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90年代の頃、あるデパートに勤めていたSさん(男性)から聞いた話です。
そのデパートでは「物置き女」という迷惑な客がたびたび出没していました。
その女は何か一品だけ購入すると隣接する立体駐車場に向かい、その品を適当に置いて帰ってしまうのです。
そのような行為をする理由は不明ですがどうやら精神病の一種のようでした。
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さらに「引き摺り女」という別の女も出没するようになりました。
この女はデパートで買物することもなく、駐車場にのみ出没し、ビニールの紐で繋いだ何かを引き摺ってさまよい歩くという完全キチ○イ。
引き摺っている物は動物のぬいぐるみだったり、食用の生肉だったり。
当然、客からの苦情もあって、Sさん達は対策をとることになりました。
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しかし、監視カメラで「引き摺り女」が出没したことを確認して警備員が現場に駆けつけても、「引き摺り女」は必ずいなくなっているのでした。
監視カメラの映像では、あるコマまでは「引き摺り女」が映っていて、その次のコマで突然消え、さらに数秒後のコマで警備員が駆けつけてくるのでした。
何かが引き摺られた痕跡だけが残されている……。
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Sさん達が調査を進めた結果、不気味な事実が分かりました。
というのは、「物置き女」が過去に駐車場に置いていった品と同じ物を、「引き摺り女」は引き摺っているらしいのです。
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結局、「引き摺り女」は出没しなくなりました。
「物置き女」が駐車場で車に引き摺られて死ぬという事故が起きてから出没しなくなったのだそうです。
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Sさんが語るには、
『世の中には理解しがたいことなんて無数にある。
肝心なのは、具体的に語れることだけがぼくら人間の現実で、その前後で不可解な現象が起きていたとしても、それはこの世のノイズのようなものでしかないんだと思う』
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『だから「引き摺り女」が何者だったのかなんてどうでもいい。
「物置き女」という精神病の女が事故で死んだことだけが人間にとっての現実なんだ。
そう考えないと心やられちゃうよ』
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『いちいち気にしちゃダメなことなんてこの世にはたくさんある。
「引き摺り女」の件だけじゃなくて、もっと、もっと他にもたくさん……』
とのことでした。
作者わたる
さっくり読めて想像の余地を楽しめるショートホラーを目指して書きました。
霊的現象、異常現象についてどのくらい具体的に描くべきか。
展開や解決、説明をどの深度まで作者が介入して描くべきか。
それらはとても難しいところではありますが、本作は、
「実際に人から聞く怖い話のリアルさ、生々しさ」をヒントにして描きました。
楽しんでいただけましたら幸いです。