短編2
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引っ越す理由

引っ越した初日にトイレで用を足していると、窓の向こう側から子供の笑い声がした。

隣りの家には小さな子供がいるのかと一旦は納得して二階の部屋に戻ったものの、夜寝る前に窓を閉めようと何気なく外を見たら、隣りにあたる場所に家などはなく、あるのは手入れも行き届いていないような空き地に古びた墓石が何体か並んでいるだけだった。

もちろん引っ越す前からそこに墓があるのは知っていたし、それが理由で家賃が安いのも納得した上でこの借家へ引っ越す事を決めた。忘れてた。

でもまさかあんな時間に墓場で遊んでいる子供なんているはずもないから、先ほどトイレで聞いた声はやはり聞いてはいけない声だったのでは?思い出すなり急にそら恐ろしくなり、その夜はなかなか寝付く事が出来なかった。

それからもトイレに行くたび窓の外からは様々な声が聞こえてきた。

子供の笑い声のほかにも女性同士の話す声であったり、鼻歌であったり。野太い念仏を唱えるような男の声だったり。その度に聞き耳を立てているが、残念ながらいつもギリギリ何を言っているのかは聞き取れなかった。

一度は本当にそこに人がいるのではないかと勇気を振り絞って窓を開けてみたが、その瞬間にピタリと声は止み、静まり返った暗闇の中に黒い墓が見えた。

窓のすぐ側にまで墓があるなんて知らなかった。下見の時にちゃんとチェックすべきだった。俺のバカ!

それ以来、俺はとうとう自分の家のトイレを使う事が出来なくなり、家から歩いて三分のコンビニで用をすますようになった。

こんな状況だが家の中で霊障が起きているわけではないので不動産屋に文句は言えないし、今のところトイレ以外ではおかしな事が起きていないのでなんとか生活は出来ている。

でもおそらく次の更新手続きは受けずに俺は別の家へ引っ越すと思う。

やっぱり自宅のトイレを使えないってのは思ったよりキツいからね。

Concrete
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