この頃、年をとったせいか歩くのがすごく苦になってきた。
昔取った杵柄でバイクにでも乗るかと思い、何に乗るかを考えてみた。
そう言えば、日本には世界に誇るホンダのスーパーカブがあるではないか、
生誕60周年で、全世界で1億台も売り上げたモンスターマシンだ。
どうせ乗るなら、「スーパーカブだ!」と思い、早速バイク屋にいってみた。
なんと、最近のカブは「カッコいい!」
実に洗練されている、新聞屋さんや郵便局、蕎麦屋の出前を想像していたが
完璧に裏切られた、もちろん良い意味でだ。
特に、クロスカブには絶句した。
「欲しい、これがいい!」と思ったが、乗り出しで32万円…、直ぐにあきらめた。
そそくさ帰ろうとすると、バイク屋の主人が声をかけてきた。
「こんにちは、お客さん、何探してるの?」
「カブです、クロスカブ凄くいいですね~、でも高くて手が出ませんよ」
「かなりの人気車種だからね、割賦もできますよ」
「いえいえ、久しぶりのバイクなので、慣れるまで中古で我慢します」
たわいもない話をして、新車はあきらめて帰ろうとした、
「お客さん中古でいいのなら、下取りのカブがあるよ、見てみます?」
「えっ、それは助かります~見せてもらえますか?」
「どうぞ~」
店の奥へと案内された。
別棟のへと続くドアを抜けると、そこにはバイクが30台ほど並んだ倉庫があった。
どのバイクも中古なのか、整備されて綺麗ではあるがどう見ても新車ではない。
中には、ブルーシートをかぶった整備前のバイクもあった。
バイク自体に損傷はないし、ほぼ完ぺきに修理されているようだ、
しかし、完全に事故車だと分かるバイクも数台あった。
なぜなら、それらのバイクの隣には、それぞれ以前の所有者が寄り添っているからだ。
大型Harleyの隣には、全身がブラックの革ずくめで、革ジャンの胸部が引き裂かれ、
肋骨が2本飛び出している男が、
真っ赤なGSの脇には、赤と黒のつなぎを着た男が、右手にヘルメットを抱え込み
失ってしまったらしき左手首をなぜかヘルメットに差し込み、
左腕でおさえ切断面をくっつけようとしている。
白いスクーターの脇には、かろうじて数本の血管のようなものでぶら下がった左目を
ぶらぶらさせて、激しく貧乏ゆすりをしている男がいた。
そんなバイカーたちに気づかないふりをして中へ進むと、一台のカブに目が止まった。
そのカブだけが、他のバイクにはない独特の雰囲気を醸し出している。
理由は明白だった、他のバイクのバイカーたちとは違って、そのカブの脇には、
紺の制服を着た清楚な女子高生が立っているからだ。
どこをどう見ても事故った形跡が見当たらない。
それどころか、小首を傾げ、笑みまで浮かべて嬉しそうに立っている。
どう考えても、この場所にはとても似合わない存在だ。
彼女が隣に立っているだけで、所有していただろう何てことはないカブすら素敵に見える。
俺は思わずバイク屋の主人に聞いていた。
「すみません、これも売り物ですか?」
「それなら、込々8万円でいいよ!」
彼女に一目惚れなのか、そのスーパーカブを衝動買いしてしまった。
そして、その女子高生とスーパーカブとの出会いから、この先、世にもおぞましい恐怖体験をすることになるのだった。
作者NIGHTMARE