俺の住んでるアパートには、人形をベビーカーに置いて散歩してるばあさんがいる。
近所のガキどもはいろいろ言っているが、大人たちは一致団結して「何が悪いんだ!」とちょっかいを出すガキどもを叱っている。
その晩、ばあさんの部屋の扉の前に、人形が転がっていた。
なんだ、ばあさんと喧嘩でもしたのか?と拾ってばあさんの部屋をノックし、
「この子が泣いてるよ!」
と言うと、扉が開いてばあさんが
「あらあらあら、どうもありがとう」
とにっこり笑って引き取った。
俺は固まってしまった。
扉の隙間から、部屋一杯にぎっしり詰まった、膨大な数の、同じ人形が見えてしまったのだ。
その晩夢の中に人形が出てきた。
声は発しないが、俺がばあさんに届けたことをとても感謝しているようだ。
別にいいよ、と言ったら、あと五体人形がやって来て、器械体操とか演舞とか始めた。お礼のようだ。
これがまた実にキマっていて、感嘆の声が出てしまうほどだった。
しかしなにやら向こうで衝撃が起こり、人形たちは驚いてパッと散って、どこかに行ってしまった。
ついでに俺も目が覚めた。時計を見ると深夜だ。
寝ぼけた頭で、衝撃は通路で起こったことに気がついた。
少し扉を開けて通路を覗いてみると、一人暮らしのOLの部屋の前に、背広を着たマネキン人形が倒れていた。
作者吉野貴博
最近Twitterで #人形医 をテーマにした呟怖が面白くて少し書いてみましたが、なかなか難しいです。