友人のAが死んだ。
その前日、私はAと会っていた。
彼は私に言った。
「ヒルダルコって知ってるか?」
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Aの夢の中にバケモノがでたという。
不気味な四足獣。錆びた釘に似た硬質の毛に覆われた全身。
顔には目がないのだが、七つの巨大な目玉が硬質の毛の合間からギラギラと覗いている。
Aを見ている。
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Aは、そのバケモノに近づいていく。
すると大勢の人の声が、バケモノの目玉から聞こえてくる。
声はやがて一つの言葉を連呼しだす。
ヒルダルコ、ヒルダルコ、ヒルダルコ―――!
そして目が覚めたという。
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ところで、Aの部屋には水槽があるのだが、その中に、まったく見覚えのない宇宙飛行士の人形が沈んでいたという。
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Aの死因は心不全。
彼の話していたヒルダルコとは何だろうか。
調べてみたが、少なくともネットでヒットする記事は一件もなかった。
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数日後、友人のBが死んだ。
その前日、Bから電話がかかってきた。
彼は私に言った。
「ヒルダルコって知ってるか?」
「バケモノの目玉から聞こえてきたのか? 夢の中で」
「お前も同じ夢を見たのか?」
「いやAから聞いたんだ」
「そうかお前もか。お前もAから聞いたのか」
「何なんだヒルダルコって」
「さあな。ところで……風呂の中に宇宙飛行士の人形が沈んでいるんだ」
そして電話は突然切れた。
Bの死因も心不全……。
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それから数日後、とうとう私もバケモノの夢を見た。
Aの夢と同じだった。
錆びた釘に似た硬質の毛の合間から、七つの巨大な目玉が連呼している。
ヒルダルコ、ヒルダルコ、ヒルダルコ―――!
そして目が覚めた。
喉がカラカラだった。
水を飲みたい、水を飲みたい、水を飲みたい―――!
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私は飲みかけのマグカップを手にとった。
その中に、まったく見覚えのない宇宙飛行士の人形が沈んでいる……。
作者わたる
読んだ後にじわじわっと恐怖を感じるスタイルのショートストーリーを目指して書いてみました。
いかがでしたでしょうか。
楽しんでいただけましたら幸いです。