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ゴーストポリス3(その4)

中編5
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ゴーストポリス3(その4)

ロンドン ウェストミンスター寺院──。

 世界遺産に選ばれていることもあり、観光客がわらわらとごった返す中、立入禁止区域にされている場所には二人の警官が凛々しく立っていた。

 「日本からわざわざ来てやった警察庁のムトウだ」

 襟で玉虫色に輝くGPバッジをちらつかせるムトウに、警官達はキリリと敬礼をして道を開ける。

 「やけに威圧的だな、オッサン」

 「何か腹が立つじゃねぇか……利用されてると思うとよ」

 「頼られてる……そう思いましょうよ」

 ぶつくさ言いながら第三の現場に着いた三人は、早速ゴーグルの感度を上げて辺りを見渡した。

 「血液反応の他にも、若干の霊子反応がありますね」

 「あぁ……こりゃ、ヒデェもんだな」

 そこで起こったであろう生々しい惨劇が、ゴーグルを通して見て取れる。

 「ハトっち!オッサン!これを見ろ!」

 えだまめ1号が示す方には、腐敗しかけているが、ごく僅かな肉片が落ちていた。

 「これは……被害者の?」

 「だろうね」

 「まるで食い散らかした後みてぇだな……ん?」

 ムトウが何かに気づき、それを慎重につまみ上げる。

 「毛か?」

 「人毛ではなさそうですね」

 「見せてみろ」

 ムトウが謎の毛をえだまめ1号に向けると、えだまめ1号の目が緑色の光線を照射した。

 「……これは人の毛だな」

 「「人の毛ェ?!」」

 奇しくもシンクロしたムトウとハトムラに、えだまめ1号が言う。

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 「正確に言えば、人のDNA型を持つ犬系の毛だ……オスの」

 「人の変異体……そういうこと?」

 「まさか狼男だとでも言いてぇのか?犬っころ」

 「察しがいいな……オッサン」

 「合ってんのかよ!?」

 えだまめ1号の意外な答えに、ムトウは驚いて訊き返した。

 「犯人は狼男なのか?」

 「あぁ……少なくとも『この件』はな」

 「どういうこと?」

 何が何だかこんがらがるハトムラが、えだまめ1号を見下ろす。

 「わからん!!」

 ハッキリと言い切ったえだまめ1号に、ムトウもハトムラも溜め息を吐いた。

 「だとしたら、狼男は殲滅対象になるのか?」

 「そうですね……元は人間ですし……」

 二人の捜査官の素朴な疑問に、ロボ犬が答えを出す。

 「狼男はヒトをベースに造られた怪物だ。人間じゃない……なら、それはわたし達の領分だろ?」

 「確かに……」

 「それに、ここは日本じゃないんだ。治外法権だからレイ状も要らないしな!思う存分叩きのめせばいい」

 「そういう問題なのかな……」

 えだまめ1号からの解答に不安を露にするハトムラが、もう一つの疑問をぶつけた。

 「ヌコちゃん、そもそも霊子弾って効くの?実体があるってことなら、狼男って霊子の塊じゃないんでしょ?」

 「ハトムラの言う通りだ、ただイテェだけじゃ殲滅なんか出来ねぇだろ?」

 「シロートめ……わたしが何も対策してないとでも思ったか?」

 捜査官達の不安を一笑に付して、えだまめ1号が言う。

 「そんなこともあろうかと、霊子弾と霊撃警棒の強化版を作ってある!!心配するな!!皆の衆!!」

 「おぉ~…流石はマッドサイエンティストだな」

 「ムトウさん……ソレ、褒め言葉じゃないですよ?」

 ハトムラのフォロー空しく、既にムトウは霊子弾の銃撃を受けていた。

 「とにかく、犯人が人間じゃないことは確定したし、気兼ねなく戦えることがわかったな」

 「そうね。後は室長とチカゲちゃん達の捜査報告と照らし合わせて対策を練りましょう」

 「それもそうだが、あの女……何かキナ臭くないか?」

 ムトウが眉をひそめた呟きに、ハトムラは訊き返す。

 「リダさんのことですか?」

 「あぁ……俺ぁどうも気になるんだよ……あの女が」

 「惚れたか?オッサン」

 えだまめ1号が茶化すと、ムトウは軽くスルーして続けた。

 「バカか!?あの女が警察官とは思えねぇんだよ……」

 「いい勘してるな?オッサン」

 「え?ヌコちゃん、リダさんって警察官じゃないの?」

 意外にもハトムラがワントーン高い声を上げて、えだまめ1号を見下ろした。

 「名前が気になって調べたんだ……クルタナ家は由緒正しい女王陛下の守護者(ガーディアン)の家系だったよ……」

 「「ってことは……」」

 二人の捜査官の顔色が、みるみる青くなっていく。

 「警察なんかよりずっと上の組織のボスの家の子ってことだ」

 「なんだそりゃあ!?」

 アワアワするハトムラと腰を抜かしそうになるムトウを横目に、えだまめ1号が言う。

 「つまり、この事件……根は深いってことだ」

 「室長…タメ口聞いてたよな……クルタナさんに」

 ムトウが心配そうに言うと、えだまめ1号はそれを一蹴した。

 「室長に家柄や肩書きが通用するもんか!それより、この事件がそうとう複雑なことの方が厄介なんだよ」

 「確かに……下手したら国際問題になりかねないよね?」

 「それに、わたし達はもう片足突っ込んでるんだから」

 「外務省の野郎……」

 こんな面倒なことに巻き込んだ外務省に怒るムトウを、ハトムラが優しくなだめる。

 「大きな貸しを作ったと思いましょうよ!ね?ムトウさん」

 「ポジティブだな……ハトっちは」

 えだまめ1号が半ば呆れ気味に呟くと、ムトウのスマホが鳴った。

 「室長!」

 『そっちはどない?』

 「第一の現場と第三の現場の痕跡から、別の被疑者が浮かびました」

 『ほぅか……こっちもオモロイもん見つけたで?何やオモロくなってきよったのぅ』

 電話の向こうで楽しげなユキザワに、ムトウが重々しく切り出す。

 「室長……あの、リダって女のことですが……」

 『何よ?惚れよったんか?』

 「アマノと同じこと言わんでください!」

 『シャレの分からんやっちゃ……オマエが言いたいことは分かっとるよ?アマノからメール来たけ』

 「え?」

 飄々としているユキザワに、ムトウが息を呑んだ。

 『誰が誰でもエエやんけ?ウチらの仕事はバケモン退治……それだけやろ?』

 「……そうですね」

 『ほんなら、オマエらは先にホテルに戻っててくれるか?そこで飯でも食いながら今後の捜査方針とバケモン対策決めようや』

 「分かりました……それでは、お待ちしてます」

 通話を終えたムトウがスマホをしまうと、側で聴いていたハトムラも一つ頷いてから手を打つ。

 「じゃあ、 ホテルに戻るか!室長のご命令だからな」

 「そうだな!わたしも何か出前でも頼もう♪」

 「ヌコちゃんズルーい!!」

 人ならざるモノとの決戦も近いというのに、緊張感の欠片もない三人は、宿泊先のホテルへと踵を返した。

Concrete
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