一番最初に怪異に出会ったのは、小学校二年生の一月でした。
その日は、いつもより外が寒い日で僕と幼馴染のアヤちゃん、ハヤくん、エリちゃん、の四人で一緒に下校してきました。僕らは鍵っ子でその日もいつもと変わらない日常があると思っていました。
家の鍵を開け玄関へ入ると、祖母が飼っている金魚の入った水槽が最初に目に入りました。このとき僕は、ある異変に気付きました。
「あれ?一匹いない...?」
祖母は金魚を五匹飼っているのですが、水槽には四匹しか確認出来ませんでした。ただ子供ですから、そこまで深くは考えず早く部屋へと思ったときでした。
ギシッギシッと誰かが階段をのぼる音がしました。この日は両親も姉も祖母も出かけていていないはずでした。でも、もしかしたら姉さんが帰って来たのだろうと思い特には気にしませんでした。けど、なんだか奇妙な違和感があり、剣道場へ行くための用意中だったので竹刀を持って階段の方へ行きました。
このと妙な違和感がありました。家の中に家族ではない何かが入り込んでいる。私自身の本能がそう言っているのが分かりました。ギシッギシッ...まだ音が続いている。家の階段は、そこまで長くない。どれだけゆっくり歩いているんだ?と思いながら竹刀を構えて「誰かいるの!?」と叫びました。
冬という事もあり薄暗い家の中に僕の声が響きました。そして僕の目の前には、あり得ない光景がありました。階段を赤い着物をはだけさせた首のない女がいたのです。それが怪異とのはじめての出会いでした。
怪異は静かに階段を降りてきました。僕はその場に腰を抜かし、硬直していました。ですが目を見開いていた事や記憶力が良かったおかげか一部始終を覚えています。怪異は最後の一段を降りず、僕の目の前で止まりました。何かされる!そう思うと、また階段を登り始めました。
見逃してくれた...?そう思ったときでした。耳元で「お前じゃない...」と聞こえました。男とも女とも付かない声でした。そこで僕は気絶したようで、目を覚ますと祖母と姉が、僕の名前を呼んでいました。
二人が帰ってくると、階段のところで僕が白眼を剥いて倒れていたというのです。何があったのか聞かれましたが、どうせ信じてはもらえないだろうと思い、適当な嘘で誤魔化そうと思いました。すると祖母が「あんた、ところで金魚を一匹殺しちゃったのかい?ダメじゃないか」呆れた声で言いました。それは知らないと言うと、姉の部屋の前に死骸の一部があったというのです。僕は真っ先に「あいつだ...」と思いました。
それから、しばらくして反抗期を迎えていた姉が母と言い合いになり喧嘩が始まりました。最初は祖母が止めに入っていましたが、姉の暴れっぷりは凄まじく、仕事から戻ってきた父が止めに入りましたが「物凄い力だ!」と言うのです。そこで僕は裏に住んでいる叔父を連れてくるように言われ叔父を連れて家へ戻りました。父と叔父、二人掛かりでも姉を押さえきれていません。オロオロする母と祖母の横でその光景を見ていると、姉の背中にあのときの首のない女がいるのが見えました。ですが、どうして良いのか見当もつきません。そのとき頭に塩をまけと言う声が聞こえました。
無我夢中で僕は塩を探しました。ですが、僕が持ってきたのは神棚に祀られている神様にお供えした塩でした。最初、何をするんだと母や祖母は僕を押さえようとしましたが、僕は振り切って、姉の背中目掛けて投げつけました。すると姉は急に大人しくなりました。姉はなぜ、ここまで暴れたのか覚えていないそうです。
その後、僕は気絶した日に首のない女を見たことを話し、家族会議の末に知り合いのお寺にお祓いにいこうとなりました。普段は付いてこない父もその日は黙ってついてきました。まず首のない女の話を僕から話、姉の件を家族が話しました。すると和尚さんは、僕が見た女に原因があると言うのです。そして姉の部屋の前になぜ金魚の死骸の一部があったのかと聞くと目をつけたのが、姉だったからだろうとのことでした。そのあと和尚さんは、うちへやって来て「まだ娘さんの部屋にいます」と言いました。和尚さんは姉の部屋に両親と姉を連れて入り、お経を唱え、払ってくれたとの事でした。
その後は何事もなく家で暮らしています。ですが、この一件を皮切りに僕は怪異に出会う人生を歩むことになったのです。
了
作者ウルフ