「今日、ご紹介するのはこちら!」
そう言い、顔に満面の笑みを浮かべ、友人が押入れを開けると、
「うっわ…」
私は対照的に、顔をしかめた。
何故なら、友人が開け放った押入れの中身が、古びた瓶、ボロボロに擦りきれた鞄、錆びた鍵など、独特の物でいっぱいだったからである。
「この間、これを拾ったんだけど」
と言い、その独特の物の中から、友人が出してきた物を見て、私は更に、顔をしかめた。
嬉々とした友人が持っていた物。
それは仏の像だった。
元は金色に光る、立派な像だったのか、当時の面影はなく、今は殆どが剥がれてしまっており、黒く変色していた。
「凄いでしょ!」
と、誇らしげな友人を前に、
「はぁ…」
と、私はこれからを思い、溜息しか出なかった。
時を遡ること、三時間前。
「急用出来たから、今日は佳子ちゃんの家にお泊まりね」
私のお泊まり用品を鞄に詰めながら、母が言った。
その当時住んでいた場所は、祖父母の家から遠い場所にあり、たまに親に急用が出来た時、私や兄は友達の家に泊まる事が、度々あった。
友達の家に泊まる事に、楽しみな気持ちと、少し寂しい気持ちがあった事を今でも覚えている。
何度目かのお泊まりだったので、
「分かったー」
と言い、私は友達の家に持っていく物を、鞄に詰め込んだ。
鞄を持ち、母と共に友人の家に着くと、
「いらっしゃい!」
と、元気な佳子ちゃんが、玄関前で待ち構えていた。
「ちょうど良かった!セラちゃんに見せたい物があったんだ!」
そう言い、私の手を引き、部屋へ向かおうとする佳子ちゃんと入れ違いに、
「いらっしゃい、セラちゃん」
と、佳子ちゃんのお母さんまで出迎えに来てくれた。
「お世話になります!」
ぐいぐいと、佳子ちゃんに手を引かれながらも、それだけ何とか言い、
「子供は元気ね」
と、笑い合う母と、佳子ちゃんのお母さんを背に残し、私は手を引かれるまま、佳子ちゃんの部屋へと向かった。
そして、時は戻り、私は佳子ちゃんが拾ったコレクションを見せられる羽目になった。
佳子ちゃんは昔から、何でも拾う癖があり、新しく拾った物があると、私に見せてきた。
面白い瓶を拾っただの、変わった形の鍵を拾ったと、何度も見せられてきたが、仏の像は今回が初めてだった。
珍しい物を拾い、喜ぶ佳子ちゃんを前に、
「確かに珍しいけど、仏の像拾って、大丈夫なの?」
と、聞いてみたが、
「落ちてたんだから、拾っても大丈夫でしょ!」
と、前向きな佳子ちゃんを前に、
「はぁ…」
と、溜息が漏れた。
「それにもっと凄いのが…」
そう言い、佳子ちゃんが仏の像の黒く変色した部分を、ガリッと爪で引っ掻いた。
「罰が当たるから、止めな!」
と言う、私を気にする事もなく、佳子ちゃんは像を掻き続けた。
すると、黒く変色していた部分が、ぺリッと剥がれ、下から金色の部分が出てきた。
「ほら!凄いでしょ!」
と、佳子ちゃんは誇らしげに見せてきた。
少しだけ近づいて、仏の像を見てみると、経年劣化した部分とは別に、何かが付いて劣化したような、少し膨らんだ部分があった。
「この膨らんだ部分を引っ掻くと、金が出てくるんだよ!」
と、佳子ちゃんは上機嫌だった。
上機嫌なまま、
「今日は、この仏の像を置いて、一緒に寝ようか!」
と言う、佳子ちゃんに、
「それだけはやめて!」
と、猛反対した。
何とか佳子ちゃんを説得し、仏の像は、押入れに仕舞ってもらったが、あんな像があると思っただけで、部屋の空気が重い気がし、私の気持ちは下がっていった。
「おやすみ」
