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長編8
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夢魔の言い分

悪夢を見るのが怖いって?

そりゃあ、お前さん損しちまってるよ。

なぜかって?

そんなこともわからないのか、どうかしちまってるよ。

あんた、鳥がなぜ空を飛ぶと思う?

犬はなぜ吠える?猿も木から落ちれば、豚はなぜ木に上る?

わからないんだろ?

そう、あの神さんだってきっとそこに

わざわざ理由なんか作らなかったんだよ。

そう、男が女のケツばっか追いかけるように

女は幸せばかり追いかけるんだ。

あんたなんで光があるか分かるか?

そう、陳腐な話だ

闇があるから光があるのさ、わかってきたかい?

光だけの世界なんて想像してごらんよ

何がある?光だけだよ、そう言ったしね、ハハハ...

でもよく考えてみなよ、ずっと光ってるそんな世界

一年中クリスマスのイルミネーションをしまっていないお隣さんの家を想像してみなよ?あぁ鬱陶しい。

何より、年に1度のパーティー気分なんか味わえたもんじゃない、そうだろ?

今夜こそはと大切な性夜にしたいだろ?

おっと、失礼神さん、聖夜ね。

まあそういうことだ、毎日ステーキ、大いに結構、でもな、そうじゃないだろあんたは?

そりゃ俺だって毎晩いい夜を過ごして良い夢見せて、毎朝夢精しておきたいよ?

でもそれじゃ飽きちまうよ。

せっかくの光もステーキもセックスも慣れちまったらそれは苦痛でしかねぇ。

そうだろ?わかってくれたか、それなら俺も嬉しいってもんだ、話聞いてくれてありがとな

これから眠るんだろ?

任せとけって今とっておきの悪夢があるんだ、楽しんでいってくれよ

どんなのだって?

聞くまでもねーだろ、もう始まってるよ、そうあんたの人生だハハハハハ......

ばっと目が覚めた、夏も終わったというのに、なんて寝苦しさだ。

少し冷えてきたと感じていた夜なのに布団を足で無造作にはねのける。

この汗は暑くてかいたものなんではないと分かっていても、そうしてしまう。

そして、すぐに冷えた汗で体は寒さを訴えるのだが、なぜか少し意固地になり、布団をかぶらないで耐えている。

また少し夢で耳にした笑い声が頭をかすめていった

これは兄貴が死んでからの俺たち4人の話

目が覚めてしまった、それも完全に。

なにぶん寒さで余計に目が覚めるが、自分の中でワンクッション置きたい

水道の方を見て、俺は水を1杯飲むことにした

キッチンのシンクにはボロい廊下をぼんやり透かしている窓があり、俺の許可なんかいらんだろうとばかりに街灯の光を部屋に入れている

その、ほのかに入る光を見つめながらさっき見ていた夢を思い出す

そうそう、ちょうどあのあたり、俺は自分のベッドの真横の壁を見る、その壁をドカンと突き破り、顔と手が真っ黒な羊が上半身だけ飛び出してきて話し始めたのだった。

悪夢を見るのが怖いって?

俺とそいつは会話をしていないのに話は進み、最後はあれだもんな、そりゃあ壁から出てきただけで、最初はドキドキしたよ、しかも何故ヒツジ?しかも喋る。

手や口は人みたいに動かしていたし、あの悪魔みたいな目と角、なんだか俺は圧倒されてしまっていたのだと思う

そんなことを考えていたら、まぁ夢だろう。と少し落ち着いた

そして俺はベッドに座り、何かがきていることを知らせるライトの光っている携帯をチェックする

「フン...」と鼻息を小さくついたのは、寝返りを打ったファラオだろう

ラインが二通届いている、携帯のメイン画面には

「もう寝た?」

と文字が表示されていて、これは俺が寝る前にLINEをしていたNちゃんからのものだ。

彼女は俺が既読してからの時間を測るのが好きなのかというくらい、すぐに返さないと怒り出す

元々は三分以内に返さないと殺す。

みたいな子だったから今はかなり成長したと言える

既読がついてから5分は待ってくれるようになったのだ。

夜俺が寝てしまったらLINEが返ってこないことも分かるようになったし、仕事中も携帯ばっかいじってられないから返すのが遅れるんだよ、ということもわかってくれるようになった。

