中編3
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彼女と結婚する理由。

友人が今度結婚するという。

人嫌いというわけではないが、あまり人とつるむことを好まない彼が結婚するなんて……。最初に聞いた時は冗談だと思った。

彼は複雑な家庭で育ったためではないのだが、あまり人付き合いは得意ではない。上辺だけーーー表面的に仲良くなる素振りはするが、相手のことを信頼するということは殆どないのだと私に話した。

「理絵のことは別だけどさ。いや、恋心ってわけじゃないよ。単に一緒にいる時間が長かったから、他の奴よりかは信用あるって意味ね」

彼と私は家が近所だったため、幼馴染みである。今でも男とか女とか、そういった隔たりなく、何でも話せる異性の親友、といった存在なのだ。お互いに。

気心の知れる友人といえば、不肖ながら私くらいしかいなかった彼がまさか結婚するとは……私は冷やかしがてら、彼の住むアパートへと出向いた。

チューハイを飲みながらポテチを摘む。適当にお祝いの言葉を伝えると、彼は「あー、うん。ありがと」と、曖昧に笑った。照れてるのだろうか。

「ねえねえ、結婚する子ってどんな子なの。あんたが結婚を決意するくらいなんだから、さぞや可愛くていい子なんでしょ」

笑いながらそう言うと、彼は「うーん」と唸り、理絵にならいいか、と呟いた。

以下は彼から聞いた話。

この春、彼は所属しているサークル仲間に誘われ、合コンに参加した。人付き合いが苦手な彼は嫌だとさんざんごねたらしいが、人数合わせだからと懇願され、仕方なく参加したらしい。

合コンに来た女の子は5人。その中に絵梨花という子がいた。小柄で色白で可愛らしく控えめ。如何にも深窓の令嬢といった子だった。男の視線も人気も、一気に絵梨花に集まっていた。だが、当の本人である絵梨花は、彼のことが気に入ったらしかった。

合コンが終わった後、絵梨花のほうから連絡先を聞いてきた。彼はあまり気乗りしなかったらしいが、特に断る理由もなかったので、連絡先を交換した。

それからというもの、絵梨花からのアピールが始まった。控えめな彼女らしく、2週間に1度くらいの割合で食事に誘うとか、それくらいのもの。しつこく誘ってくることもなかったし、断ってもあっさり引き下がった。気紛れで食事に行くことを同意すると、凄く喜んだそうだ。たまに会って食事する間柄にはなっていた。

半年くらい経った頃。絵梨花から告白された。彼は誰と付き合うつもりはなく、やんわりと断ったそうだ。その時だった。

「絵梨花の顔が……豹変したんだ」

絵梨花は元々卵型の顔立ちなのだが、びよんと縦に伸びた。人間の顔はこんなにも伸びるものかと目を疑うくらい伸びたそうだ。瞳孔は上へ上へと移動し、やがて完全な白目になった。口も縦に細く長く伸び、引き攣った頬の筋肉はびくびくと痙攣し、まるで電気ショックを受けたかのような凄まじい表情になった。

仰天した彼が絵梨花の名を呼ぶと、一転して元の可愛らしい表情に戻った。彼が先ほどのことを話したが、絵梨花本人はきょとんとしていた。その様子から、本当に覚えがないようだった。

それからも絵梨花は、彼に好意を伝え続けた。そして彼が断る度にあの表情を見せたそうだ。その表情を見るに耐えられなくなった彼は、なし崩し的に絵梨花との交際を決めた。

そして先日、絵梨花からプロポーズされたというのだ。

「……それでいいの?後悔はないの?」

納得いかない私に、彼は困ったように笑った。

「理絵は知らないんだよ。絵梨花の、あの顔。ずっと近くであんな表情されてみなよ、こっちは神経が持たないよ……。たまに夢にも見る。フラッシュバックみたいに脳裏にあの顔が浮かんだりもする。あの顔を見ないで済むのなら、何だってするよ……」

彼は温くなったチューハイを一気に煽った。私はそれ以上何も言えず、缶を無意味に振る。

その時、インターホンが鳴った。彼が立ち上がり、玄関へと向かう。ガチャリ、鍵を開けた先には。

「ソノヒトダレ……」

白目を剥いた細長い顔の女が立っていた。

Concrete
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まめのすけ。様

なんだかヤバい女ですな...化け物とは此奴の事を指すのでしょうね 結婚なんて無理でしょう(´༎ຶོρ༎ຶོ`) 夢でうなされる方が良いと思う私がおかしいのか? 長〜い顏より丸顔が好き(^ν^) 暑さで病んでる赤煉瓦でした。

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写真撮っといて、本人に見せるべきだと思うよ。

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