ある日突然、僕は目覚めた。
場所は、、、たぶん自分の部屋だ。
なぜかひどく実感がない。動揺感と言うのだろうか、なんとなく落ち着かないのである。
ん?なんだ、落ち着かないのであるって。変な独り言。
頭がぼんやりしてうまく働かない。昨日何をしてたか、いつ寝たか、今日何するんだった?そもそも今日は何曜日だっけ、何月何日…
記憶喪失?
なんかそんな感じだな。
でも別に頭が痛いわけでもないし、むしろ身体の調子はよさそうだ。疲労感はほとんどない。
僕…いや、俺、か?
ほんとに何にも思い出せないや。はは。
まぁそのうち思い出すかな。大丈夫だいじょうぶ。
そういえばそんな性格だったような気もするなぁ。なんか生まれ変わった気分。ハッピーバースデー、新しい俺!
とまぁ冗談はさておき、今日は何月何日だ?
この部屋カレンダーなかったっけ。時計は、と…あー1月12日ね。おっけーおっけー。
土曜、仕事じゃない、よな。そうそう。確か土日は休みだ。
お、いいね、思い出してきたよ。
さてと、とりあえず、うーんお腹は空いてないな、とりあえず、ってとりあえず二回言った俺。
まぁ親に聞けばわかるかな。
ってそっか、ここ実家だわ。いいぞいいぞ。
リビングはっと。
あれ、誰もいない。でもご飯の用意はしてあるな。トイレかな。っておいおいよく見たらシチューかよ。しかも作りかけじゃん、朝から気合い入れすぎ。
まぁいっか、外でよ。天気もいいしね。
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んーいい天気だなー。
そんで土曜日なだけあって静かー。だーれもいないや。
ってほんとに誰もいねーな。こんなに誰もいないとこだったっけか?別にいいけど。
まぁ気にしない気にしない。散歩でも行こうか。たしかこっちに公園が、そうだったそうだった。
んーいい気分だ。たまにはこんな静かに過ごすのもいいなぁ。前にここに来たのは…えーっと…昨日…昨日か?
そうだそうそう、昨日の晩だわ。美希と喧嘩したんだった。
そっかそっか、そうだった。
俺が転勤になるって話をして、遠距離は嫌だの何で一人で決めるのとかそんなことだった。
まだ話の途中で拗ねて帰っちゃったんだっけ…
止めたんだけど美希が走り出しちゃって。
言いたいことまだあったのにな…そうだよ、最後まで話してないじゃん。
今からでも謝るか…
ってスマホ忘れてんじゃん俺。あーもう。帰ってから連絡するか。
それにしても静かだな。静かすぎる。
さっきから誰も来ない。土曜日だぞ?
さすがにおかしいだろ。うちに人がいなかったのも…
もしかして夢か?いや、それにしてはリアルだ…
バイ○ハザード的な?いやいやまさかな。
いやでも…
…
…
…
…
美希…
やばいやばい。そんなんシャレになんねーって。美希!いるよな、美希!
走れ、俺!
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…
あの角をまがって二個目のマンション…
もう少しだ
胸騒ぎがする。
嫌な予感しかしない。
頼む、無事でいてくれ、美希!
ん?
あれは…?
人だ、屋上に人がいる。
あの服、まさか…
美希?
嘘だろ?
ちょっと待てよ!違うよな?人違いだよな?
くそ!足がうごかねぇ!
いや誰でもダメだけど!違うよな?美希じゃないよな?飛ぶなよ?飛ぶなよ?やめてくれよ?頼むから!
あーーーーーーーーーーーーー!
…
…
あれ?音がしない。
っていうか、見間違いか?消えた…よな?
落ちる途中で、フッて…
…幽霊?
でもあれは、たしかに…美希…
いやいやいやいやいやいや、違うんだ!違うんだ!違ったんだ!違ったんだって!美希のこと考えてたからそう見えたんだって!
きっとそうだ。そうだよな?
足は、動く。とりあえず行くか。
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美希の部屋、702号室…呼んでみるか?
こえー、なんかこえー。
って、あれ?
ドア、開かない。自動ドア、壊れてんのか?
おーーーーーい
管理人…もいない…
いやおかしーだろ。さっきのとかはなしでさ、そうだよ、おかしーよ、なんなんだよ!
ほんとに、誰もいなくなったのか?
俺、だけ?
でもさっきのは?美希?違うよな?ヒュッて落ちてったから、よく見えなかったもん。見間違い!
それより誰もいないのは、なぜ?
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家だ。
美希のマンションから帰る時も、誰にも会わなかった。
どうしよう、マジで、一体何が…
っていって家に帰ったらおかえりーみたいなね、そんなオチは…
ただいまー
はい、シーーーーン。だよなー、そんな予感してたよ。
待てよ、あ、そうだテレビだ!そうだよそうだよ、何で気づかないんだ、テレビつければ…いやその前に美希だ。あれは美希じゃなかったはず…声が…聞きたい…
あれ?スマホがない?
いやマジでないぞ?
いつもスマホみながら寝るのに…
そうか、昨日落ち込んで帰ったんならコート脱いでそのままポケットに…ってコートもない!昨日着てたのは青のコート…だよな、いや、たぶん…あれ?じゃあ脱いでかけたか?
クローゼットの中は…ここも、ない…
ん?
うわぁ!
え?
見間違い…
え?
もう一回…
うわぁあぁあぁあぁあ!
嘘…だろ?
落ち着け、落ち着け、落ち着け、落ち着け!
朝は?そうだ、そのまま家出たな。
顔も洗ってねぇし歯も磨いてねぇ。
朝飯も食べてねぇし、水も飲んでねぇ。トイレも、行ってねぇ。
はは。
ははは。
あはははは…
マジかよ。
そうか。
そうだったのか。
消えたのは、
俺かよ。
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その日、美希はマンションから身を投げた。
雄二が死んだのだ。自分をかばって。
些細なことから喧嘩してしまった。
いつもの悪い癖で話の途中で怒ってしまって、飛び出した。
何も見えていなかった美希をトラックのヘッドライトが照らす。
ふいに衝撃が走り、美希は突き飛ばされた。
突き飛ばしたのはそう、最愛の人、雄二。
物言わぬ肉塊と化した男のそばには、青い箱。
そして中には美しく輝く指輪。
その日、美希はマンションから身を投げた。
死した後、最愛の人と結ばれることを信じて。
作者春秋
2作目でございます。
だらだら書いてしまった感があります…
ご感想のほど頂ければ幸いです。