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中編6
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断片 そのー

私は本が好きだ。その中でもオカルト話が好きだ。創作、実話かは関係無く、内容の面白さ、怖さが全てだった。古い作品から新しい作品。兎に角がむしゃらに読みふけったものだったわ。勿論本だけじゃなくて、ネットやラジオを駆使して噂、オカルト知識を増やしていったのよ。

私には母親の記憶がない。私が生まれてからすぐ何処かに行ったらしい。唯一の肉親である父親は普段は海外で働いているから殆ど会うことがない。

生活はそんなに苦労していなかった。生活費はちゃんと振り込んでくれたし、物心つくまでは面倒を見てくれた人が居たから。

家事も料理も生活も、慣れてしまえば苦労はなかった。ずっと一人暮らしだったけれど、余った生活費で本を買ってひたすら読んでいたから寂しくはなかった。

作品というのは本当に素晴らしいものだわ。読んでくれる人さえ居ればいくらでも世界に浸る事が出来る。特に興味があったのはオカルトで、現実と虚構の世界が曖昧になって行く感覚が大好きだった。恐怖っていうのは本来、すぐ身近に、誰にでも起こりうる事なのよ。だから面白い‥とかそんなことを考えるのが好きだったわ。聞いてくれる人は居なかったけどね。

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私は年頃の女子がやるような趣味は理解できなかった。空気を読むのも苦手だったわね。ずっと一人生きてきたから。学校でもそんな感じだった。趣味もオカルトだしね。そんな私に友達なんか出来なかったわ。でも寂しくはなかったわよ?休み時間は本を持ち込んで読んでたり、図書室にこもったりしてそれはそれで楽しくやってたわ。このまま平穏な生活が続いてくれればそれで良かったの。

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勉強は自慢じゃないけれどよく出来る方だったわ。それ以外する事ないんだもの。貼り出されるテスト順位も5位以内を出たことは無かったわ。それが良く思わなかったのかしらね。いじめが始まったのよ。

陰口、からかわれる類いは全く気にしなかったわ。無視すればいいんだもの。そもそも人に興味無かったし、私は一人でも生きていけるから。

‥でもある日ね。鞄があさられてたの。私の今までのオカルトの軌跡をまとめたノートがズタズタにされていたのよ。

私にとってそれは生きてきた半身‥いや、私の全てだったの。他人から見れば下らないことかもしれないけれど、どんな辛い時も私をささえてくれてきた作品、それに対する私の考察を書いてきた私の心の拠り所だった。

その日の夜、私はズタズタにされたノートを前にして、部屋で考えていた。私は一人だ。私が生きている意味って何だろう。所詮人からみれば私が生きてきた意味はこんな簡単に壊せるほど脆いものだったのか‥そう考えたら何故か泣いていたわ。生まれてから殆ど泣いたことなんか無かったのにね。

そうして私は考えた。消えてしまおう。でもただ消えるのは不公平だ。必ずあいつらの記憶に残る死に方をしてやろうと。

私にはオカルトの知識があった。呪いの知識も。勿論、本当に通じるなんて考えていなかったわ。でも、精神的に傷を負わせる事位は出来る。後、生きている人の呪いはたかが知れてるけれど、死人の呪いは凄まじい力が出せるとも聞いた事があるわ。だから私は‥

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だから私は、そいつらの目の前で自分の首をカッターで切ったわ。授業中にそいつらの名前を叫びながらね。素人でも、ちゃんと勉強して切ればその内死ねる事は知っていた。それまでに少し猶予があることも。私はその血のついた手で、で一番私をいじめてたあいつの片目をついたのよ。「死んでも呪うから」って呟きながらね。

その後その教室の窓から飛び降りた。そこは4階。不思議と怖いとか思わなかったわね。因みにその時着けていた黒いミサンガは、前に買ったもので、友達がいない自分に対する皮肉みたいなものだったわね。なんだったんだろう私の人生。そこで意識が無くなったから、それ以上考えなかったわ。

