短編2
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水商売での出来事

若いころ私は接待クラブのホステスをしていたのですが、こういうお店がある場所にはいわゆる心霊的な出来事が多かったような気がします。

そもそもお店のあるビル群は表の華やかな照明の分暗い影が強調されるような印象もありましたし、うちのビルの隣には小さな神社もありました。

そして、私が働いていたお店のママはおそらく世間で言うところの霊感の強い人だったと思うのです。

ある夜、ママが不意に水割りを作って誰もいないカウンターの奥の席に置いたことがありました。

何かあるのかなと気になっていたのですが、しばらくして確認すると誰もその席には近づいてはいないのに水割りのグラスは氷だけを残して空になっていました。

グラスを片付けるママにそれとなく尋ねてみると、あのお客様は暇乞いに来られたのよと答えて、あとは何も教えてはくれませんでした。

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こんなこともありました。

ママと私で予約されていたお客様をお出迎えに行った時のことです。

お店は3階で入口のすぐ横にあるエレベーターが1階から昇ってきました。

そのとき急に胃から何かがせりあがって頭に抜けるような気持ち悪さに襲われました。

お酒も飲んでいなかったので、何が起こったのかと混乱したのですが、隣にいるママが突然私に深くお辞儀をしなさいと促しました。

言われるままに揺れる頭を下げた時にエレベーターのドアが開き、中に一人のお客様の足が見えました。

しかし、そのお客様はエレベーターから降りようとはせず、その靴の向きからこちらに背中を向けているようでした。

「申し訳ございません」

ママは何かをお断りする言葉を言い放ちました。

しばらくのあいだお客様は動きを見せず、私はその間ずっと言われた通り頭を下げていました。

不快感の中で直感的にこのお客様を正視してはいけないんだと感じていました。

やがてエレベーターの扉はお客様を乗せたまま閉まり、下に降りていきました。

それを確認してママはもういいわよと声をかけてくれました。

ゆっくりと頭をあげると、不思議なことに先ほどまでの気持ち悪さは消えていました。

ママに何だったのか聞いてみると、商売柄もうあきらめているが、あまり来ない方がいい『お客様』も時々来てしまうのと言われました。

そして、お店に悪いものは持ち込んでほしくないし、そういうお客様にお引き取り願うのも私の仕事なのよと言って微笑んだのが今でも強く印象に残っています。

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@肩コリ酷太郎 様
水商売のお姉さんは男性のことを立てるのが非常に上手い方がいらっしゃいますし、化粧をすると歳が20歳は若返る方もいらっしゃいますよね。
今回のお話を教えていただいた方も作業着のときとそれっぽい服装のときとでは20歳違って見えます。
それに関しては私も熱中症になったぐらいに震えてしまいます。

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@こげ 様
ご感想ありがとうございます。
代役でアルバイトってそんなことも……いえ、ありそうですね。
私も水商売のお店には特に色々な念が集まりそうな気がします。
出入り口が一つ……なるほどあるかもしれませんね。
ああいうお店は建物の構造上かなり複雑な造りになりがちですよね。

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