あれは、自責の念が私に見せた幻だったんだろうか…。
それとも…。
私は19歳から27歳まで、約7年半くらい、ある女性とお付き合いしていた。
人生の青春時代をその人に注いできたせいか、その方と別れてから面倒くさくなり恋愛というものに積極的になれない。
もちろん、好きな女性は出来るものの、またあの7年半を1からはじめるのか…と思うと途端に面倒くさくなるのだ。
ある時、私を好きになってくれる人がいた。
私が30歳で彼女が32歳だったんだろうか…。もしかしたら、私が29歳で彼女が31歳だったかもしれない。
とりあえず、彼女は2歳年上で、結婚適齢期だったことは確かだ。
私は雰囲気で彼女が好きでいてくれたことも悟ったし、周りからも好きであろうことは聞いていた。
でも、私は気付かないふり、知らないふりで通し続けた。
彼女は見た目はそこそこ美人なのだが、とてもおとなしい方で、とてもじゃないが私の性格的に一緒にいて疲れてしまいそうだったからだ。
彼女とは同じ会社で支店は違うが同じ職種の担当をしていた。
その為、その担当の飲み会では顔を合わせていた。時には恐らく周りが私たちをくっつけようという意図で少人数の飲み会を企画したこともあった。
私にその気がないのを悟ったのか、周りの熱も覚めてきて、どうこうしたいというのはなくなり、平穏な生活を送っていた。
あれは忘年会だったと思うが、同じ職種の担当ばかりで飲み会があり、私はいつも以上にお酒を飲んだ。年末だからいいや!という気持ちもあった。
帰り際、時計を見ると1時半………。
確か、年末でいつもより早く会社が終わったので、5時半くらいからお酒を飲んでいた。
タクシーで帰ろうと思った時に彼女がそこにいた。彼女もいくらか酔っているようで、いつもより明るい。
私の住む地域と彼女が住んでる地域は同じだ。
酔っているせいか、彼女を送って行こうと彼女に声をかけた。
もちろん、彼女はそれに応じ、一緒にタクシー乗り場に向かった。
でも、タクシー乗り場に向かう途中で、いつもより明るい彼女惹かれてしまい、男女の関係となってしまう。
次の日、朝起きて、我に返りハッとしたが、もう起きてしまったことは取り返しがつかない。
ここでの選択肢は、酔ってしたこと。ごめんなさい。というか、酔ってて覚えてないふりをするか、数週間好意があるふりをして何か理由をつけて別れるか。のどれかだった。
私は数週間好意があるふりをして、何か理由をつけて別れる。という選択肢を選んだ。結局、私はいい人でいようと思ってしまったのだ。
数週間は私にとっては地獄だった。
彼女はウキウキしているのが手に取るように分かる。私は知ってる人に見られていないか?どうやって別れようということばかり考えていた。
そして、2週間が経った時、他に好きな女性が出来た!別れてくれ!と頭を下げた。
思いの外、彼女はすんなり受け入れてくれた。
恐らく、2週間の間に私に好意がないと悟ったのではないか?という感じだった。
私は、安堵感と同時に罪悪感にかられた。もちろん、私が悪いのだ。それは自覚している。なんて、最低な男だろうか?そんなことを考えながらも、少しでも軽減するため、その日は早く寝ることにしたのである。
どのくらい寝ただろうか?
あまり寝ていないような気もするし、熟睡だったような気もする…。が、窓ガラス越しに見える月明かりに照らされた風景を見ると、恐らく真夜中だろう…。
そんなことを考えていた。
………あれ?窓ガラス?
私は違和感を感じていた。私は滅多にカーテンは開けない。特に冬は寒さから窓を開けることもなく、ましてやカーテンを開けることなど、皆無に等しかった。
それが開いているのだ。
私はいつ開けたかな?と思いながらも、寒さから布団から出る気には到底なれず、月明かりに照らされた風景を見つめていた。
すると、いきなり人の顔のようなものが目に飛び込んだ。
私はびっくりして、目を伏せた。
布団をかぶり、どうしたものかを考えていた。
もう一度確認するか、見なかったことにするか…。
私は後者を選んだ。朝が来ない夜はない。寝よう寝よう寝よう!もし寝れなければ朝までこうしてよう!あれは気のせいだ。そんなことを考えている内にまた眠りについた。
朝起きると窓のカーテンは閉まっており、恐らく夢だったんだ!と納得した。
しかし、次の日も真夜中に目が覚める。
私は窓を見ないようにしていたが、ついに目を向けてしまう…。
すると、窓の外からその彼女がこちらを見ている。月明かりに照らされたその顔は悲しそうな恨めしそうなそんな表情である。
それから、毎晩彼女は現れるようになった。
夢なのか、現実なのか分からない日々…。
私は疲れはてていた。
私は、別れを告げて以来、会っていなかった彼女の元へと向かった。
私は彼女を呼び出して、「本当に勝手なことを言ってすまなかった。私を許してくれないか?憎ければ、殴られようが、刺されようが、殺されようが、文句は言わない。」と再度頭を下げた。
彼女は今度こそ納得したように笑顔で了承してくれた。
色々調べていると、生き霊というのは本人には記憶はないのだという。
あれは、果てして生き霊だったのか、私の自責の念が見せた幻だったのか、果たして、ただの夢だったのだろうか…。
今となっては確かめる術などない。
作者寅さん