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中編7
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テンダリンオジサン(前編)

それは本当に本当、最後の最後。

夏っぽいことといえばオカルトに関わることしかしてない俺たちは

9月の後半にしてやっと海へと向かった、3人で...。

ご想像の通り車内の空気は激重。

レンタカーを1時間も走らせれば、海へたどり着く

早く、早く着いてくれと、俺はアクセルを踏み込むのであった。

これは兄貴が死んでからの俺たち4人の話

スーパーでの買い出し中にNちゃんは「あっ!?」と気付いたように、俺を凝視しながら言うのだ

「今年まだ海いってない!!」

スーパーのBGMは、波乗りジョニーだ。

「泉いったじゃん?」

「海!!」

うん、これはもう「行こう」という返答以外、答えが通らないパターンのやつなので、俺は2人の予定を合わせ9月の後半に行こうかということになった。

その帰り道、公園を過ぎたあたりで、Cさんに会った。

「こんばんは、お買い物の帰りかな?」

尋ねる彼女は猫の散歩中らしい

「そうなんです」と上機嫌のNちゃんは海へ行くことを自慢したかったのだろう、Cさんに9月の予定言ってもいい?ねぇねぇいい?と聞いてくるのでどうぞと後押ししてあげると、エヘヘヘへと子供のように笑ってから喋り始める

「今度海連れてってもらうんです!」

「いいなぁ、私今年行ってないや。」

と言ったCさんにNちゃんは追い打ちをする

「そうなんですか?私も今年いってなかったから、焦って予定入れちゃいました!!」

ご満悦のNちゃんにいいなぁと凹んで見せるCさん、そこへさらに続けるNちゃん

「Cさんも行きますかー??」

あからさまに当てつけだ、それも急な予定だから、Cさんは来たかったとしても来れないだろうとタカをくくっている。

やめときゃいいのに、俺は思っていた通りのことが起きる

「えっ、いいの?予定は別に大丈夫なんだけど、せっかくの2人のデートじゃないの?」言わんこっちゃない。

Nちゃんはもう引き下がれなくなってしまっていたため、そのまま3人で海へと行くことになったという流れだ

Cさんのオススメで、俺達は何度か行ったことのあるビーチではなく、隠れ家的な人の少ない、そして綺麗なビーチへたどり着いた

へたしいプライベートビーチ(誰かの)なのではないのかと思わされるほど人は少なく、砂浜もゴミなど全然落ちていない

そしてCさんの知り合いがやっているという海の家がポツンと一つだけ砂浜にあるといったところだ。

波は多少強めで風もあるためサーフィン等をやるなら持ってこいの場所なんだろう、これには車内でへそを曲げていたNちゃんもご機嫌になり、早速海の家で浮き輪を膨らませていた

「ごめんね、本当についてきちゃって」

荷物を下ろしながら、Cさんは軽く謝ってくる。

「そんなん気にしてたんですか?」

俺は何のこととばかりに笑った。

「それにCさんを誘ったのはNちゃん。」

というと

「それを断ってあげない私も悪い女ね」少し笑ってくれた。

さあ思いっきり焼くぞ、Cさんは海の家へサンオイルを買いに行く

「Aくん背中に濡ってくれる?」

また人をガキ扱いしている

「喜んで」

最近あんまり俺が照れたりしないからその度に鼻の頭に少しだけしわを寄せて面白くなさそうに少し膨れる、

内心ドキドキしていることを悟られないようになっただけだ

俺は成長したのだ。

Nちゃんはというと海の家のおじちゃんに焼きそばだったり、フランクフルト、かき氷まで頼んでいる

「Aくんは日焼けしない派??」Cさんは強さがFPS0だかのサンオイルを手に、塗れるところは自分で塗っている、「俺はまぁそのうち...」Tシャツを脱ぐのをためらっていただけだった

俺の胸には、大きな傷痕があるのだ

心臓移植の後だ、「そっか...」と何となく空気を読んだCさんは背中の紐を緩めうつ伏せで寝っ転がって、「はいっ」とサンオイルを俺に差し出している、さすがにこれにはドキマギしている俺を、Cさんは下を向いてクックックッとあからさまに人をからかって楽しんでいる

塗らないとずっとバカにされるため、俺はその真っ白で透き通る雪のような背中に触れる

「こんな白いのに焼いて大丈夫なんですか??」

「平気平気、毎年バチバチ焼くのにすぐ白くなっちゃうんだ」

と笑う他の女の子からしたら、贅沢な悩みなんだろう。

Cさんは昔から夏は真っ黒、冬は真っ白らしい。ちょうどサンオイルを塗り終わったところ、Nちゃんがこちらへとやってきた、

さっきのを見られていたらと思うと気が気ではない。

俺に「Aくん、泳ぎ行こう!!」というので大丈夫なのだろうと思う。Tシャツを剥ぎ取られ、俺とNちゃんは泳いだりビーチバレーをしたり、砂の城を作ったりして遊び、Cさんは一日中焼き倒していた日長1日遊び倒し、夕日が沈む頃に俺達は海の家で夜食のバーベキューを食べ、そのまま主人と女将を交えて宴会の始まりとなった。

