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中編5
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誰もいない世界

ある日突然、僕は目覚めた。

場所は、、、たぶん自分の部屋だ。

なぜかひどく実感がない。動揺感と言うのだろうか、なんとなく落ち着かないのである。

ん?なんだ、落ち着かないのであるって。変な独り言。

頭がぼんやりしてうまく働かない。昨日何をしてたか、いつ寝たか、今日何するんだった?そもそも今日は何曜日だっけ、何月何日…

記憶喪失?

なんかそんな感じだな。

でも別に頭が痛いわけでもないし、むしろ身体の調子はよさそうだ。疲労感はほとんどない。

僕…いや、俺、か?

ほんとに何にも思い出せないや。はは。

まぁそのうち思い出すかな。大丈夫だいじょうぶ。

そういえばそんな性格だったような気もするなぁ。なんか生まれ変わった気分。ハッピーバースデー、新しい俺!

とまぁ冗談はさておき、今日は何月何日だ?

この部屋カレンダーなかったっけ。時計は、と…あー1月12日ね。おっけーおっけー。

土曜、仕事じゃない、よな。そうそう。確か土日は休みだ。

お、いいね、思い出してきたよ。

さてと、とりあえず、うーんお腹は空いてないな、とりあえず、ってとりあえず二回言った俺。

まぁ親に聞けばわかるかな。

ってそっか、ここ実家だわ。いいぞいいぞ。

リビングはっと。

あれ、誰もいない。でもご飯の用意はしてあるな。トイレかな。っておいおいよく見たらシチューかよ。しかも作りかけじゃん、朝から気合い入れすぎ。

まぁいっか、外でよ。天気もいいしね。

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んーいい天気だなー。

そんで土曜日なだけあって静かー。だーれもいないや。

ってほんとに誰もいねーな。こんなに誰もいないとこだったっけか?別にいいけど。

まぁ気にしない気にしない。散歩でも行こうか。たしかこっちに公園が、そうだったそうだった。

んーいい気分だ。たまにはこんな静かに過ごすのもいいなぁ。前にここに来たのは…えーっと…昨日…昨日か?

そうだそうそう、昨日の晩だわ。美希と喧嘩したんだった。

そっかそっか、そうだった。

俺が転勤になるって話をして、遠距離は嫌だの何で一人で決めるのとかそんなことだった。

まだ話の途中で拗ねて帰っちゃったんだっけ…

止めたんだけど美希が走り出しちゃって。

言いたいことまだあったのにな…そうだよ、最後まで話してないじゃん。

今からでも謝るか…

ってスマホ忘れてんじゃん俺。あーもう。帰ってから連絡するか。

それにしても静かだな。静かすぎる。

さっきから誰も来ない。土曜日だぞ?

さすがにおかしいだろ。うちに人がいなかったのも…

もしかして夢か?いや、それにしてはリアルだ…

バイ○ハザード的な?いやいやまさかな。

いやでも…

美希…

やばいやばい。そんなんシャレになんねーって。美希!いるよな、美希!

走れ、俺!

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あの角をまがって二個目のマンション…

もう少しだ

胸騒ぎがする。

嫌な予感しかしない。

頼む、無事でいてくれ、美希!

ん?

あれは…?

人だ、屋上に人がいる。

あの服、まさか…

美希?

嘘だろ?

ちょっと待てよ!違うよな?人違いだよな?

くそ!足がうごかねぇ!

いや誰でもダメだけど!違うよな?美希じゃないよな?飛ぶなよ?飛ぶなよ?やめてくれよ?頼むから!

あーーーーーーーーーーーーー!

あれ?音がしない。

っていうか、見間違いか?消えた…よな?

落ちる途中で、フッて…

…幽霊?

でもあれは、たしかに…美希…

いやいやいやいやいやいや、違うんだ!違うんだ!違ったんだ!違ったんだって!美希のこと考えてたからそう見えたんだって!

きっとそうだ。そうだよな?

足は、動く。とりあえず行くか。

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美希の部屋、702号室…呼んでみるか?

こえー、なんかこえー。

って、あれ?

ドア、開かない。自動ドア、壊れてんのか?

おーーーーーい

管理人…もいない…

いやおかしーだろ。さっきのとかはなしでさ、そうだよ、おかしーよ、なんなんだよ!

ほんとに、誰もいなくなったのか?

俺、だけ?

でもさっきのは?美希?違うよな?ヒュッて落ちてったから、よく見えなかったもん。見間違い!

それより誰もいないのは、なぜ?

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家だ。

美希のマンションから帰る時も、誰にも会わなかった。

どうしよう、マジで、一体何が…

っていって家に帰ったらおかえりーみたいなね、そんなオチは…

ただいまー

はい、シーーーーン。だよなー、そんな予感してたよ。

待てよ、あ、そうだテレビだ!そうだよそうだよ、何で気づかないんだ、テレビつければ…いやその前に美希だ。あれは美希じゃなかったはず…声が…聞きたい…

あれ?スマホがない?

いやマジでないぞ?

いつもスマホみながら寝るのに…

そうか、昨日落ち込んで帰ったんならコート脱いでそのままポケットに…ってコートもない!昨日着てたのは青のコート…だよな、いや、たぶん…あれ?じゃあ脱いでかけたか?

クローゼットの中は…ここも、ない…

ん?

うわぁ!

え?

見間違い…

え?

もう一回…

うわぁあぁあぁあぁあ!

嘘…だろ?

落ち着け、落ち着け、落ち着け、落ち着け!

朝は?そうだ、そのまま家出たな。

顔も洗ってねぇし歯も磨いてねぇ。

朝飯も食べてねぇし、水も飲んでねぇ。トイレも、行ってねぇ。

はは。

ははは。

あはははは…

マジかよ。

そうか。

そうだったのか。

消えたのは、

俺かよ。

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その日、美希はマンションから身を投げた。

雄二が死んだのだ。自分をかばって。

些細なことから喧嘩してしまった。

いつもの悪い癖で話の途中で怒ってしまって、飛び出した。

何も見えていなかった美希をトラックのヘッドライトが照らす。

ふいに衝撃が走り、美希は突き飛ばされた。

突き飛ばしたのはそう、最愛の人、雄二。

物言わぬ肉塊と化した男のそばには、青い箱。

そして中には美しく輝く指輪。

その日、美希はマンションから身を投げた。

死した後、最愛の人と結ばれることを信じて。

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