そう言い布団に入ると、昼間に沢山遊んだ為か、すぐに眠気が襲ってきた。
橙色に灯る豆電球は、部屋を優しく照らしていた。
隣を見ると、穏やかな寝息をたて眠る、佳子ちゃんが居る。
そして、仏の像が仕舞われた、押入れが見えた。
「早く寝よう」
そう思い、私は押入れを見ないよう、頭まで布団を被った。
微かに聞こえる、規則正しい佳子ちゃんの寝息を聞いているうちに、私は睡魔に負け、眠ってしまった。
その日、不思議な夢を視た。
誰かが、愛しそうに何かを撫でている夢。
そして、どしゃ降りの雨の中、何かを探している夢。
その二つの夢を交互に視ていると、
「ん?」
突然、目が覚めた。
橙色の豆電球に照らされた、天井を暫く見つめる。
隣からは、相変わらず規則正しい佳子ちゃんの寝息が聞こえている。
ぐるりと部屋を見渡してみたが、部屋は寝る前と何も変わっていなかった。
「なんで、起きちゃったんだろ」
と思いながら、もう一度眠るため、瞼を閉じたが、何故か、なかなか眠れない。
「スー…スー…」
佳子ちゃんの寝息を聞きながら、どれくらい経った頃だろうか。
ふと、違和感に気づいた。
「スー…トン…スー…トン…」
佳子ちゃんの寝息に混じって、何かを叩くような音が聞こえた。
「やだな」
と思い、意識を逸らそうとしても、どうしても気になってしまう。
「扉の方から鳴ってる」
何処から鳴っているのか気づいてしまった瞬間、
「御免下さい」
と、声が聞こえた。
条件反射か、耳を抑え、ガバッと起きてしまった。
「やばい」
と思い、再び布団に潜ろうとしたが、
「トン…御免下さい…トン…御免下さい…」
と、扉を叩く音と、声は止みそうになかった。
「これだと眠れないな」
と思った時、
「はぁ…」
と溜息が漏れた。
扉の向こうにいる何かも、私が起きている事に気づいたのか、
「御免下さい…お返し下さい…御免下さい…お返し下さい…」
と、言い始めた。
「返す?何を?」
そう思った時、仏の像を思い出した。
寝ている佳子ちゃんを起こさないよう、静かに押入れを開けると、独特なコレクションの中央に、仏の像はいた。
勇気を出して、像を掴み、扉の前に置いた。
そして、急いで布団に戻り、頭まで布団を被る。
だけど、気になるので、布団の隙間から扉の様子を窺うと、聞こえていた声は止んでいた。
スッと、扉の引戸が横へスライドし、闇の中から、血に濡れた二本の腕が伸びてきた。
「やっと見つけた…ありがとうございます…」
と何かは言い、
仏の像を両手で包み、また闇の中へと消えていった。
安心した為か、すぐに睡魔が襲ってきて、私は眠ってしまった。
朝。
目を覚ますと、部屋は仏の像が無い事以外、寝る前と何も変わっていなかった。
「仏の像が無くなって、佳子ちゃんは悲しむだろう」
と思ったが、
「仏の像?そんなの拾ったけ?」
と、佳子ちゃんの記憶から、仏の像は消えていた。
「昨日、何かをセラちゃんに見せてた事は覚えてるんだけど、何を見せてたのか、思い出せない」
と、佳子ちゃんは暫く考えていたが、やっぱり思い出せないらしく、私も佳子ちゃんを悲しませない為に、夜中に起こった事も含め、その時は黙っていた。
暫く後になって、ふと思ったのだが、仏の像に付いていた、変色し膨らんでいた部分は、もしかしたら、血の跡だったのかもしれない。
そう思う度に、背筋が凍る。
作者セラ
明けましておめでとうございます!
本年も宜しくお願い致します!
拙い文章に、誤字、脱字が多いとは思いますが、ぼちぼち活動して参りますので、温かく見守ってくださると、嬉しいですm(__)m