしまったのだという。連日仕事が続き相当疲れが溜まってきていた。

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------夢を見た。

実家に似た部屋で一人でテレビを観ていた。テレビ画面には野生動物が映っていた。草食動物達が食事をしているところへ肉食動物が近づいていく場面が映った。草食動物達は気が付かずにもくもくと食べていた。なぜか、その草食動物達は他の草食動物を食べていた。画面が草食動物の顔にズームされる。顔が、人の顔だった。見知らぬ人の顔。

自分の目の前の皿の上には藁と、道端でみかけるような雑草が盛り付けられていた。テレビを観ながらもくもくと草を食べた。テレビでは肉食動物が草食動物に襲い掛かろうと飛びかかった。

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shake

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ゴーン ゴーン 

一定のリズムでお寺の鐘の音が部屋全体に響いた。

「あれ?と思った途端目が醒めた。チャンネルをぱっと変える様に意識が切り替わったよ」

眠りから醒めた体は冷え切っていた。部屋は冷蔵庫の中のように冷えていた。

冷房の設定温度は28度、日頃この温度にしていてこんなに部屋が冷えていることはない。

つけていた筈のテレビは消えていたのだという。

「テレビを消した事を忘れてたんだと思って、特に気にしてなかったね」

テーブルに手をついて立ち上がろうとした時、手に滑っとしたものが触れた。掌をみていると透明の粘着質の液体がべっとりとついていた。顔に冷たさを感じ、もう片方の手で触れた。

額と頬に同じような液体がついていた。中山さんはそれは自分の涎だと思ったのだという。

再び眠りに落ちそうになる頭を数回叩くと立ち上がった。体が異様に怠かった。

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洗面台で手と顔を洗っていると玄関の方で物音がした。大きな束子を地面に擦りつける音に似ていたのだという。

玄関を覗くとなにもなかった。鍵もきちんとかかっていた。

「確かに鍵はかかってたんだけどね、いつもやってるドアチェーンがしてなかった。チェーンをかけるのを忘れることはないんだけど、気にせず見逃しちゃった」

この日はそれ以上変な事は起こらなかった。

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music:1

1人暮らしをはじめて一年以上経った頃、中山さんは初めて部屋に友人を呼んだ。

この日も酷い猛暑で、遊びにきた友人は汗だくになっていた。玄関に立っている友人にタオルを渡すと、顔の汗を拭きながら友人が言った。

「ちゃんと戸締りしてる?ここ二階だから、入ってくるよ」

「戸締りしてるよ、大丈夫だよ用心深いから」

友人はドアの鍵を閉め、ドアチェーンをかけた。部屋に入ってくるなりベランダの鍵を確認した。

ベッドの下をみてテーブルの下をみたあと、ようやく落ち着いたように座った。

「どしたの?」

「別に」

「あっそう」

友人の持ってきた土産を食べ、他愛のない話をした。テレビは野生動物の特集をやっていたが、集中しては観なかった。

友人がトイレを貸してくれと言って立ち上がった。トイレの場所を伝え、一人になった中山さんはテレビを観た。

すると、すーっと眠気が襲ってきて、瞼が閉じていった。自分の意思で瞼を開けることができなかったのだという。

「こう、自動シャッターがゆっくり降りるように瞼が閉じていったよ。やめろやめろ閉じるなと思っても止められなかったね」

瞼を閉じると意識が遠のいていった。

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shake

music:2

ゴーン ゴーン

一定のリズムでお寺の鐘の音が部屋全体に響いた。ふっと意識が戻ると中山さんは無意識にテーブルに手をついて立ちあがった。

「自分が何をやっているのか理解するのに数秒っかったね。あんな寝惚け方をするのは初めてだったから驚いたよ」

辺りを見渡してみると、テレビが消えていた。友人がテレビを消したのだと思い、再びテレビをつけた。

すると、廊下の方から友人の声が聞こえた。

「ああっ!」

shake

ガシャン ガシャン 

声と共に物が転がる音や打ち付ける音がした。

「どした!」

廊下に出て友人を探した。声がするのはトイレの方からだった。

開いたドアの隙間から、此方に背を向けて立っている友人がみえた。

「どした?」

中山さんに気がついた友人が振り返った。友人の顔は真っ青で、顔は汗でびっしょりだった。

手にはトイレのつまりとりが握られていた。

「怖かった...怖かったよ...でも俺やってやったぞ」

友人はそう言うとしゃがみ込んだ。

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友人の話によると、トイレに入ったら窓から入ってこようとする包丁を持った男と出くわしたのだという。咄嗟につまりとりで男を殴って撃退したのだと。

中山さんは友人に戸締りをしっかりするよう耳にタコができる程言われた。

「そのあとすぐに引っ越したよ。次の引っ越し先の部屋では危険な事は起きなかった。大丈夫だとおもって隙を作るとああいう目に遭うんだよね」

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中山さんは最近、またお寺の鐘の音が聞こえるのだという。

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