‥そういえば飛び降りるとき誰かの声が聞こえた様な気がしたんだけれど、気のせいかもしれないわね。

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「おい。」

「‥なによこれ。私死ななかったの?」

「やっと元に戻りやがった‥全く。あー疲れたぜ‥」

「私の質問に答えてないんだけど?」

「いや、お前は死んだよ。バカな事したなぁ。あたしも人の事言えねえけどよ。」

「じゃあこれは一体‥?」

「幽霊って信じるか?」

「‥こうなったら信じるしかないじゃない。」

「あーあたし名のってなかったな。舞ってんだ。よろしく。」

「‥私は咲よ。幽霊になってよろしくも無いじゃないのよ。」

「あたしこの学校に長いこと要るんだけどよ。お前の事結構見てたんだぜ?‥というか私がこうなったのはお前のお陰でもあるっていうか‥」

「何訳の解らない事言ってるのよ。‥というか本当に見てたの?」

「学校から出られなかったから、家までは見てねえけどよ。あたしな。人の考えてる事が少し解るんだよ。だからお前が高身長のくせに胸がぺったんこでそれを意外に気にしてるって事も知ってるぜ?」

「‥消してやりたい気分だわ。」

「まぁ冗談はおいといてよ。お前、一人でも寂しくないとか言ってたけどよ。本当はただ喋ってたり、自分の話を聞いてくれる輩が欲しかっただけじゃねえのか?てかそんな輩がいたら、あんな馬鹿な事もしなかったんじゃねえかと思ってよ。」

「失礼ね。私はずっと一人で生きてきたのよ。今更そんなやつ要らないし、寂しくなんかないわよ?」

「お前さぁ‥死んだ後位素直になれよ。もう気を使う必要ないんだぜ?もっかいじっくり考えてみろよ。」

「何回も言わせないでよ‥私、‥私は‥」

寂しくなんか無かった。

本当に?

私は決して無口だった訳じゃない。私の考察を聞いてもらいたかった。そのことについて議論がしたかった。私の世界観を共有したかった。聞いてくれる相手が居なかったんだ。だから一人で閉じ籠った。自分が傷つかないように。下らない会話だってしたかった。でもこんな私と話してくれる人がいない事だって解ってた。もしそんな人がいてくれたら‥私は‥寂しい‥私の事なんか誰も見ていない‥そう思ったから。だから私も人を見なくなった‥そっか‥そんな事だったんだ‥そう思ったら涙が出てきた。あの時以来だった。私はずっと‥

「友達が‥欲しかったのね‥こんな私でも‥」

「ようやく気づいたか。バカなやつめ。あたしがあんたを今の状態にすんのにどんだけ苦労したか‥」

「‥?どういう意味‥?」

「だーもう!お前悪霊になってたんだよ。それもすっげえ強力なやつ。あたしは細かい事が嫌いだからそれについて喋るのはここまでだ。んでよ。お前これからどうするんだ?」

「どうするも何も‥」

「お前オカルト好きなんだろ?それ聞かせてくれよ。」

「え‥(そういえば彼女見てたんだっけ。)そうよ。」

「良かったな。お前の話を聞いてくれる人間が出来たぜ。あ、勘違いすんなよ。あたしはオカルトに関しては素人だ。だから詳しく解説してくれよ。」

「!!で、でも‥」

「お前は知らないかもだけどよ。お前には借りがあるんだよ。それに、二人だったら悪霊になる事もないだろうしよ。それにこっから長いこと一緒に過ごすことになるんだ。あたしがお前の初めての友達になってやるよ。」

「あ、ありがと‥」

「お前さぁ。素直になれば結構可愛いんだからよ。土台は悪く無いんだし。勿体ねえ。」

「前言撤回。感謝なんてしないわ。あんたのために仕方ないけれど一緒にいてあげるわよ。」

「何だよこいつめ。」

私はこれからどうなるんだろうか。それは解らないけれど、少なくとも今は。楽しくなることを願うわ。

その日、私に友達が出来たから。

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