当時、僕は20歳、専門学校を卒業し、ひとり暮らしをしながら普通の会社員として働いていた。
パチンコが好きでよく一人で家の近くのパチンコ店に通いつめていた。
仕事が終わった後や、休みの日など、暇さえあれば打ちに行っていた。
当時一番好きだったのがAKB48のパチンコ。
負ける日もあれば勝つ日もあり、貧乏ながら細々とギャンブル生活をしていた。
そんなある日
「AKB好きなんですか?よく会いますね!」
隣の女性に唐突に声をかけられた。
その女性は、こう言っちゃあれだが、いわゆる腐女子というか、見た目も……って感じで、正直言うとデブスだった。
座席から尻の肉がはみ出してしまう程の体型。
集中していたため気付かなかったが、AKBのパチンコが8台ある中、その女と僕だけが隣り同士で座っている状態だった。
うわー……。と思いながらも、
「え?あ、はい笑 好きというか、AKBのパチンコが好きなもので……。」
20代くらいだろうか、ニタニタ笑っているのが、気持ち悪いというより不気味だった。
女はというと、私の推しメンはこの子で、この子は研究生の時から……、お兄さんのような人と一緒に打てるのが嬉しいなどと一方的に話しかけてきて、正直迷惑をしていた。
ちょうど止めようと思っていたため、席を立つと、
「止めるんですか?もう少しで当たりますよ?
一緒に付き合います♡」撫で声で意味不明な事を言ってきた。
お金がないので、と逃げようとすると、
「貸しますよ!今度ご飯でも奢ってくれれば返さなくてもいいですし!」と。
いよいよ怖くなって、結構ですと振り切り、逃げるようにして店から出た。
それからして仕事が忙しい日が続き、1ヶ月ぶりぐらいにそのパチンコ店で打っていた。
もう女の事など忘れていて、その日は休日でもあり、AKB8台は全て埋まっている状態だった。
1時間ほど打っていると、ふと気づいた。
その瞬間、サーッと血の気が引いた。
画面越しに反射で後ろが見えるのだが、例の女が自分の後ろに立っているのが分かった。
表情は満面の笑み。画面越しに僕を見つめているようだった。
僕は硬直しながら、気づかない振りをしてただ画面を見て前を向いていた。
少しして、隣りのおじさんが後ろをチラチラ振り返り、嫌そうな顔をしている。
そりゃそうだ。
100キロ越えるであろう女が後ろの狭い通路で棒立ちしていたならば気になって集中できないものだ。
他の客も、なんだあいつ?みたいな感じでざわざわしてる感じだった。
「おい、さっきから何見てんだ?気になるんだけど」
隣りで打っていたおじさんがとうとう声をかけた。
女「この人の連れです。隣で打ちたいので、早く止めてもらえませんか?ずっと待ってるんですけど」
は???
隣りのおじさんと目が合う。
あからさまに迷惑そうな顔をされ、すみませんとだけ誤り、その女を静かな所に連れていき、話し合うことにした。
「さっきのはどういう事ですか?連れでもないし、後ろでずっと立ってるのは迷惑なんですが……」
女「私……ずっと待ってた。毎日きてたんだよ?
久々だね。会えてよかった。やっぱり運命だね。
一緒にいたいの。ねえいいでしょ?家すぐそこだから。子供は2人欲しいな。」
もう意味が分からなかった。
台をそのままにして、全力で逃げるよう店から出て、家が特定されないよう、細心の注意をはらった。
なんなんだよあいつは!!…………。
怒りと恐怖でブルブル震えていた。
この日をきっかけにもうあのパチンコ店には行かなくなった。
というのも転職をして、引っ越す事になり、もうあの女を忘れるようにしていた。
しかし、どうしてもその後が気になったため、友人に頼んで、そのパチンコ店に行って確かめてもらうことにした。
報告を聞くと、その女はいたらしい。
あの逃げてきた日からは3ヶ月ほどたとうとしていたにもかかわらず。
AKBの台を中心にキョロキョロ店内を歩き回っていたとの事。
店員にも聞いてくれたらしく
悪客として有名で、パチンコを打たず、開店から閉店までウロウロしているだけ、話しかけると、「彼氏が来るのを待ってるんだろーが!!!!」など、奇声を出すとの事で、近々出禁にするらしいとの事だった。
それから月日が立ち。
26歳になった僕は、今はパチンコはもうやめて、結婚もし、幸せな生活を送っている。
一番怖いのはこれが実体験だという事。
まだ、僕の事を探し回ってるんじゃないかと考えると今でも怖い。
つい最近、街中で、似てる女を見て、時々思い出してしまう。
作者ブラックスピネル