この3人は「オカルト研究会」を自称し、今も他の生徒が帰った後、空き教室で勝手に集まりお喋りをするのが日課になっている。3人とも女子高校生である。
いつもぼーっとしていて、少し抜けている楓
少し口が悪く、考え方にどこか時代を感じさせる舞
オカルト知識が豊富だが、その内容が少し偏っている咲。
この物語は、その3人による会話劇である。
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「おい!どうした楓!?」
「‥わかんない‥頭が痛い‥からだが痛い‥」
「これは、霊力が無くなりかけてるわ。」
「おいどーいうことだよ!?いきなり言われてもわかんねーぞ!?」
楓の体は、半分以上が消えかけており、見ればわかるほど衰弱しかけていた。
「‥予想はしていた事なんだけれど。多分私は怨念が強すぎて、いくら悪霊じゃなくなったとは言えそれを存在の霊力に回していたし、あんたは死ぬほど長い事ループを繰り返していたから霊力がたまって存在が保たれていたのよ。」
「んなこた聞いてねーよ!さっさと何とかしやがれ!」
「いいから聞きなさい!!何回も言うけど、そもそも私達は存在がイレギュラーなの!!だから存在する事だって大変なはずなの!あんたと私は偶々なんとかなってるけど、楓はここにきてそんなに日も経ってないし、話聞いていて恨みもないみたいだったわ。だから、霊力が尽きかけたってなんの不思議もないのよ‥だから、体が維持できなくて‥」
「理屈はいーんだよどうでも!あたしたちに出来ることはねーのか?!」
「だから、私達の霊力を渡せば何とかなるかもだけど‥」
「それを早く言えよ!なら、早速」
「まちなさい!そんな簡単な話じゃないのよ。私達だって紙一重で存在を保ってるかもしれないし、下手したら足りないかもしれないのよ?迂闊にやったら、私達だって」
「だから何だよ?」
「え‥」
「お前はさ、今まであたしら3人で過ごしてきてどうだったよ。ぶっちゃけあたしは楽しかったぜ?勿論お前と2人でいるときも悪くなかったけどな。たった一人だけだけど、居るのと居ないのとじゃ全然ちげーだろ?それに、助けられるかもしれねーのに、あたしはそれを見捨てたくねえし、ってかお前を助けた時点で、あたしがそーいうやつだってわかってんだろ?」
「私だって楽しんでたわよ‥生きてる時よりもずっと。死んでからこんなアホに出会えるなんて思わなかったわ。楓だってその大切な仲間の一人に決まってるじゃない‥そう思っても怖いのよ。存在が消えるかも知れないというのは。これだけ楽しい空間を知ってしまったから。‥やっぱり舞は凄いわね。」
「あー?!何か言ったか?」
「何にも言ってないわ!あーもう決めた!元悪霊の底力見せてやるわよ!よくよく考えたらこんなアホとこの先二人きりなんて耐えられないし!それで消えたとしても後悔ないわ!」
「相変わらず素直じゃねえなーへへっ!それじゃあやるか!ためこんだ霊力を楓に!‥」
‥
楓の姿がほぼ完全に元に戻ったのを確認して。
「はぁ‥やったのか‥!?」
「‥暫くは‥存在するだけで手一杯ね‥」
「あ、あれ‥二人とも‥」
「‥へっ。よぉ楓。元気か‥?」
「この調子なら‥大丈夫そうね‥」
「そんな‥?!わたしなんかのために‥!!」
「馬鹿野郎。あたしはこれで2回目だ。今更大したことじゃねえ。」
「‥良かった。取り敢えずは無事で‥人を助けるってこういう事‥悪い気はしないわね‥」
「いい話っぽい雰囲気なとこ悪いんすけど、ようやくこうなりやしたね。」
「お前‥何をしに来た。わりぃが今ちょっ手が離せねえんだ。リクエストは‥」
「あー。今回は違いやして。これでようやく二人を成仏させられるんですよ。」
「‥今‥なんつった?」
「ったく。二人の霊力が強すぎるから、苦労したんすよ。その辺の自殺者改造して、時期が来たらそいつの霊力をバラバラにして他の二人に霊力を出させる。時限爆弾みたいなもんですよ。そうすれば二人の霊力も減るだろうって。その様子だと、成功みたいで何より。」
「えっ!じゃあわたしが幽霊になったのは‥」
「あーもう記憶戻していっか。ほいっと」
「っ!!!」
「この計画の弱点は、爆弾役がある程度二人と仲良くならないと駄目だってことなんですぜ?知らない霊なら見捨てられてお仕舞いですからね。上手くやってくれた用で。」
「そんな‥今までの事は‥」
「なーに幽霊が未練とか言ってるんだか。そんな事やってる暇があるんだったらさっさと成仏して、新しい人生をやり直してくだせえよ。幽霊が馴れ合うとか普通じゃあっちゃいけねーんすよ。死者は死者らしくしてやがれってんだ。や、失礼。言葉が荒くなりやしたね。でもお二人も成仏出来るんだ。悪い話じゃないでしょう?」
「くそっ‥体が動かねぇ‥」
「悔しいけれど‥私もどうすることも‥」
「別に殺そうってんじゃないですぜ。死者は成仏する。みんなやってることでさぁ。さぁ。最後に残す言葉はありやせんか?少しなら聞いてやりやすよ。」