主人はもう他にお客は来ねえだろうし今夜お前さん達は帰らないんだろと店の奥からビールサーバーとガスタンクをちょいと持ち上げると俺たちの席へと持ってきて

「よし、これを開けるまで寝かせませんやろうか!!」

と言ってきた、あの某番組帰れまテン的なことだろう、俺達は、「イェーイ」と盛大に盛り上がった

ビールをちびちび飲みながら、主人はトイレは道路沿いの公衆トイレで申し訳ないんだけど、とみんなにトイレの場所とその時1人で夜中に行くのはあまりお勧めしないと付け加えた

どうやら見て分かるように人通りも少なく、海辺の周りは山に囲まれているので、野生の獣も人の出したゴミを食べに降りてきたりもするらしいのだ

トイレ行く時は何人かで行くこととなった、女将は少し飲んでからテキパキとテーブルの上をある程度片付けると

「私はそろそろ帰るけど、その人は寝かしといていいから、あんまり羽目外さないのよ」

と言うとニコニコしながら帰っていった

その人とは、主人のことだ、彼は酒に強いわけではないらしく、もう既にテーブルの横で丸くなるように寝ていた

Nちゃんもいってる間に撃沈しそうなのを見てからCさんを見るとビールサーバーを使いこなし、ビールジョッキに7:3の黄金比率で注いでいた

「A君のも入れようか?」とこちらを見ている

彼女はまだまだ飲めそうな雰囲気がひしひしと伝わる

「この辺ってテンダリンおじさんって呼ばれる危ないおじさんが出没するらしいよ」

相変わらずオカルト話しに花が咲く

3人で話していると怖い話ばかりしている俺たちだ

だがCさんのいうテンダリンおじさんなるものを俺は聞いたことがない

Nちゃんは目をトロンとさせつつ、Cさんを見る

「私が小さい頃さ、この辺に住んでたことがあって、そしてその小さい頃、それこそ小学校3年とか4年の頃に朝のテレビ番組、クレイアニメっていうのあのー粘土が動くアニメみたいなの?」

「はいはい、ありましたねそんなの」と懐かしむ

粘土の人形やキャラクターが少しずつ動かされ、連続撮影されて作られるアニメーションのことだ

朝の8時だか9時頃に放映されていたと思う。子供向けの教育番組

「それに出てくるステッキ持ってステップしてる腰の曲がったおじさんがいてね、そのおじさんがスキップしながらいつも歌ってるのテンダリンダ デンダリン テンダリン テンダリン ダ ドンッくるりんってね」

Cさんは少し眉をひそめ苦笑いと取れるような乾いた笑いを見せた、そして続ける、くるりんってとこでステッキ回すのこうやってと傘の柄を持って回すようにぐるりと回した、ステッキー、つかないのよどう見ても腰曲がってるからそれつくと思うじゃない?スキップするのよ」

そして、ビールジョッキをグイグイとあけて真顔になる、

「何が怖いってそのおじさん、アニメでは通りすがるだけのキャラクターなのに、この辺に出没するおじさん追っかけてきてステッキでバチバチ殴りつけてくるの」

とうとう笑い出した、Cさんが壊われたと思った時Nちゃんはもう眠りについていた、「N ちゃん風邪ひくよ」俺はTシャツの上から羽織っていたシャツをNちゃんの肩にかける、そしてまた7:3で入れているCさんに尋ねる「そのテンダリンおじさん、Cさんは見たことあるのですか?」

「なーい、なんか近くに住んでた子のお母さんが真夜中徘徊しているお年寄りだと思って話しかけたらそのまんま病院送りになったって地元のちょっとしたニュースになってたくらいだね

そこまで言って彼女は俺を分かり始めているらしい、注意してきた。

「今から探しにとか行かないからね。そんな得体の知れないおじさん...」ちょっと地雷を踏んだと思った時には遅かったとばかりにCさんため息をつく。

「俺ちょっとトイレ行きます」

ニコニコの俺の笑顔は、きっと100万ドルを超えている

「だーめ、まずここのビールを飲み干してから全部終わったら行かせてあげる。」

と強気に出てきた彼女は、まだまだ飲めるのであろう。

俺はそろそろきつい、そして案の定30分後に俺はCさんに潰されたのである。

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