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中編3
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実話: 雪から覗く女の手

これはおじいちゃんが生前体験した話をおじいちゃんの息子である父や叔父さん方から聞いた話です。

私の父の実家は熊本県八代市の坂本村。お盆や正月には、親戚の多くがこの山間の小さな村の実家に集まります。坂本村の名の如く、村には一本の坂があり、父の実家もその坂のすぐ横にあります。

築百年は立っている日本家屋で、何十年も前九州に大型の台風が来た時傾いたため、倒して新しい家を建てようとしたそうですが、柱に縄をくくりつけ多くの人で引っ張ってもなかなか倒れずそのまま傾いたままという家です。

染みだらけの畳に、手入れの行き届いていないかさかさした木の縁側、ガラス戸などなく、雨戸と障子しかないため、隙間風がすごく、夏などには電球に羽虫が集い、宴会中の醤油皿などに容赦なく落ちてきます。

居間の障子を開けると、小さな庭があり、そのすぐ向こうには坂道が走っています。坂道の向こうには、青々とした田圃、そしてまた山があります。山と山の間、そう広くはない谷間に、田圃を開き、家を建て、よくこんなところに住もうと思ったなと思う場所です。どの家も坂に面して、へばりつく様に建っており、石垣などの上に築かれているため、坂から見ると少し見上げる様な形となります。

そんな父の実家はそれでもどこか懐かしく、とても居心地の良いところです。そして、そんな実家に行事の際には親族一同が集まり、叔父さんや叔母さん達が楽しそうに話ているのを聞くは子供心にとても好きな時間でした。お酒が進み、父や叔父達の顔が赤らみはじめると、決まって今は亡き祖父、父や叔父さん達のお父さんの話になります。(父は4人兄弟と1人の妹を持つ大家族で育ちました)

祖父は大変、怖い話や不思議な話の類が好きだったようで、自身も色々なことを経験したそうです。

田圃の畦道を歩いていたら、綺麗な着物を着た女性が向こうから手招きしている。叔父は、さっと彼女の袖をめくると毛むくじゃら、狸に違いないとぶん殴って逃げた話や、母を亡くした幼子を預かった際、幼子の横で寝ていると、天井に大量の火の玉。「どうして息子ばおいていったか!」と箒で外に追い出した話など、どれも可笑しな話ばかりです。

父や叔父さん達から聞く祖父の話はどれも、不思議なだけでなく、人間味のある温かな話が多いのですが、その中でも印象的だった話があります。

それはある大晦日のこと。坂本村は山深いということもあるのでしょうが、昔は結構雪が積もったそうで、その日は大変積もっていたそうです。家は坂道のすぐ横に小さな庭を隔てて立っているために、道を通る人にすぐ気づきます。

ざくざくざく。祖父が覗いて見ると、隣家に手伝いに来ている娘が歩いています。聞くと手伝いを終え、坂を登り山を越え実家に帰るとのこと。今日はもう遅いし、雪もだいぶ積もっているから、隣家に一泊し、明日帰ったらどうかと言ったそうですが、なるだけ早く家族のとろろに帰ってやりたいと、そのまま坂を登っていったそうです。

次の日の朝、娘の家の者が来て、娘がまだ帰って来ない、知らないか、寄っていないかと聞くので、これこれこういう訳だと話し、村の人達で探すことになったそうです。

正月の朝、村を走る坂道には昨日の娘のものか、雪の上に薄っすらと足跡が残っている。坂を登る足跡を追ってゆくと、その足跡に沿う様に小さな獣の足跡も残っていることに気づきます。そして、その2つの足跡はあらぬ方向に、道を外れ、雪深い山の方へ進んでゆきます。そこで娘は雪にはまり死んでいたそうです。

雪からのぞく娘の死体、家族への土産だったのかその周りには林檎やみかんが散らばり、またそれを取り囲む様にして無数の獣の足跡が残っていたそうです。

祖父は獣に化かされたと言っていたそうです。無残な死に様ですが、どこか幻想的で美しい印象を覚えています。

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