私の勤める職場には、聖羅と美樹というとても仲の良い事務員の同期二人組がいました。
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田舎から上京し、それぞれアパートを借りて過ごしていた二人は、境遇が似ていたせいか会社ではもちろんのこと、アフターファイブもほとんど毎日一緒で、姉妹のように仲がよかったのです。
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その日は、休日の前日であることもあり、2人は一旦帰宅後ドレスアップをして、前々から予約をしていた、有名なイタリアン料理のお店に行く約束をしていたのです。
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聖羅は一人っ子で、高校を卒業後直ぐに両親から離れ、都会で一人暮らしをしたため、アパートに帰ってもホームシックにかかるばかりでした。
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そんな時いつも一緒にいてくれる2つ年上の美樹はとてもありがたい存在でした。
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アパートに帰ってすぐに着替えてドレスアップをし、家を出ようとすると携帯電話が鳴りました。
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電話に出ると、相手は美樹でした。
「もしもし」
「・・・・」
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「もしもし?」
「・・・わたし、美樹。今日は急な用事が出来て行けなくなったの、本当にごめん、今度うめ合せするから。」
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美樹との約束がなくなり、もの凄くがっかりした聖羅は、今晩の予約キャンセルをして直ぐに着替え、仕方がないのでコンビニに夕食を買いに行きました。
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ちょうど聖羅のアパートと美樹のアパートの中間にあるコンビニに着くと、何台ものパトカーや救急車が所かまわず止まり、とても騒がしい状態でした。
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お弁当を急いで買い、レジで料金をおうとすると、どうやら交通事故があったようで、被害者は大型トラックに撒き込まれ、引きずられて酷い状態で亡くなったようだと、店員さんから聞かされました。
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次の日会社で、その事故の被害者が美樹だったということを聖羅は初めて知ります。
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1ヶ月経っても、聖羅はまったく立ち直れませんでした。
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あんなに明るく元気だった聖羅は、ほとんど喋らなくなり、会社も度々休むようになりました。
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その日も聖羅は、有休を取りひとりで寝ていました。
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お昼の13時頃、「ドンドン、ドンドン」とドアを叩く音が鳴り聖羅は起きました。
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家には聖羅1人、誰とも話したくないので無視していましたが、しつこく「ドンドン」とドアが叩かれ続けます。
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仕方なく玄関先まで静かに移動し、中にいることを知られないように、そっとドアの覗き穴を見てみると、
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映っていたのは真っ赤なフードをかぶった背の小さい人のようで、しかも必要以上にドアに近づき覗き穴をうかがってるように見えたのです。
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聖羅は「だれ?」と尋ねましたが返事はありません。
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ドア越しから聞こえてくるのは、まるで喉に痰でも絡んだような息の音と、かすかに聞こえた。
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「わた…し、だょ…、あ…け…」
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さすがに気味が悪かったので、警察に連絡しようと思ったその時、
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ふと気付いてしまったのです。
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ソレには何故か両腕がありませんでした。
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覗き穴に右目をくっ付けたまま、まったく強張って動けなくなってしまった聖羅は、
さらに目を見開きました。
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なんとフードだと思っていたものは、顎から上がどばっとひしゃげ、血みどろになった頭だったのです。
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見るとソレは、家の中に入ろうと、ドアの取っ手を何度も回そうとしています。
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「ガチャガチャ!ガチャ!」
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どうしていいか分からずパニックになった聖羅はその場にうずくまり、気がついた時には床に倒れていました。
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意識を失っていたのでしょうか。
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部屋の中や玄関先まで見回しましたが、もうソレはいませんでした。
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その時になって、ようやく聖羅は気づきました。
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ソレが着ていた服は、事故当日の美樹とまったく同じだったことを。
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そして、今、この部屋の中に美樹の大好きだった香水の香りが、かすかに匂うことも…
作者NIGHTMARE
仲良し同級生(改)