「‥まさかこんな形でお別れだとはな。こんなんだったらもっと早く言っとくべきだったかもな。あたしはお前らが大好きだった。特に知識だけはあるこのバカが、咲がな。ここにいる間の時間の殆どがお前らとの会話だった。お前は素直じゃなかったし、いちいち癪にさわるけど、本当に楽しかったんだぜ?楓も、こんなあたしとよく喋ってくれたな。もし来世なんてもんがあるなら、もし会えたなら、そんときはどっか行こうな?海とか。」
「最後までムカつく事言うじゃない。今まで言えなかったけど、今の私があるのはあんた‥舞のおかげよ。感謝できない程感謝してるわ。‥その‥私の始めての友達‥。私はみんなと話をして、というか、私の話を聞いてくれて本当に嬉しかった。私は素直じゃないから‥でも最後くらい。本当にありがとう。みんな大好き。絶対みんなと巡りあってみせるわ。絶対に。」
「ごめん‥!ごめんなさい‥!わたしのせいで‥!」
「気にすることねえよ。成仏するだけだ。楓は悪くねえ。」
「そうよ。私達がやったことだもの。今までありがとうね。」
「‥お別れはすみましたかい?それじゃ。」
楓の目の前で、舞と咲は消えていった。満面の笑顔を残して。
「さーて終わった終わった。あ、あんたはもう用済み‥でも、役立ってくれたんで一応希望は聞きましょうか。どうしたいですかい?」
「‥」
「何で黙ってるんですかい?あんた死ぬ前は疲れたとか言ってたじゃないですか。まぁ役立ってくれたんで、お望みなら、もっと良い条件に転生させるのも可能ですよ。そうしましょうか。もっと現世を楽しめるような。例えば‥大金持ちの社長令嬢、こんなんいかがでしょう。」
「‥せ」
「はい?」
「あの二人を返せ‥!」
「いやいや。ご冗談を。あいつらは幽霊で」
「いいから返せってんだよ!!!」
「おいおい‥まさか、来世より幽霊を選ぶんですかい?幽霊なんて存在しちゃいけねーですし、そもそも‥」
「いいから返せ!!!!わたしにとっては来世とか知らない!!でもあの二人と過ごしたこの時間は本物!!幽霊とか人間とか関係ない!別に死んでたっていいじゃん!?昔はどーこーとか未来がどうこうとかさ!成仏したらなに?それが幸せなの?わたしはあの二人といて色んな事を話した。まだまだこれからだって何だってやれるはず!わたしにとっての幸せはあの二人といることだったの!それを奪っといて何が幸せな来世よ?!ふざけんじゃないわよ!」
「何だ‥!?こいつ‥生前にこんな強い思いなかっただろ‥?いやこんな執念‥は‥?!」
「幽霊だって成長するわよ!生前だってこんな気持ちになった事は無いわ!全部どうでも良かったんだから!でもそうじゃないって、大切なこととか、色んな気持ちに気付かせてくれたのよ!それが生きてるか死んでからかの違い!それだけよ!!確か霊力は思いの強さに比例するはず!ならお前を‥!!」
(不味い‥こいつ悪霊化しかけてやがる‥俺のミスで悪霊作っちまったなんて事になったらえらいことだ‥しかしこんな霊を成仏させるには霊力が足りねえ‥畜生‥仕方ねぇ)
「くそったれ!今回だけですぜ!こんなむちゃくちゃは!あーもう暫く録に動けねえだろうが、悪霊に喰われるよりはましだ!」
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「‥あれ?ここは?」
「‥見覚えのある景色ね‥」
「あ、二人とも!!良かった!!」
「これが来世って奴か?にしてはえらい早かったな。」
「違うよ。また戻ってきて貰ったの。」
「楓‥何か雰囲気変わったかしら?」
「そうかな?でも、これから何がしたいかは解ったかな。」
「何か成仏する前に比べて体が軽くなった気がするぜ‥ってすげえよこれ!」
「これは‥学校から出られるということかしら?」
「あ、あの人そういう調整してくれたんだ。」
「よっしゃ!まずは外を歩いてみようぜ!いい加減学校の景色も飽きたし、時代がどれだけ変わったのか見てみたいしよ。」
「相変わらず単純というか何と言うか‥変わらないわねほんと。」
「あ、お前の最後の言葉、あたしちゃんと覚えてるからな。」
「‥!!冗談じゃないわ。早く忘れなさい。もっかい成仏してみたらその単純さは治るのかしらね。」
「み、みんな‥お帰りなさい!」
「ただいま。」
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「あー畜生‥何とか逃げ切れたが、偉い目にあった‥こりゃ暫くは休業だな‥それにしてもあんな変わった幽霊もいるもんかねぇ‥だとしたら、幽霊とかも捨てたもんじゃねえのかも‥な。」
作者嘘猫
最終回です!筆がのってしまったので書いてしまいました。取り敢えずはハッピーエンドですね。
ここから裏話なんですけども、実はこの3人、ビジュアルがさっぱりでして、キャラを作るのが苦労していました。絵心がないせいで、言葉でしかキャラ付けができないのがもどかしかったなと。誰か書いてくれないかなーって。
こんなシリーズですが、一旦はここで打ち止めですね。もし要望があればネタは有るんですけど、ご迷惑でしたらここで辞めておこうかなって思ったり。感想聞かせて頂けたら嬉しいです。
読んで頂いたみなさん。本当にありがとうございました。書いていて楽しかったです!