中編5
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僕のユキちゃん

「メイトはあなたの良きパートナーとなってくれることでしょう」

夕食時になんとなくつけていたテレビのニュースの合間にCMが流れている。

メイトは犬型のロボットの名前で、住宅事情でペットが飼えない、アレルギーがあってペットが飼えないなどの飼いたいが事情があって飼えない人のために開発された。

 メイトは何種類かの言葉を理解することができて、もちろん吠えることもなく、時には人間の話し相手になってくれるのだ。しかも人工毛も植毛されており、見た目はほとんど犬と変わりなく、一人暮らしのお年寄りが寂しさを紛らわすために購入することも少なくなく、防犯対策としてメイトを購入する人もいるのだ。

 メイトには、飼い主が留守中に侵入者があれば吠えるとともに、メイトを開発した会社の運営する警備会社に連絡が行き警備員がすぐに駆け付けるという機能が備わっており、メイトに危害を加えようとするとメイト自身がスタンガンの役割を果たす。メイトがかみつくと火花が散り、侵入者が感電するという仕組みになっている。

「なんか凄い時代になったね。でもやっぱり血の通ったペットが一番だよね。」

僕は夕飯を食べながら、両親に同意を求めた。

「そうね。ペットって言っても、所詮ロボットだものね。」

 つい最近、僕は家族を失った。ユキちゃんは僕の最愛の家族だった。ペットは家族も同然。長い間ずっと落ち込んでいたがようやく食事も喉通るようになったばかりだった。辛くて体重もかなり落ちた。でも、これ以上両親を心配させるわけにはいかない。ユキちゃんのことは忘れることはできないが、僕は徐々に自分の生活を取り戻すことを心掛けたのだ。

 ユキちゃんは真っ白な子で、とても可愛かった。ユキちゃんの突然の死に僕はショックを受けて何日も泣き続けた。ユキちゃんと離れるのが辛くて、両親に無理を言ってユキちゃんの死体は庭に埋めてもらった。ユキちゃんの小屋はガランとして不在を嫌が応でも僕に告げるもので、しばらくは小屋を見るのもつらかった。

 それを見かねたのか、僕の誕生日にサプライズがあった。

「えっ?どうしたの?なにこれ。かわいい。」

「ユキに似てるでしょう?」

「もしかして、僕の誕生日プレゼント?」

「そうよ。見つけるのに苦労したんだからね。」

「ありがとう!パパ、ママ!」

僕はその白く柔らかい小さな命を抱きしめた。最高の誕生日プレゼントだ。飼うからには、ずっと大切にしなくちゃね。もう前みたいに突然死ぬことがないように、健康には気を付けてあげなくては。今日から君は僕にとって大切な家族だもの。

 僕はユキちゃんのことはやはり忘れられないので、新しい家族にもユキと名付けた。ユキ、君のことは僕は決して忘れないよ。だから、この子にもユキちゃんと名付けて大切に育てていくつもりだ。ユキちゃんはとても大人しくて良い子だった。僕はユキちゃんを家族として愛していたし、ユキちゃんも僕を愛していてくれたはずだ。

 なのに、あの日、ユキちゃんは逃げてしまった。僕はショックだった。家族が居なくなってしまったのと同じだ。僕はあの日、ユキちゃんを必死に探したのだ。雪の降る夜だった。両親は止めたがかまわず僕は家を飛び出したのだ。こんな寒い日に外に居れば死んでしまう。必死に探し回った甲斐あってユキちゃんは見つかった。

「ユキ、探したんだよ?おいで。」

僕がそう声をかけると、ユキちゃんは何故か逃げてしまった。なんで?どうして?

あまりの寒さに僕はそこで気を失ってしまったようだ。

そして、気付いた時には、目の前にユキちゃんの変わり果てた姿があった。

ユキちゃんの両目は見開かれていて、首がおかしな方向に曲がっており口からは泡と血が混じった物を吐いていた。僕は何が起こったかわからずに、ただ気が動転してユキちゃんを抱いて泣いていた。誰がこんなひどいことを。絶対に許さない。後を追ってかけつけた両親が僕とユキちゃんを抱きかかえて車に乗せて家に連れて帰ってくれた。

 それから1週間ずっとユキちゃんに縋って泣いていたが、両親に説得されてようやくユキちゃんの死を受け入れて埋葬したのだ。

 新しいユキちゃんのために、今度は誤って出ていってしまわないように、頑丈な小屋を作ってもらった。前の小屋はパパが作ったものだからお粗末だったけど、今度はきちんと職人さんに作ってもらったのだ。ユキちゃんのために、冷暖房完備の快適な住まいにした。ペットとはいえ、やはり家族同然だもの。当たり前のことだ。

「どうしたの?ユキちゃん。食べないの?」

まだこの家に慣れてないのか、ユキちゃんは少し怯えているようだ。

「怖がらなくていいんだよ。僕の家族はみんな優しい人ばかりだからね。」

僕はユキちゃんが食べやすいように、しばらく小屋から出て様子を見ることにした。ユキちゃんに異変があればすぐにわかるように、ペット用のライブカメラをセットしてあるので、僕はいつでも外からユキちゃんの様子を見ることができる。ユキちゃんは、与えられた餌に近づくと恐る恐る食べ始めた。やった。食べてくれた。最初は小さかったユキちゃんも、最近では大分体重が増えて来たようだ。

 そして、今ではユキちゃんは少々肥満気味になってきた。最初は白くて小さくてかわいかったのに、だんだんと黒ずんできて醜く肥え太り、あまりかわいくなくなってきた。でもユキちゃんは僕の大切な家族なのだ。たとえ醜くなっても。

「ねえ、ユキちゃん、そろそろダイエットしようか。今日からちょっと量を減らすね。」

心苦しいが、僕はユキちゃんにそう言いながら、ダイエット食を与えようと小屋に餌を運んだ時だった。ユキちゃんは僕を睨んでこう言ったのだ。

「うるせえ。てめえこそ痩せろよ、デブ。」

酷い。酷いよ、ユキちゃん。今まで僕は一度だって君にそんな暴言を吐いたこともないし、君の為を思ってやっているんだよ?

ふざけるな。醜くなっても飼ってやってるのに。何様なんだ、お前。

僕の目の前が真っ赤になった。

僕がユキちゃんに飛び掛かろうとしたその瞬間、僕の首筋に衝撃が走った。

がるうううう!

え?犬?

僕の首に犬がかみついたとたんに、青い火花が散った。

一瞬悲しそうな目をした両親が後ろに立っていたのが見えたが、そこから意識を失った。

「ごめんね、祐一。もうパパとママはお前の面倒を見るには年を取りすぎた。お前も今年40だ。一度も働かずに家に引きこもってしまい、パパとママはお前の度重なる暴力に耐えてきた。お前の機嫌をとるために少女を攫ってきては与えたが、もう限界だ。」

両親は密かにメイトを購入し、改造して電気ショックをパワーアップした。

両親の合図とともに、メイトが祐一の喉元に噛みつくと祐一の体は弛緩して小便を漏らし始めた。

Concrete
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