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中編5
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断片 その二

あたしはこれといって特徴の無いやつだった。

学校を探せば多分どこにでもいる。

そんな存在だった。

勉強はそこそこできたか?

成績は真ん中位だったな。友達もそこそこいたし、いじめとかにもあって無かった。

それなりに大変だったけど普通に生きてきたんじゃねえかな。こーいう所も普通っぽいだろ?

あたしは熱中できるもの、ってか趣味が特に無かった。今みたいにスマホもない時代だ。暇だったら漫画とか本は読んだけど、それも長続きしなかったんだよ。もとからあきっぽかったしな。他の趣味もそんな感じ。テレビは見るし、レコードは聞くしボウリングとかもそこそこやるけど、そんなに好きじゃなかったな。

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あたしの時は受験が本当大変だった。

今みたいに大学の数は全然無かったし、落ちたら人生終わり、なんて冗談が冗談に聞こえなかった。周りの奴は必死に勉強してたな。つるんでた奴もあたしと遊ぶ時間減らして勉強してた。言われたら当たり前なんだけどさ。

あたしは勉強も今一身が入らなかった。

まぁそのせいで成績が落ちたとかは無かったし、自分の受かりそうなそこそこの所を受験するつもりだったから、そんなに苦労して勉強する必要がなかった。そんなに勉強している周りが馬鹿馬鹿しく見えたりもした。馬鹿なのはあたしの方だったけどな。

受験当日になって、試験問題を前にした時は今でも覚えてるな。いや、難しいとかじゃなくてさ。今思い出したらすっげえ簡単な問題なんだけど、その時は何にも出てこなかったのよ。他の教科もそんな感じ。勿論その大学落っこちたよ。

今までそこそこの事をやり続けて、それなりに成功してきてた私は絶望したね。不合格通知前にして考えたんだよ。あ、もう生きてる必要無いってな。

特に趣味無かったし、友達は大学受かったって盛り上がってたし、別に心残りは無かった。どこで死のうかなって考えて、学校の窓から飛び降りようって考えたのもその時の気まぐれってやつ。

その日の朝、普通の時間に起きて、親の作ってくれた目玉焼きを食べて、特に会話せずに家を出て、珍しく近所の犬に吠えられて、春休みだから誰もいない学校に忍び込んで(先生はいたかもな)、そっから飛び降りたわ。恨みとか何もなかった。何も考えてなかったな。死んだらどうなるんだろうとか考えてたかもだけどよ。

あたしが次に目を覚ましたのは、自分の家の中だった。普通の時間に目を覚まして、親の作ってくれた目玉焼きを食べて、特に会話せずに家を出て、珍しく近所の犬に吠えられて、春休みだから誰もいない学校に忍び込んで(先生はいたかもな)、4階の窓から飛び降りたわ。恨みとか何もなかった。何も考えてなかったな。死んだらどうなるんだろうとか考えてたかもだけどよ。

その次も同じだった。

もう何回も何回も繰り返した。体が逆らえないんだ。何回も何回も飛び降りて、落ちた瞬間はめちゃくちゃ痛いのに止められない。特に恨みもなく自殺した幽霊はその瞬間を無限に繰り返すっていう話を今更ながら思い出した。考える事は出来た。でも体がその通りにならないんだよ。

何十回目だろうか何百回目だろうか。或いはもっとか。もう覚えてない程繰り返した末に、私は気がついた。誰もいない教室のはずなのに一人の生徒がいた。そいつはよく解らん本を読んでいたが、その時は気にもとめなかった。ただ、何か他の奴らとは違う雰囲気が出てた。

更に何回もループを繰り返しても、

そいつは見え続けた。ある時あたしは気がついた。きっとあたしが知らなかっただけで、この教室は今は他の生徒が使ってるんだ。こいつはその中の一人だ。そう気がついた瞬間に、あたしの見てた世界が変わった。本当に変わったんだよ。他の生徒が一気に見えるようになって、机、椅子も新しくなった。それまでの時間が一気に過ぎたみたいにさ。でも皮肉な事に、あたしのループは止められなかった。相変わらず落ち続けてた。

でもあたしにはループは変えられないけどよ。その途中でそいつを観察するっていう楽しみが出来た。時間は動くようになったんだよ。他の奴らは全然気にしなかったけど、波長が合ったのかそいつの事は気になったんだよ。

そいつはどうやら苛めにあっているみたいだった。詳しい事は解んなかったけどよ、誰にも迷惑かけてないひっそりと生きてる奴を苛めるってのは本当に不愉快だよな。しかもそいつは自分の趣味を持ってて、本を読んでる時は本当に幸せそうにしてたから余計に不憫だった。長いこと見てて解ったんだけどよ。あいつは多分誰かと自分の趣味を喋りたいんだよな。でも関わり方が解んないんだろう。そして、そんな苛めに何にも出来ないあたしも情けなかった。何とか出来ねえかなちくしょう。

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‥今日のあいつは何かおかしい。どうやら鞄を荒らされたみたいだ。あんなに誰かを憎んでいる顔なんか見たこと無い。何かしでかさなきゃいいけどよ‥

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その日、あいつは凄まじい事をした。何でだよ。何でお前みたいのがそんなことをするんだよ。そりゃ苛めは辛かったかもしれねえけど、何もお前が死ぬことなんか無いだろうよ。お前みたいな人との関わり方が解んないだけで、本当はすっげえ可愛い奴がそんな事するもんじゃねえよ。血まみれの体で窓にあいつが倒れこんだ時、あたしは叫んでた。

あたしの意思で体は動かせなかったはずなのに?

「馬鹿野郎!やめろ!」

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その時から、自然に体が動くようになった。というか、ループを抜け出した。学校からは出られないけどよ皮肉なもんだよな。他人の死と引き換えに自分が自由になるなんてよ。数日経ったら体が消え初めた。良い気分だ。これが成仏ってもんか‥でもよ。あたしにはやることがあるんだ。いや、やりたい事があるんだ。初めて自分の心からやりたいと思った事だ。

飛び降りたあいつはその日から凄まじい怨念を撒き散らしながら学校で暴れてやがるんだよ。あいつが呪った奴は目が腫れ上がって二度と学校に来れなくなったって聞いたけどよ。それを過ぎてもあいつは暴れ続けてる。自我があるのか無いのかわかんねえけど放っておけねえよ。他の生徒にも被害が出始めてるし、なによりこのままだったらあいつが可哀想過ぎるぜ。幸いな事にあたしは長いこと幽霊でいたからな。霊としての力はちょっとしたもんだ。この力の全てをぶつければ、今ならあいつを救えるかもしれねえ。

成仏は無理でも、無害な幽霊に戻せるかもしれねえ。下手したら取り込まれるかもな。例えあたしがそれで消えても、元々あいつのお陰で自由になったもんだし。

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もし事を終えて二人とも無事だったら、そんときはどうするか。そんときはあいつとちゃんと話をしてみたい。どうせ素直なやつじゃないんだろうけど、一回本心を聞いてさ。あいつの趣味にも付き合ってやるか。あ、一回からかってもみたいな。そんな冗談言い合う奴も居なかったんだろうしよ。それから‥まぁこれから考えるさ。二人の時間はどうせ永いんだろうしよ。そんな事を考えながら、あたしはあたしの力全てを持って、暴れ続けるあいつの所へ殴り込みに行った。

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