中編5
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呪われた和菓子

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京都府の某所に、江戸時代から100年以上も続くという老舗の和菓子屋があった。

売られている和菓子の味はもちろんのこと、店を受け継いだばかりの店主の若女将の明るいキャラクターも大変人気があり、口コミやネットで話題になったことで、地方からわざわざその和菓子を目当てに来る客も少なくなかった。

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その和菓子屋で最も人気があった商品が、ひな祭りでお馴染みのお雛様をはじめ、将軍様、侍、はては現代のビジネスマン、動物などを象った「人形菓子」であった。

極力着色料などを使わず、砂糖や餡など昔ながらの伝統的な素材だけで作られ、見た目も可愛らしく、味も美味しいとありお店の看板商品であった。

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また若女将はお店を受け継ぐやいなや、自分の代からの画期的な試みとして、それまで職人により作られていた和菓子の製法を細かく分析し、機械による大量生産を可能にした。

それにより、かつて人力でやっていた時とは違い、どれだけたくさんの注文があってもすぐに対応することができるようになった。

海外からも注文が来たり、著名人からも好まれるなど、まさにお店は順風満帆そのものだった。

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ある日、女将は遠方のお得意様に挨拶周りを終わらせた帰り道、車で夜の山道を走っていた。

その時だった。

山道を突如、人影が飛び出してきた。

「ひいっ!!!」

急ブレーキをかけたが間に合わず、人影を車ではねてしまい、人影は衝撃で山道を落ちていった。

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「どうしよう・・・自主すべきかしら・・・」

女将は車を止めて、少し考えた。

「いや、まって?

 私たちの店は、江戸時代から続いてきた長い歴史のある店なのよ。

 こんなところで全てを失うの?冗談じゃない。

 大体、こんな危ない道を人間が歩いてくるほうが悪いんじゃない。

 逃げなきゃ・・・この事実を闇に葬ってやる!」

魔が刺した女将は、そのまま現場から逃走してしまった。

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しばらくして、たまたま通りがかった登山者によって遺体が発見されたが、遺体は衝撃のあまりバラバラになっていた上、発見が遅くなったため遺体の腐敗が激しく身元の特定が出来ず、身元不明の無縁仏として埋葬された。

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人里知れない山奥で起こった事故であったため、遺体の発見が極めて遅れたことや、女将が入念に考えられる現場やその時利用した車の証拠を隠滅したことで、この事件は女将の思惑通り、闇に葬られることになってしまった。

だが、その日からしばらくして、妙なことが起こるようになった。

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「お、女将さん、ちょっと来てください!機械の調子が今朝からおかしいんです!」

お店に和菓子の製造工場からの急な電話があった。

「なに、機械の調子が悪いだけでしょ。それがどうしたのよ」

「それが、ただの故障じゃないんです!」

従業員のただならぬ様子に、急いで女将は工場へ向かった。

「今日、普段どおり機械を動かしていたら、出てきたものがこれです」

「なに、これ・・・」

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機械から出てきた人形菓子が、異様な崩れ方をしていたのだ。

「これ、首だけがちぎれてるわ・・・」

「こっちは手足がバラバラじゃないか!」

「これはお菓子の欠片が、まるで血痕みたいにこびりついてるぞ!」

「これじゃあまるで・・・」

「バラバラ死体、だな」

「はっきり言うなよ!それにしか見えてこないぞ!」

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「縁起でもない!早く修理業者を呼びなさい!」

「もうすでに手配してますよ。まもなく到着するはずです」

しばらくして修理業者が到着し、機械を調べ始めた。

1時間ほど立って、事務所に業者が戻ってきた。

「原因はなんだったんですか?」

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「いえ、それが・・・」

「?」

「私もかれこれ長くやっていますが、こんなことは初めてで…

機器はどこにも異常は見られないんです。」

女将と従業員は唖然とした。

それでは、あの和菓子に起きている奇怪な現象はなんなのだ。

女将は激怒して、業者を帰らせた。

どうせいい加減な仕事をしたのだろう、と完全に責任を押し付けた。

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それから、女将や従業員たちは代わる代わる全国の業者を呼び寄せて、この機器の異常の原因を解明し、修理を試みようとした。しかし、どの業者も口を揃えて、機械には全く異常は見受けられず、原因が全くわからないと言うのだ。

女将と従業員たちは、ただただ困惑するしかなかった。

「ねえ、女将さん」

「何?」

「これって、呪いってやつじゃないのか…御払いとかした方がいいんじゃ・・・」

「バカなこと言わないで!この現代社会に呪いなんてあるわけないじゃない!」

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だが、女将は内心では焦っていた。

もし本当に呪いだとしたら、間違いなく私が跳ねてしまったあの人影のものだろう。

御払いでもし霊が呼び出されたら、自分の罪が暴かれることになりかねない。

そうなれば、文字通り一環の終わりだ。そんなことは許されない。

しかし、機械の調子は一向に回復しなかった。

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そして、そんな状況でお店に影響がないはずはなかった。

看板商品の人形菓子が作れなくなることで、他の商品で営業はどうにか続けたものの、客足は遠のいていった。

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そして従業員も次々と身体を壊し入院したり、ストレスで自らやめるものが続出していった。

「女将さん、とてもこんな状況ではお店は続けられない。

 残念だけど、店を畳むしかないよ」

「悔しいけど、そうするしかないわね・・・」

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こうして、日本を代表する老舗の菓子店がひとつ、その歴史に幕を降ろすことになった。

店を閉めたあと、女将は良心の呵責にさいなまれ、警察に自首した。

女将を慕っていた従業員たちは、あまりのショックに放心状態であった。

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しかし、お店を閉めたあと、かつて人形菓子のリピーターだった顧客から、なんとかあの人形菓子を復刻させてほしいという声が多く上がった。

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そこで残った従業員たちは、なんとか人形菓子を復活させるため、女将が残していった機械の技術を解析し、機械を再度作り直すことが出来、京都を離れて福岡や東京など、別の地域で新しいお店を開店させることに 成功した。

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復活した人形菓子は大好評で、それぞれのお店でたちまち前のお店とほとんど変わらない人気を誇るお店へと成長した。

以前のようなトラブルもなく、経営も順調であった。

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それからしばらくして、女将が獄中で病死したとの報があった。

病気の詳細はわからず、その表情は恐怖にひきつった、恐ろしい形相であったという。

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ある日のことだ。

「クレームがきているだと?内容は?」

「宅配注文の商品が届いたお客様からなのですが・・・」

「対応する、変わってくれ」

「中で商品が崩れてるぞ!運び方が悪かったんじゃないのか!」

「そう言われましても、生産の際にしっかりチェックをしてから配送しておりますし、運送会社も信頼がおける会社を通して手配しておりますので・・・ちなみに、どんな状態なのですか?」

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「人形菓子の手足のパーツが崩れてバラバラになってるんだよ・・・まるでバラバラ死体だ・・・」

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