もちろんそれまでは想像を絶するような戦いの日々を俺は過ごし、今に至る。

Nちゃんは既読をつけてしまうと返さなくてはならないため、俺はメイン画面の通知の閉じるボタンを押す

その瞬間「ねー。」とだけlineが届き、俺はまた、閉じるボタンを押そうとして開きそうになる、焦ったのは言うまでもない。

とりあえずもう一件のLINEを確認したかったからだ

もう一通はCさんからだった

LINEのトップ画面では内容を全て把握することできないため、すぐに開いてみる、決してCさんからこんな時間にLINEが来てたからって喜んでいるわけではない。

時計の針はPM4時を指す

内容はシンプルだった、開くまでもなくLINEのトップ画面で見えている分だけの文章で

「起きてる?」という質問だ

まだ何かしらの期待を胸に秘めたままの俺はすぐに返信をする。

そのままベッドにゴロンと寝転がると同じくらいにCさんからLINEが来た。それから会話が始まる

「よかった、別にこれといって用はないんだけれど、なんだか眠れなくて」

「奇遇ですね、俺も今ちょうど目が覚めたところなんです」

「ごめんもしかして起こしちゃった😵?」

Cさんが珍しく絵文字を入れてきたので少しだけ嬉しくなった、そして軽口を叩く

「いえいえ、たまたま悪い夢を見ていて目が覚めちゃったんですよね、やっぱりCさんが横で寝ててくれなきゃ良い夢みれません❤」

ハートなんか付けてみたりして

送ってから、ちょっとふざけすぎたかなとか考えてしまう

こういう時の1分は10分にも1時間にでも感じる。

あー言わなきゃよかった、死にたい死にたい死にたい。

だっさ、俺死ねる。

なんてベッドの中で悶えているとピコンとLINEの通知が鳴る

飛びつき画面に食い付く。そして、

「うおぉっ!!」

と1人でよく分からない雄叫びをあげていた

「そんなこと言ってると寝に行っちゃうぞ😁私もこんなこと言ってたらNちゃんに怒られちゃうよ、悪い夢ってどんなの見てたの?」

まんざらでもない!?Cさん、その反応はまんざらでもない感じですよ!!俺は悪夢のことなんか忘れちまってるが、会話が続かないので

「来てくださいよ、俺1人で怯えてるのに放っておくんですか?あぁ可哀想俺。自分の部屋にいたら夢魔に話しかけられる夢です」

と返す、すぐに携帯はピコーンと鳴ってみせる

ニヤニヤの俺は画面を見て一瞬固まる

「何してるの?」

NちゃんからLINEが入ってきていた

うーん、今夜は眠れないのかな?Nちゃんのことを考えているとCさんからLINEがくる

開ボタンを押した瞬間にまたNちゃんから

「何してるの?」と入ってきたのを開いてしまった

「フフフフ...」どうやら眠れないのはファラオもみたいだ。

また寝返りを打って鼻息を漏らしている

「ごめんごめん、寝てたよ、どうした?眠れないの??」

Nちゃんに返すとすぐに既読になった、これは俺のLINE画面開きっぱなしのやつだなとわかる

本当に不安になってる夜なのだな、これは答えを間違うと大惨事は免れない。

気をつけなくてはいけない

「ほんとだよ、なんなら怖い夢見て目覚めた所」

追加のlineをしておいた、やっぱり送ったと同時に既読はつく。

そしてまたピコーンと鳴った携帯はCさんからのLINEだった

「やっぱ寝たかな?ごめんね。こんな時間に...」

トップ画面はここまでしか表示されていなかった、俺はそんなことないと開こうとしたが、順番が入れ替わった瞬間、一番上に出たNちゃんからの新しいLINEを開いた。

「shit!!」なぜか外人風に吠えてからNちゃんのLINEを見る

「私にはLINE返さないからなんでかなって思って。それってどんな夢?」

背筋が凍りついた、これはもうあれだろう、女の勘というやつだろう、こと男女の色恋沙汰に関して百発百中の女の勘だろう。

今はNちゃんに返してしまうとCさんに返せなくなってしまうCさんとの憩いのひとときが、LINEを通しての二人の睦言が情事が…俺は諦めない。

相変わらずの無駄な対抗意識で立ち向かう、するとまた携帯は鳴るピコンッ

「そっち開かないでよ」

とっさに携帯落とす。そして部屋を見渡す、ここまでタイミングがいいとどこからか見ているのかと思ってしまう。

部屋の暗闇にはNちゃんの姿はない

「フフフハハハハハハ」

乾いた耳障りな笑い声がした。

確かに聞こえた、全身の毛は逆立ちゾワッと背筋を何かが舐める、ファラオの小屋の中からだ...

俺は小屋に近づいて、やたらでかいその黒い影を見て後ろへ飛びのいた、そこにはファラオの代わりにあの夢魔がいた

そして、笑いながら俺の後ろを指差す

「ほら、そこ...ハハハハハハ」

俺は振り返りたくなかった、振り返るしかなかった、そこはベッドの死角、大きな革張りのソファーがある、ベッドからは、その背もたれのとこしか見えないのだ。

Nちゃんは寝っ転がって携帯を眺めながらこちらを睨んでいた。

俺は再び今度はファラオの小屋の方へ飛びのき、腰と頭をガンッと打ち付けた。

「ほら、楽しいだろう」と言わんばかりに乾いた笑い声は響き続けた

俺は顔と腰を強く打ち付けて目が覚めた、でかい音にびっくりしたのか、ベッドから落ちた俺を小屋の扉の所に前のめりになって首を傾げているファラオと目が合う

「やっぱ可愛いお前じゃないと嫌だな俺...」

ファラオは何のことだか。と言わんばかりにくるっと回って定位置に戻り、フンッと鼻息をつきながら眠りについた

「大丈夫?」寝ぼけながらNちゃんはベッドの下を覗く

「大丈夫、ごめん...怖い夢を見てた...」

俺は携帯の新着通知2件の文字を無視してまたベッドに戻ったのであった

今回は陳腐な夢落ちで申し訳ない、だが、人生とは無慈悲なものだ、貴方もこんな経験があるのではないかな?

俺は今までモテたことなんかない、それでもこうして男の本能が今や遅しと自分の中での可能性を新たな一面を、その扉を開けたがっているのだ。

この夢魔の言っていたように最高の悪夢という名の人生を楽しまなきゃ損なのかもしれない

全ての男性諸君。

今夜はあなたにこの夢魔が訪ねて来ないように懸命に今日という日を過ごすことをオススメする次第である

Concrete
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@夜行列車
ありがとうございます!!
テンポよくて僕もこれは気に入っています🎶笑

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最初の夢魔の語りが落語みたいで素敵!

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